表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/67

第十二話 雨降りやがて止む

ミル視点です。

 ミル視点。


「な! 逃げろマサト! 狙いはおまえだ!」


 あの時、手が届かなかった。


「じゃあ帰るわ」


 あの男は音もなくその場を消えた。

 足が早いなどとは違うその場から一瞬で消えた。(まばた)きやよそ見などしていなくても見失ってしまった。


「姫様! ご無事ですか!」

「私の事はいい! マサトが敵に連れ去れた、今すぐ連れ戻さなければいけない!」


 フタバがこっちに来るのが見えた。

 そうだ探さなくては...。唯一と言っても良い。私にとってただ一人の家族(眷属)を。


「落ち着いて今の状況を考えてください! そんな余裕は無いんです!」

「貴様らが来ないのなら私一人でも探しに行く…」


 フタバが私の腕を掴む。


「離せ…。離さぬというのなら怪我ではすまないぞ…」

「いいえ…。離しませんよ。今姫様を失っては事態はさらに悪くなりますから…」

「…。離せ…」

「嫌です。冷静さを失った姫様を一人には出来ません…! それにまだ最悪な状況ではない… まだ正人さんを助け出す手段はあります」


 こちらをフタバは強い意思を感じる目で見てくる。

 雨が降る。

 今日は朝まで晴れの予定であったはずがいきなり雨が振りだす。


「本当か…。私を騙すためについた嘘ならば…。私は何をしでかすか分からないぞ…」

「はい、姫様と正人さんには内緒でしたが... 監視用に正人さんには私の術を一つかけていたんです。少しお静かに…」


 フタバは何処からか現代では古い黒電話を取り出し受話器を耳に当てる。


「お! 通信成功ですね。正人さん? 大丈夫ですか? あぁ、頭で考えるだけで良いです。あ、すぐに慣れるとは。そんな感じで大丈夫です。ははは…、はい… そうですね、私があの時浅草駅で話しかけた声の正体です… あの時は声を変えてたから…。今は急を要しますから短めに状況を…」


 どうやら相手はマサトらしい。


「ほうほう、なるほど…。では命の心配は今のところ無いと。あーはいはい、目的不明と…。え? それはさすがに無理では? いやいや… 無茶せずおとなしく私達の到着を待っていてください! はい、それでいいんです。危ないとき以外一人で逃げようなんて考えないでください」


 私はただ会話が終わるのを待っていた。これはフタバの一人演技ではないかと疑いもしたが微かに受話器からマサトの声が聞こえる。


「あ、ちょっと話す相手変わりますね。はいお姫様」


 フタバは受話器を渡してくる。


「マサト無事なのか!? なにもされていないか!」


 『ミルですか…?』と驚いた声が聞こえた。マサトの声だ…。聞いただけで今までの焦りは消える。


「よかった…。生きててくれた…」

『…。ミル、僕は待ってますから…。最初に見る顔がミルの笑顔だって信じていますから…。だから… 泣かないで笑ってください』


 その場にいないのに声だけでここまで安心するものなんだな…。そっとほっぺに流れる涙を拭いてくれるマサトが見えた。


「泣いてなどいない… これは雨の音で聞こえずらいだけだ…」

『そうですか…。ミル… 待ってます』

「うん、待っていろ。おまえの主人は私だからな」


 「はい、そこまでです」と受話器を電話に戻すフタバ。


「いや~さすがにこれ以上話すと疲れますねぇ…」

「…。行くぞ…。結界の端に案内しろ…」

「おや? 正人さんを見つけなくて良いんですか?」

「…。マサトは強いからな… そう簡単に死なない…」


 あまりに突然の事で焦る気持ちもさっきまであった。だが信じることにしたマサトの事を…。

 待っているマサトを探す前に逃げ道が無ければもともこうもないだからまずは結界から片付ける。


「何をしている…。貴様らがいなくては誰が私を守ると言うのだ」

「そうですね…。では行きますか… 全員隊列を整え終わり次第、行くぞ!」

「はい!」


 その場にいる人間達が陣形を組んで私を囲む。


「では行きますか結界に」


 全員で進む。

 周りを警戒しながらもゆっくりと私には遅すぎるように感じたがそれでも結界までは5分ほどでついた。

 浅草の街は中心から離れるほど被害が少なく見える。人間も隠れてか気配はするが一人も見なかった。だが… 確実に死人は出ている。見えずとも呼吸音のしない人間の気配くらい分かる。


「いや~。20分もかかってしまったなぁ。まぁ正人さんは生きてると姫様の言葉を今は信じて結界をお願いしますね姫様」

「…。これは…」


 結界に触れて解析する。

 どうやらこれは術者となる者の血で囲った結界だ。人が通れるくらいの穴を開けて脱出と考えていたが…。どうやらこれは小さな穴でも開けようものなら術者に気付かれる結界だったのか…。


「まずい…。私が触れたことで術者に居場所を知られたかもしれない…」

「全員周囲を警戒しろ…」


 フタバの指示で人間達は警戒の陣形だろうか移動を開始する。


「それで… 結界は解けそうですか?」

「解くのは簡単だ…。だが… 解いた瞬間術者に気付かれる。結界を解いてからではマサトが吸血鬼に何をされるか…」

「そうですか…。では正人さんの救出に向かいます」

「場所は分かるのか…?」

「はい、私の術の監視が今も居場所を私に知らせてくれていますから」


 この女…。初めから居場所を知っていたのか。


「それを何故初めから言わない…!」

「いや~…。居場所を知っていると言うと… 姫様が私をボコってでも居場所を吐かせて現場に行きそうな状況だったもので…」

「…。それは… そうだな…。やっていないことだが… ごめん…」


 結界を後にしフタバに着いていく。

 走る中で吸血鬼の気配が近づくのを感じる。雨音の中飛ぶように走る音と血の匂いが近づく。


「おや? こちらにいたのですね原初の姫様」


  建物の上にいた女の吸血鬼が降り立つ。現代の人間でで言えば女子高生くらいの見た目をした女がフワリと着地する。


「…。全員姫様を守れ!」


 フタバを先頭に人間達が私を囲む。ちょうどここは遮蔽の多いところ隠れるのにはもってこいだ。隙を見つけて戦いを避けられるかもしれない。


「雨が鬱陶しいですね…」


 突然さっきまで降っていた雨粒が降らなくなる。雨が止んだのかと空を見ると結界が空を覆っていた。 


「うん、これで大丈夫かしら…。着替えたばっかとは言え服が汚れるのは嫌ですから...。ねぇ原初の姫様…」


 こちらをじっと見る吸血鬼こそが結界の術者か…。今回のは狙いが私だと言うことは分かっている。狙いが分かりやすくて助かるが… 気配からして三次覚醒した吸血鬼だ…。だがまだ吸血鬼の若者の気配もする、何故だ…。


「おまえは何者だ…。私を原初と知って狙う吸血鬼の仲間か!」

「いえ原初様。私達の事を知りたいのならおとなしく私に着いてきてくれません?」

「なるほど…。話さぬのか…」

「簡単な事ですよね? 原初様が大事にしている眷属は既に私達の元にいます。なら… 着いてきてくれますよね?」

「断る」

「なら…。しょうがありませんね… ゼル…」


 私の後ろにいつの間に男の吸血鬼が立っていた。男の手が私に触れようとする。


「命知らずが…」

「…! 術が出来ねぇ!」


 消えたと思えば、女の吸血鬼の横にまた現れた。


「なるほど… 転移… いや、視界に写る場所に移動する術か…」

「何だよ… もうバレちまうとは… さすがは原初の姫様だ! カカカ!」


 高笑いをする男の吸血鬼。ネタが割れても私以外には効くことに変わりはない。


「ちょっとゼル…。契約は忘れたわけではないでしょうね? さっさと原初様を連れてきてよ!」

「と言ってもお嬢様よー? 効かねぇんだよ俺の術が! あんたも見てただろう?」

「…。なら! そこの女を人質にして!」

「ほいほい…」


 瞬間的に姿を消す。だが今度は居場所は分かる。


「ざんねん姫様それは対策済みだ…」

「な!」


 私の一歩踏み出しただけの動きで察してか、男は突然周りに砕けた鏡の破片を空から撒く。

 その場で分身でもしているのかと錯覚する早さで移動する。鏡に移った場所に… いやちがう、それはフェイクで裏に血で文字の書かれた鏡の場所に移動している!。

 鏡は目眩ましも兼ねているのか…!。


「フタバ伏せろ!」

「少し遅い…」


 吸血鬼の男はフタバの背中に触れ一瞬で距離を離して女の吸血鬼の横にまた移動していた。フタバの男に拘束されていた。


「おっと暴れるなよお嬢ちゃん?」

「ちょっと! ひゃっ! どこ触ってやがるのですか!」

「カカ、それは男なら首筋だろ… 今にも噛みつきたいほど魅力的だぜ?」

「くっ! 私の事は良いから早く姫様を連れて一旦離れてバカお兄を探せ!」


 人間達は煙幕を炊く。


「行きましょう姫様…」

「そうだな!」


 私はフタバが捕まったことを何も心配すること無くその場を去ろうとする。


「姫様、ちょっとくらい心配してくれても… 正人さんの時と反応が違う!」

「おまえは強いから心配することはない…! 一人でも逃げられるだろ」

「逃がしません…」


 女の吸血鬼術か目の前に結界とは少し違う壁が現れた。


「邪魔だ…」

「な! 私の術を指で弾くとは…」


 これくらいの術は壊せる。結界も壊せたが… 壊せばこやつらに場所を知られかねないためしなかったが…。


「やはり脆いな… 行くぞ…」


 私達はその場を去ろうとする。

 奥から歩く音が聞こえる。また新しい吸血鬼かと警戒するとフタバと同じ色の服を着た男が歩いてくる。


「…。おい、そこの吸血鬼…。俺の妹に何していやがる…」

「お兄!」

「今すぐその手を離せ糞虫が!」


 フタバに兄と言われていた男は腰に着けていた刀を抜く。


「すぅ、はぁぁ…。不知火一閃…」


 男は一瞬で距離を詰めてフタバを拘束する吸血鬼の男の両腕だけを切る。


「死ね…!」

「くっ! あぶねぇ…」


 吸血鬼は男の胸目掛けての一撃をすんでのところで躱す。


「ち…。糞虫が…。28号無事か…?」

ニ八(ふたば)だよ! それは可愛くないから無しで…」

「そうか…。おまえが無事で良かった…」


 フタバを救出後男は吸血鬼二人からフタバを抱えて距離を取る。


「おい、今どんな状況だ…。俺がいない間に何があった…。おい、保護対象の男が一人消えてるぞ… 迷子か?」

「違うよお兄! アイツらに拐われたの!」

「…。なら、お前らで男の救出に迎え…。コイツらは俺が殺る…」

「無茶だ! 貴様がいくら強いと言っても三次覚醒した吸血鬼相手二人など!」

「黙れ糞虫…。今は俺が指示を出すことになってんだ…。おとなしく俺の指示に従え」

「な! 誰が糞虫だ!」

「…。あー…。行こうか姫様…」

「いや待て、こいつを一発殴ってからだ!」

「ささ行くよー姫様、皆も手伝って!」

「くっ! 離せー! 誰が糞虫だ!」


 私はフタバと他の人間に引っ張られ無理やり移動させられた。

 何なのだあの男は、自ら死にに行くようなものだと言うのに私の忠告を無視して…。糞虫と私を呼ぶとは…!。

 あの防衛大臣以上に嫌いな人間はでないと思っていたが…。怒りで一瞬だけ越えようだった。


「…。いい加減離せ。もう落ち着いたから…」

「そうですか」


 そして… フタバに案内されマサトの居場所に着く。


「でかいビルですね。人の気配はしませんが… でかい気配が上にいますね…」

「急ぐぞ…」


 フタバはビルの階段を行った方が良いと言いと階段を上る。


「ここです…。あの部屋に正人さんがいますね」

「よし…。行くぞ!」

「あっ! ちょっと姫様!」


 手加減はした。ドアを殴り開けたからか吹き飛ぶ扉。


「なっ! 何よいったい」


 女の声がした。近くにマサトもいた。


「ミル!」


「マサト! 私が助けに来たぞ!」


 目の前に無事なマサトを久しぶりに会ったと錯覚するほどの気持ちが溢れてくる。

 無事で良かった。

 だが…。


「その女は誰だマサト!」

「え?」

 最後まで読んでくれてありがとうございます。

 感想なども励みになるので待ってます


 長文ですみません。


 新キャラもどんどんと出してみましたが、二八を28号と呼んでたお兄ちゃんの名前は杜宮 (なぎ)です。

ゼルと呼ばれていた吸血鬼が正人くんを拐えたのは予め印を書いたものを別の場所においていたからで分かりやすく言うとナルトのミナトさんを参考にして考えました。基本原初の方が強すぎるので術が効かず弾かれてしまいます。ゼルさんも弱い正人くんの方から拐って次に会った時に隙を着いてミルを拐おうとしましたが失敗してしまったのはミルが原初で強すぎるからです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ