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シンビが目眩で倒れかけてから数分、原因となった総司とエレノアールは正座させられ縮こまっていた。
「とりあえず状況を整理しましょう」
「「はい」」
「まずは些細なことで言い合いになったと」
「「悪いのはこいつです」」
「おだまりなさい」
「「はい」」
「で、主従契約の話にさしかかかったときにこの本が光ったらこうなっていたと」
「「はい」」
「・・・まったく」
シンビはため息ながらに問題となっている本を叩く。
「不幸中の幸いだったと申しますか、このタイミングで神のいたずらともとれませんが・・・まだ本契約でなかっただけ良かったです」
「?」
疑問符を頭上につくり、首をかしげる総司にシンビはその本を手渡す。
「これは『獣族でもわかる簡単魔法施行術初級』と言う本でエルフなら誰しもが最初に携わる参考書です」
その説明を受け、総司は本をペラペラと流し読むが一向に内容は頭に入ってこない。早々に諦め本を地面に置くとシンビは再度その本を手に取る。
「まあ、これはエルフ特有の癖のついた本ですからね。こんな題名とは真逆に多種族の方にはそうそう理解できないかと。まあ、それはさておきこの本の中に擬似主従契約というものがあります。姫様とあなたの口論がこれにひっかかったものと私は推測します」
シンビは本のページをめくり、とあるぶぶんを総司に見せる。そこにはデカデカと『大人になる前に経験してみよう!主従契約』と書かれていた。
「なにそのエロ本の売り文句ともとれない書き方。子供の頃からこれ読んでるとか若干引くんですが」
「そこには同意しますが、大事なのは中身です」
そう言われ、もう一度、本のページに目を落とす。そこには簡潔な擬似主従契約、いわゆる仮契約というものについてかかれていた。
「簡単な口約束をもとに授業の一環として契約を体験するというものです。これは本の意思で容易にこなせるとされたものだけで契約がすませれます。その契約で結んだ条件を満たせばその契約も破棄されるはずです。そこであなた方の口喧嘩を思い出してください」
そこで正座をした二人がお互いにとばした罵倒を思い起こす。
「それを実行してください」
「はぁ!?」
勢いよく飛び上がる総司。それもそうだ。自分がとばした罵倒の内容はエレアノールを認めることを条件に靴を舐める、土下座するなど多種多様の謝罪が含まれていた。そして従者側になったのは自分である。つまるところ、それを実行するのは言葉を出した自分ということだ。
「無理無理無理無理。死んでもいや」
「じゃあ、死にますか?」
「それも嫌です」
首もとにナイフを突きつけられ、すぐに観念する。
「じゃあ、二人の口論の中でありえそうな候補をあげていってください」
「そうだな・・・俺が了承したのは靴を舐める、土下座する、犬になる、お付きの騎士になるってとこか」
「よくもまあそんなに」
「あ、あと魔女の討伐ってのも言ったかな」
「はあ!?」
シンビの表情が呆れから驚愕に変化する。
「最悪です。もし最後のが契約にあげられたのならば叶えるのは相当困難になるでしょう。なぜそんな事を」
「なぜってー
「姫様ぁっ!」
城には似合わない大音量の声と馬でもかけてるのではないかという足音が総司の台詞を遮る。
「ご無事ですか姫様!」
「アルフィード。礼儀にかけます。ノックくらいしなさい」
「姫様!お怪我はございませんか!」
シンビの声も無視してものすごい剣幕でエレアノールに迫るアルフィード。何事かと驚愕を隠せずにいるエレアノールの体のあっちこっちに触れ、なにかないかとそれこそ鬼も引くような形相でしていく。
「御無事なようで何よりです」
ある程度の確認がすんだあと、ほっと安堵の息をこぼすアルフィード。なにがなんだかわからずじまいのエレアノールは助けを求めるようにシンビに目を向ける。
「アルフィード近衛兵。何が有ったのですか?」
「これは御無礼を申し訳ありませんシンビメイド長。そこの下賤のものが姫様に無理やり迫ったと聞いたもので、このアルフィード。飛んで参った所存であります」
「あんたの騎士。意外に熱血系なのな」
「というより、過保護って感じよ」
ひきつった笑みを浮かべ小声で話す二人に鋭い眼光と剣先が向けられる。
「これ以上の無礼は許さんぞ下賤の者よ」
アルフィードはレイピアに似た細身の剣で威嚇する。その目線は総司を分析するように頭から順々に下に降りていく。そして、右手の甲の部分で止まる。そこには先程の仮契約で出来た紋章が。
「貴様・・・許さんぞ」
「んなことを言われても」
「お前が姫様を脅迫し、地位を手にいれるために一番の騎士になったというメイドたちの噂は本当だったようだ」
「んな事実はねぇよ」
「今すぐその腕を切り落としてくれよう」
「ほんっと話聞かねぇなお前」
アルフィードは左手にしていた白い手袋を総司の顔面に向かって投げつける。それを見事顔面でキャッチする総司。それが落ちたとき総司の顔はにこやかだったがその額には青筋がうかんでいた。
「決闘だ。私が勝てばその腕を切り落とし、契約を破棄してもらう」
「俺ももう一方を義手にされたんじゃたまんねえかならな。受けてやるよ」
二人の間に飛び散る火花。シンビとエレアノールの二人は目を丸くして、まるで話についていけていないグリズベアたちはまるで赤子のような無垢な表情でその光景を眺めるのであった。




