第17話
ダークエルフときたか。奴らはエルフ族とは違い魔に魅入られた人外だ。森と共に生き、人間を喰らう存在……。
恐らくだが、奴らがこのダンジョンの進化を促した存在なのだろう。
それにダークエルフは【植物魔術】という古代魔術を扱ってくる厄介な存在だ。
人類も古代魔術をかつて使えていたみたいだが、言語が現代語に統一されてから500年。忘れ去られた言語を使う古代魔法の知識は潰えてしまった。
そんなことは今はどうでもいいな。それよりも厄介なのがこいつらダークエルフが【森の息吹】を食った可能性がある点だ。
この辺りで待ち構えていたと言うことは私達人間がここで死んだ人間の死体を回収しにくる事を見越した待ち伏せ。
やはりダンジョンというやつはどんな手を使ってでも私達人間を殺しにかかってくるんだな。
ダークエルフの1人が弓を絞り矢を射る。狙いは……ジーナか!
「【ガガンド!】」
地に手を置いて唱えた呪文。ジーナの目の前の地面が積上がり矢を防いだ。
「え、こ、攻撃!?」
「ジーナそこを絶対に動くんじゃないぞ」
「あ、ああ……」
こいつら。ジーナを格下と見るやすぐに攻撃してきやがった。それに、今の一瞬で木の上にいた奴らの数が減った……。散開して気配を消したと言ったあたりか――
「ヤゴラ・アエガスマットッ!!」
背後からダガーで切り掛かってくるダークエルフ。今ので仕留めたと慢心したのだろうが……その一瞬の油断が命取りだ。
ダークエルフの肩に手を置いて飛び上がり、すれ違いざまに、首元をナイフで切り裂く。
急所は人間と同じようで頸動脈を断つと襲ってきたダークエルフは動かなくなった。
「まずは一つ」
今ので奴ら警戒を強めたようだな。
こいつみたいに全員が襲いかかってくれたら体力的にどれだけ楽だったか……。まあ仕方ないな。
「【ダンシャ!】」
唱えた途端私の体の周りから黒い霧が辺りを包み込んだ。奴らがジーナを私の弱点と見たのだ。ならこの【煙幕魔法】で視界を塞いでやる。
足音が……私の背後に2つ。頭上に5つ。あとは――様子見か?
ナイフを2本ポーチから取り出し逆手に構え動く。
まずはジーナに迫る2体からだ。
「ヤパ!?」
「ヤリオニンニッ!!?」
私の接近に気付いたようだが……もう遅い。
駆け抜け、刃が2体の頭をボトリと落とした。
上の奴らは煙幕で今の攻撃に気付いていない。それにどこに矢を射ればいいか分かっていないのだろう。
「【アルズ・エル・ダルマ!!】」
ダークエルフの1人の力ある言葉が響いた。
これは……古代魔術か!?
周囲に撒かれた煙幕があたりの植物に吸い込まれて消えていく。
姿が露わになってしまった私の胸に矢が……突き刺さった!?
「タッサ! タッサトルテ!」
喜んだように勝ち誇るダークエルフ……。
だが突き刺さった私の体はゆらりと揺れて姿が木の上に居たはずの1体のダークエルフに変わっていく。
矢を射ったダークエルフはこの状況に驚いたようで目を白黒させていた。それもそうだろう!
これは煙幕を張ると同時にお前らに仕掛けた【視界妨害魔術】なのだからな!
「ラテ! ダランガ、タアリドニル!!」
奴らは今自分の見えているものが正しいものか判断に戸惑って弓を使うのを躊躇ってるな。
それもそうだろう。味方を撃ったんだ。ダークエルフは仲間意識が強い。故に誤射する可能性が高い今、迂闊に弓を使えないだろう?
「その迷ってる間に私はお前達を3体殺せるがね」
戸惑い、木偶の坊と化していたダークエルフ3体の首を跳ね、処理した3体の顔を生き残りの前に転がして見せつけてやった。
「マ、マランバ……。ヤオシュテルハルペッ!!」
ようやく奴らは私という絶対的な脅威を認めたのか、薄ら笑いが失せ焦りと恐怖の層を滲ませて、この場から立ち去ろうと踵を返した。
残りは3体か。
狙いを定め、枝を飛んで逃げようとするダークエルフ2体の頸にナイフを投げて刺した。
「ギャっ! ギャアアアア!!!」
「ラパッ!? ナルダッ!?」
それが今の2体の名だろうか。残された1体が地面に落ちていく仲間に叫んでいた。
仲間が次々と死んでいくこの状況に精神が崩壊したか、そいつは叫びながら去っていく。
それを私は見送り、ジーナの元に向かった。
「怪我は?」
「な、ない。ってご主人! 最後の1体を逃して良かったのか? あいつが食っていたらもう――」
「問題ない。手は打ってある。それよりお前も手伝え」
私はポーチからナイフを一つジーナに渡してやった。
これで何をしろと? と言ったような疑問を向けられたが。決まっているだろう。
「こいつでエルフの胃袋を掻っ捌け。すぐに」
「じょ、冗談だろ? こ、これの腹を裂くだなんて」
冗談? こいつは何を言ってるんだ? そうかやり方が分からないのか。
そう思って手本としてダークエルフを解体し、ジーナに見せると彼女は吐き出してしまった。
***
「おぇ……く、臭いぞ……」
「我慢しろ。この臓物の中に骨か肉があるはずだ」
ダークエルフの腹を捌き続けて手とナイフが赤黒く、ドロリとした血で染まっていた。
血と汚物の匂いが辺りに充満する。ジーナは涙目で吐き気を堪えながらダークエルフの臓物をナイフで捌き続けている。
早く……早く目的のブツを見つけなければ時間がない!
「あった。あったぞ! 骨だ!」
「でかしたジーナ!」
確認してみると小さな骨だが、形と硬さからして人間の指の骨だろう。
ジーナの前にあるエルフの胃と思われる臓物から夥しいほどの肉の塊と金の髪がぶちまけられている。
人間一人分はあるだろうか……。
「ジーナ。こいつの腹は膨れていたか?」
「そうだな。太った個体だなとは思ったが……」
つまり【森の息吹】を食ったダークエルフは腹が肥えているという事だ。今接敵したダークエルフの中に太った個体はこいつ1体だけだった。
「よしジーナ。行くぞ」
「どこに!?」
「決まってるだろ? 奴らの集落だ」
ここに太った個体がいないのなら奴らの集落に必ず存在しているはず。
ここに潜った冒険者がどれだけいるかは分からんが、まあ太ったやつを片っ端から殺して腹を裂いて回収すれば問題ないだろう。
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