表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぬば玉  作者: しんげつ
2/31

ニ、水の里

滝が流れる音がする。


凛は不規則なその音を聞いた。

水の音はいつも聞いているから、違う音が小さくても耳に届く。

何かが歩いている?

凛は歩いている道から滝から繋がる川を覗く。

特に何もいない。そろそろ冬眠から目を覚ました猪や熊が動き出す。


染物や洗濯に行く時には気をつけるようにとと様から言われたばかりだ。

いつもは一緒に行くかか様は、ばば様の調子が悪く、川向こうの村に行っている。


ガサガサっと右上の山側から音がする。

(いのしし)

凛は猪に対峙してしまった。

「あ。」

走って逃げてはいけない。

目を合わせてもいけないのに、つい、自分の目線の先に猪を捉えてしまった。

しまった。

ゆっくり後退りをする。猪を刺激してはいけない。彼らは山神であり、

攻撃などしてはいけない。

ゆっくり後退りをしているのについてくる。

ガサガサ、一段と大きな音がする。

大きい。

先ほどより大きな母猪と一目でわかる。

二匹がこちらを向くと、凛は動けなくなった。

高いとこへ。確か高いとこへ行くのよ。

とと様の言葉を思い出す。

何とか後退して、右手が崖に届く。

何か太そうな(つる)に手が引っかかる。

どうしよう。

左手の川に走って飛び込むか?飛び込むには離れすぎている。

蔓を使って崖を這い上るか。

目が離せないままグッと蔓を引く。強そうだ。

ググッと崖を登る。

せいぜい五歩もあれば、岩のくぼみにいけそうだ。

くぼみに手をかけて、這いあがろうとした瞬間、

蔓が岩場から離れる。

「きゃあーーー」

ガクン!

岩場の横に宙ぶらりんで捕まっていた。

息が詰まる。

手に蔓を何とか巻きつけると

小石が上から降って来たのに気がついた。


「捕まってろよ!」

上から誰かが引っ張っている。

凛は何とか両手で蔓を握りしめると、

握りしめた手首をグッと掴まれた。

ハッと見上げると、ひっぱりあげようとしているのは、行者の男の様だった。


バサっとひっぱりあげると二人は土に撃ち受けられる形になって、同時に

「あいたた。」

と足を(つか)んだ。


下でガサガサと音を立てて、猪は川辺へ降りていく。

「助かった。ありがとう。」

「いや。猪を見つけて追っていたら、人間がいるから。

どうするのかつい見てしまって、悪いな。もう少し早く助けるべきだったな。」


「え?見ていたの?」

そうか、先ほどの音は猪じゃなくて、この人。

良く見れば、行者なのに、肌の色が白い。

怪訝な顔をすると、

「普段はここまで降りてはこない。脅かして悪かった。」


くるりと背を向けて、走り出す。髪は束ねられていて、

行者でも里の服ではない

と感じる。

彼の朱色の袴が脳裏に残った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ