2011/04/01 名状し難いレベルで常人と違う思考回路というのは存在してしまう物だ。
「アレ〜」
肌けた体、しかしやはり傷はない、股が濡れている気はするが…漏らしただけだろう。どうと言うことはない、あの一瞬見せた表情自体は嘘ではないが俺が思っていたよりもそして想像していた通りに彼女はピンピンしていた。
俺は消えない武器を片手にズンズンと近づいていく。俺ではなくステータスを見ているのだろうこのバカが何故あんな事をしたのか聞きたかったのだ。いや、寧ろ聞かなければならなかった。もはや期待も何もないが俺の知らない事を知っていそうだし、もしかすると俺よりもずっとこの状況の核心に迫っているのかも知れなかった。
「オイ」
「ンヒィ!あ、なんだ〜びっくりしたじゃない。」
武器に怯えはない、コレがなんなのかわかっている。いや、まるで違う。こちらを向いている様で見ていないし、自分の何かに絶対の自信がある。
ソレに怯えていないんじゃない、こいつは…
「ねぇ、きみ強いね、名前は?」
「答える義務はない、ソレに意外と元気そうじゃないか心配して損した気分だよ。」
ジッと見つめてくる。良く観察しなくても俺の中にあるのと同じ様な力が女生徒の目に集まって行っていた。…5秒くらいだろうか、漸くこちらを見ていた女生徒の雰囲気は一変した。
「どう…して?」
怯え、恐怖、疑心、不安、一気にそう言ったものが溢れてくる。
「何がだ。もしかして俺が全くもってお前に影響されていないのが可笑しいのか?」
「っ!『顕現』!」
高速で振り抜かれた…特殊警棒の様な棒、しかしどうにも遅い俺は棒を掴み止める。そしてソレが俺の手から抜けないことにさらにヒステリックな声をあげる。
「どうして!?私のステータスで振り解けないのっ!」
「知らんな、そもそもなんなんだお前そんなに高レベルなのか?」
焦りからか武器の出し入れすらままならず踏ん張りが効かなくなって女生徒は後退り壁に背を思い切り叩きつけた。
「おっへ!?」
「おいおい、女の子が出していい声じゃねぇぞ?」
さっきまでの儚げな感じが嘘みたいな無様さだ。ま、こっちが本性、というか素なんだろう。本物と長いことつるんでたのもあって不自然さは見て取れていた。だがどうにも…あらゆる感情の発露が嘘くさい、隠し球でもあるんだろうが…とりあえず問い詰めてみるとしようか?
「自己紹介ってのは初っ端から聞くよりも最初に名乗った方が名乗らせやすいって知ってるか?」
「…」
「神足人吉、新入生だ。先輩、あんたの名前は?」
「…ハァ〜、久世、久世霞2年生よ大いに敬ってくれて構わないわ。」
久世…どっかで聞いたな、確か…
「『教師殺し』のカスミか、確かにいたなそういうの。」
容姿端麗、というには些か幼いがしかして世の男性と言うのは大変に簡単に引っかかってしまう物らしい、彼女の手口は所謂ハニートラップ、グループに混じってはその輪を破壊し次第に標的は同年代から大人へと変化していった。確かに聞き覚えのある声だ。良く取引させてもらった物である。
「…そういう貴方は『情報屋』ジンキチね、有名よぉ〜?ま、あの仲良しグループとはそのうち別れることになってたでしょうけどね。」
「そりゃそうだろうな、あんなクソどものお守りなんて目的がなきゃやんなかったさ。」
…そうは言っても傷ついたことは傷ついた。
それはさておき、この女は色々としっちゃかめっちゃかにして楽しむ様な人間ではあったが此処まで体を張って何かをする様なタイプだっただろうか、いや、違うな、こいつはこいつで色々と面倒なやつだったと記憶している。
「それでぇ、例の情報や役に立ててくれたわけぇ?」
「勿論、お前さんのクソみたいな趣味のおかげでこの学校の教師を掌握するのはだいぶ簡単になる予定だったさ。」
「ンフ、残念ね、なんの役にも立たない紙切れになっちゃって。」
対価はウチのグループのスキャンダルやら周辺情報、まぁいつかは潜り込んでどうこうするつもりだったんだろうがあの腐女子以外は皆こいつと同じ様な理由であいつに近づいたが最後惚れさせられていたからな、どうせ同じ末路を辿ると思い色々とリークしたわけだ。
「んでだ。お前、何を企んでた?」
あえて過去形で聞く。
「何のことかなぁ?別に何も…とか、言っても意味なさそうね、はぁー絡む相手間違えたわ。」
…斧を振り抜く。カスミの背にあった壁が消失し体重を預けていたカスミは後ろに倒れそうになる。俺はカスミの手を適当に握り問いかける。
「それで?」
「っは?え?何?なんなになんなの!?」
「答えれば助けてやるよ、そうじゃなきゃ死ぬ。簡単だろ?」
そもそも今の状況でこいつを生かしておく理由は実はない、だってこいつの言った通りこいつの持っていた価値はこの学校の崩壊、あたらしいルールの上では何の役にも立たない紙切れ同然なのだ。そして何よりこいつは元から人間の風上にも置けない様なクズだった。円満な家庭を持つ教師を執拗に狙い、あたかもそうであるかの様な写真や音声記録を自ら作り、それをネタに色々と愉しんでから潰す。小学生にしてそれだけの才覚を発揮してしまっていたこいつはいつかきっと取り返しのつかない化け物になるだろう。
今の俺も非常に危険な爆発物そのものだ。正直、自分でも引くぐらい内面と外面が乖離してしまっている。だがこれもこれで俺の一面なのだろう。こういう性格を分かった上で俺はあらゆることが恙無く進む様に計画し、暗躍し、実行してきた。こういうイレギュラーは苦手なのだ。
「っへ、っふ、っほぉぉ!こた、こたこたえる、こたえうからぁ!」
「ああ、是非答えてくれ。」
一瞬手を緩ませてみる。
「ん!ヒィぃょ!わ、私の自我兵装は『遠眼鏡』と『視覚拡張』!レベルは10!」
「へぇ…それで、何ができて何をしようとして何をしてきた?」
ブラブラと腕一本で支えられた彼女を揺らしながら問いかける。
「くっふ、くひぃぎぃ!み、みる事をトリガーに簡単な催眠、挑発、透視、性能看破ができてぇ!さっきはあんたを見つけたからゴブリンを適当にけしかけて近くで経験値をもらおうとぉぉ!?」
「ほらほら、早く答えないと落とすぜ?」
「アンタぁ…そんな性格だったっけぇ!?」
「ん?」
「ぐぐぐぐぐっ!覚えてなさいよ!まじで!…漁夫よ、あたしを助けてくれるならそれはそれで、途中でやられちゃうなら残ったやつを倒してたの!悪い!?」
…まぁつまりそういうことだ。究極の自分本位、自分が良ければ万事よし、人間の欲の根幹に最も近い生物がこの久世霞なのだった。
「よし、ありがとう。」
「ほら、あげなさいよ。」
ああ、勿論。
俺は彼女を持っていた手を振り上げ、そして離した。
「ふぇ??」
「よかったな、ちゃんと上げてもらえて。」
「えぇ、ほんとにね?」
ギィン!
俺は振り返らず鉈を振り抜きナイフを弾き飛ばした。
「ふむ…さっきの忍者の分身みたいなもんか…いや、違うな俺自身に何かしたか。」
「っ…化け物すぎるでしょ、コレでレベル5とか世の中の格差が酷すぎるわねっ!」
唇を噛み痛覚刺激を発生、すでに少ない防護点が更に削れるが俺にかかっていたモヤは消えた。どうやら彼女の自我兵装は目に関するというのは確からしいがそれ以外にも条件を満たせばこちらのステータスを窃視したり、軽い思考誘導程度なら可能らしい。嘘とほんとが適度に入り混じった合理的な虚偽、とてもただの中学2年生とは思えない芸当だ。
「なかなかの使い勝手じゃないか、いい術だ。」
俺は目を瞑りながら体捌きだけでナイフと棒をいなしていく。
「あっは!まじ!まじで!?なんか武術の達人だったりするわけアンタ!」
「いや、特には?」
だがまぁ、普段は3割程度の力で生活しているよ必要ないし、あのグループを維持するには奴の引き立て役が必要だったからな。というかそんな事言う割に彼女の方の動きには所々理論が垣間見えるコレは…
「棒術と剣道、薙刀か。」
「何で!見抜ける訳ぇ!?」
刀術もか、何だこいつ調べた限りではただの性格破綻者だったんだが…武術経験があって人間性腐ってるとか道徳の無力さを感じざる得ないな、ま、スポーツ選手も犯罪を犯すしスポーツや武道の経験が人間性の構築に関わるとか偏見でしかないがね?
「っ!」
俺に攻撃をさせないつもりなのか息一つ入れない連続攻撃、棒術とナイフだけでなく瓦礫やガラス片の投擲も行われる様になっていく。
…何、忍者の末裔かなんかですかね、今日は忍者エンカウント多い…多くない?
「おっと、手癖もなかなかだな。」
「だから!何で目を瞑ったまま無拍子を避けられんのよっ!」
音もなく意識の隙間に入ってくる歩法…やはり忍者か…
「人間がどれだけ煩いか考えたことはあるか?」
「はぁ?」
人間と言うのは自分たちが思っているよりかなり雑多な音を発生させている。
「呼吸、心音、衣擦れ、移動による風切り音や髪の靡く音、筋肉の伸縮…あらゆる動き、生きていると言うことそのものに音はついて回っている訳だ。」
「…そうだとしてもそれら全てを聞き分けて必要な情報に整理するのには人間離れした能力が必要よ、もしアンタがそれを持ってるんだとしても私の偽装は完璧なはずよっ!」
そう、確かにそうだ。
きちんと聴けば人間の耳でも周囲がどうなっているかくらいはわかるし、人間の、特に武術や武道といった格闘術、武器術の類はそれすら利用して欺瞞する。だが…
「何、常に一定の欺瞞しかないならばそりゃただのパターン変化に過ぎない、遅延も加速も一定の条件とリズム内で発生しているなら予測すればいい、オマエの技術ってのはその程度でしかない…完璧ってのは…」
俺は一歩踏み出し態と攻撃の範囲に入り込み二歩目を出さず前傾姿勢と音で間合いを殺し切ったかの様に錯覚させる。距離を詰められたと感じた彼女は棒で牽制しながらナイフに投擲で距離を保とうとするが…
「残念、そこに俺はいない」
「っ!ばっ!?」
彼女の棒と俺の斧、間合いはこちらが遥か上、前に行った様に見せかけた俺は1人でに間合いを開けた彼女に向けほぼ全力で斧を振り抜いた。
俺が行ったのは単純な歩法とも言えない様なコケ脅し、こう言ったものは基本的に袴による足元の欺瞞や勢いで成功しやすいと言う利点と一度使えば三度目には見切られる。と言う不利点がある。
選択肢があると言う事で相手を圧迫できるが二度目にはそれも把握される。同じように心音や呼吸の偽装もあると分かってるならばその先を予測するのは容易であるし、逆に今まで一度も経験していない偽装は完璧な効力を発するのだ。要は高度な技術でも初見殺しじゃなければ怖くないと言う話だ。
遠心力と筋力で加速した斧は容赦なく彼女に迫る。当然ながら彼女後ろ跳びをしてなおその射程内に入り込んでしまっている彼女にできることは少ない、そこで彼女のとった行動は空中での姿勢制御と武器による防御を試みると言うモノだった。
ゴリっと言う手応えと共に遠眼鏡が破壊され俺の腕は彼女の体に刃が食い込む前で停止した。
「ふむ、なるほどな。」
目の前には立ったまま意識を失った彼女の姿があった。どうやら自我兵装という名に相応しくコレらの武具は自分達の魂の発露、精神的な何かを実体化させた物らしい、故に砕かれれば…
「っと……何で俺はこいつを支えたんだ?」
意識を失う。天晴れと言うべきかこいつの体に刻まれた経験故か彼女がバランスを崩すまでおよそ10秒、人間が意識を失ってしかも着地までした後に立っていられた時間にしてはかなり長い…こいつは、実は俺が知っている情報とはまた違うモノを持っているのかもしれない、だがどうだろうか、それは俺に何か意味を持つのか?…正直、特に何の意味もないだろう。こいつが強かろうが弱かろうが、それに何か理由があろうがきっともう会うこともないだろうし、会ってもこんな風に戦った以上ギクシャクするだけだろう。
…最初から、彼女が変なのはわかってた。それでも助けようとしてしまったのは俺が単純だったからか、それともまだ決意が曖昧だからか、人を嫌いになるのは難しい、俺は彼女を横たえ上着を被せ机と椅子でバリケードを作って座り込んだ。
「少し…疲れたな…」
だが、久々に心躍るような戦いだった。最近は何をするにも引き立て役として周囲に気を配らなければいけなかったが自分の力を全て出し切るような、自分の全てをぶつけられる様なのは…やっぱり楽しい。
右肩に突き刺さったナイフを抜き戦利品として持っていくことにした。
『コウタリジンキチ lv5
肉体性能 100+40
精神性能 100+40
特殊性能 150+40
振り分け点50
総計470+50
防護値25/70
精神値10/70
経験値0/100
自我兵装
変則変形斧鉈『X −cution』
-変形鉈
-変形斧
等価値変換術『X −change』
-等価変換 消費 0〜X
-EX 経験変換 消費 瀕死の敵対者
-性能変換 消費 経験値or性能値
-圧縮変換 消費 10
拾得物
教科書(数学)
兵糧丸×5
new折りたたみナイフ
-女子ウケしそうな小物に偽装されたナイフ、持ち手のデコレーションがグリップとなり持ちやすく。よく観察すればファンシーな色に塗装され布が貼られているものの堅い木製の柄と本格的な鍛造刃の古風な小刀である。
』




