二十三、星宿
暗くなるのを待って、凛は星を眺めていた。
星宿は春より夏のが賑やかだと思う。かなり暖かくなってきたが、
まだ空を見上げると、夏の形では無い。
今日は雲がなくて、星宿がよくわかる。房宿、心宿、尾宿は形が追いやすい。
春より夏の方が星は面白いし秋より冬のが見つけやすかった。
彼国で帝と呼ばれる動かない星がある。
そのすぐ下に北斗が見えていた。
彼国の星宿図はここでもそれほどズレてはいないと思う。
そもそもこれを書いた人は彼国の何処で描いたのか。
彼国の中とも限らないが。
「凛。」
振り返ると碧が立っている。
「気分はどうだ?」
「もう平気。最初は何が起こったかわからなくて頭が痛かったし、
気がついたらお腹も痛かったけど。」
「気脈の集まってるところだからな。」
「碧が助けてくれたって聞いた。ありがとう。」
「いや、少し遅かったな。無事で良かった。」
まだ左足を少し引き摺っているように見えた。
碧は横に座って、星宿図を眺めた。
「木に書き写したんだな。」
「うん。無くしては大変だし。」
「星でも明日のことを占えるか?」
「ううん。どうかな。
組み合わせて占ったりするらしいけど、
詳しくはね。カラが新しくくれた星占の巻は結構長いのよ。」
図を指さして、
「心宿は赤いから見つけやすいし、
熒惑が心宿に入ると戦乱の兆とかは、分かりやすいと思うけど。
天は毎日動くから。」
「月蝕なんかはわかりやすいよな。星は小さいものが多い。」
「カラは旅が長いから、北を見るのに星を良く使うっていってる。」
碧はふっと笑う。
「カラと近しいな。」
「え?う、うん。旅からふらっと帰ってきて色々教えてくれるのよ。
相生さまと昔から友人なんですって。」
「相生殿と昔から?」
「どうしたの?」
「いや、どのくらい昔を知っているかと。」
「うーん。歳はきっと相生様もカラ様もあまり変わらない?」
相生様は月の根国生まれ。カラ様は彼国生まれではなくて
水の里のはずだけど。ずっと前の代に彼国の寒い所の方から船でたどり着いて、
普通は、天府の西側の陶氏の里から此の国に入るけど、
北側からつまり、御山の影ができる方から入った一族と聞いてる。
相生様は馬が得意だからそのあたりで、知り合いなのかしら?」
「良く未だわからないな。」
「碧は?御山の生まれなの?」
「いや。俺が知っているのは、何処かで生まれて、天狗の里に預けられた。」
凛は、天狗の里にも、事情のある者も住んでいるのだと思った。
里にも親がいない子はたくさんいる。
「相生殿は赤子の俺を知っていると言っていた。」
「前に、旧知の知り合いみたいに言ってたね。
経緯を聞いたことは?」
「ない。この暮らしが特に不満ではないしな。」
「知りたくはないの?」
「どうだろうな。生みの母もいるはずだがな。
天狗の里で天狗の家族に育てられたからな。」
二人で夜空見上げる。月は満月を過ぎて、細くなってきて、
昨日より星が良く見える。
北斗の柄が東より南に向き始めていた。




