十六、垓月王
豊祈祭が無事に終わり、垓月は心なしか身体が軽くなった様な気がしていた。
春の豊祈と秋の新嘗祭は重大行事で
天帝に会う機会でもあった。
机上には竹木簡が並んでいた。
しばらく皆のやり取りをみる。
大抵は克勝と母の鏡の父、麻継が捌いていくから、
若い垓月は頷くだけでも良いことがあった。
天府への貢の話だった。
隣に控える叔父の綾人が、声を大きくして話に加わる。
「克勝どの。天府の大臣に舞の献上を約束しておられましたな。」
聞いていたのか
という顔で
「そうだが?」と答える。
「天帝は先の舞手の最後に舞った女にご執心だとか?」
少し崩れた笑いをする。
「天帝の気まぐれであろう。」
父の麻継は何を言っているのだという顔をした。
綾人はなおも
「何故あの女は献上されなかったのか?」
と聞いた。
克勝はすぐに答える。
「舞は御山の神へのもので天帝への献上ではなかろう。」
「最近、帝は特に美人を集めて後宮は賑やかだとか?」
克勝は綾人の意図が判らず、
黙した。麻継も流石に何も言えない様だった。
垓月はこの手の話は苦手で、王にしては優しすぎる質だった。
「いや。あちらに何人も舞手を送るのであれば
一人、天帝がお気に召す者を献上されたほうが
このクニのためには良いのではないかと思ってね。」
若いな。
克勝は麻継を見た。
麻継は呆れた様に首を振ってから、
少し青い顔のの垓月に向かって、
「お耳汚しをしまして申し訳ない。ご放念下さい。」
「天府の大礼で舞の献上をするもの達は向かわせますので、
ご安心ください。」
と克勝も付け加えた。
「ご執着の舞手とはあの最後の?」
と聞いた。
垓月が覚えていたことに驚いたが
「そうだと思われますが、天府の友野大臣に直接話をつけておりますので
とくには問題ございません。
後宮のことは大臣と正妃の和仁様が取り仕切っていると聞いております。」
気は優しいが頭の良い垓月は、具体的な名前に
安堵したようだった。
「天府と揉め事は代々忌むべきことだからな。」
「しかし、天府と繋がりを持つのも大事では?」
綾人はなおも食い下がる。
「綾人よ。何故今そこにこだわる?
帝のお戯れだ。」
「何が欲しいのだ?」克勝が宰相もつ独特の気を張り巡らせて尋ねた。
気圧された綾人は
「あ、いや何、国家の安寧のためを思っただけだ。」
線の細い垓月は
「思ってくれてうれしいよ。」
と穏やかに言った。




