第20話くん
薄れゆく意識の中で叫んだ言葉は、確かに届いた。
そうだ、ぼくは『ヒーロー』になるんだ。
「受け取ってえ、トキシゲちゃああーん。それがあなたの『アイコン』よぉおお」
テンチョーはぼくに向かってなにかを投げた。
ふわりふわりと飛ぶさまは、ぼくにはスローモーションのように見えたよ。
オカマがぼくに投げたものは、ベルトだったんだ。
バックルが大きい、あのヘンシンベルト。
それを受け取ろうと、ぼくは黒タイツにもみくちゃにされたまま必死に手を伸ばした。
びゅん。
走り抜ける一陣の風。
無慈悲な一撃は、そのベルトを弾き飛ばしてしまった。
「おっと、なんだか知らないが、面倒なことはするなよ」
ぐへへと笑うピエロ野郎。ぴしっと打ち鳴らすムチの音。
髪をつかまれた女の子の悲鳴が聞こえる。その手はまだ、ぼくに向かって差し出していた。
テンチョーが黒タイツどもをぶんぶん投げ飛ばしているけど、とても間に合いそうもない。
ぐぅぅ。
《テンプレ『美少女の危機』・・・達成》
首を押さえつけられてて呼吸が苦しい。
じゃりじゃりした鉄の味がする土を、ぼくは吐き出した。
げほげほっ。
視界はかすみ、はしっこが暗くなってきて、なんだかよく見えないよ。
足の感覚はなくなり、自分の足じゃないみたい。どこに親指があるのかもわかんないや。
胸の辺りがどくんどくんと脈打つたびに、熱がじんわりと広がる。
はあ、あったかい。
このままじゃ、彼女は。
ぼくは、また、誰も救えないのか。
そんなのいやだよ。
あの手を離してしまうなんて。
また、あんな思いをするなんて。
あぁ。
・・・。
???
わふっと臭い息がぼくの耳にかかる。
ゼペット!
足を引きずったゼペットが、くわえたベルトをぼくの手にぽとりと落とす。
「ほらよ、トキシゲ。落としもんだぜ」
《テンプレ『相棒の決め台詞』・・・達成》
遠くでオカマの絶叫がした。
「『アイコン』に願うのよぉお。あなたの想像をぉぉ」
ぼくは・・・。
ヒーローになりたい!
なりたいんだっ!
子供の時から、幾度となく繰り返したイメージ。
身を焦がすほど憧れた、あのイメージだ。
《ロール『ヒーロー』よるワールド『イマジニア』改変請求・・・許可》
《ロール『ヒーロー』・・・シンクロ率規定値突破》
『ヘ・ン・シ・ン!!!』
爆音が遠く海の果てまで鳴り渡り、まばゆい光はほの暗い森の底を照らし出す。
ぎゅいぃいいーん。
このとき、ぼくは本当にヒーローになった。
ぼくがあの子を救うんだ。
そして『ぼくの思い』を、救うんだっ!
《ワールド『イマジニア』にロール『ヒーロー』が顕現しました》




