二十ニ、鏃
「手引きした者がおるな。」
里の様子をぐるりと見て周り、
克勝は落ち着いた声で言った。
けが人は出たが、里の死人は出なかった。
襲ってきた賊は途中逃げた奴が三人。
残り四人は捕らえる過程で死んだ。
最後の吹き矢に当たった奴は矢に施された毒で泡を吹いて死んだ。
拿捕の玄人ではない里者に生きたまま確保させるのは無理だった。
問題は凛であるとわかって
狙ったのか。知らずにただ単に若い女子を狙ったのか。
襲われて馬に引き上げられそうであったのは、若い女子ばかりではあった。
襲ってきた賊。
皆顔に朱色の絵が施してあり、
灰族かと思ったが、なぜ灰族が水の里狙う必要があったのか。
それとも灰族ではないのか。
確実なのは壊れた塀が、外からではなく内側から引き剥がされていたこと。
これは里の中の者が引っ張って壊す以外ない。
相生とカラの話では門から入った賊はいなかったのだ。
それにしても馬が通れるほど壊すのは中々大変だ。
一人の仕業ではない。
なぜあの塀だったのか。
壊す塀はどれでもよかったのか。
カラは手にしていた矢の先を見せた。
克勝は目を見張る。
「これをどこで?鏃が鉄だな。」
カラは頷いた。
そばにいた相生も駆け寄った。
「な。あの時と同じか?」
空気が一瞬止まった。あの日、
彗星が来た年、阿太を追いかけた天府の軍が打ち込んだのも鉄の鏃で、
あれから何十年と時が経っているが、未だに鉄の鏃を手に入れられるのは、
天府の限られた者だけだ。
灰族が天府と手を結ぶなどあり得ないのだ。
相生は以前、灰族の領地に踏み込んだ時のことを思い出した。
カラが言っていた伝説がその通りなら、
灰族の天府に対する恨みは深い。
神話の時代に月の根国の始まりと同じくらい
今の世の根底に流れる意識。
「灰族を騙った、天府の息のかかった者だな。」
皆、暗くなりかけた部屋で一様に頷いた。




