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14 魔物肉

 そう言えば、昨日、探索者ギルド会館に行って素材を売った時、受付のお姉さんに「最近、ミラちゃん、評判上がってますよ♪」と言われた。

 

 原因は魔物肉。

 

 私は今のところ自炊していないし、自分で食べても美味しいのは一瞬、それよりお金が欲しいので殆ど売ってしまうが、魔物肉は全般的にかなり美味いらしい。

 

 考えたらヨーコが「弱火」~「強火」の魔法を持っているし、取って置きの取って置き、「異空間収納」の魔法があるので、調理器具さえ揃えれば割と何処でも自分で料理できるのだが――。

 

 ちなみに街で出回っている食肉は、基本、街で育てた家畜の肉だ。ちなみのちなみに家畜というのは魔物化してない獣で昔はたくさんいたらしいが今は数も多くないしお高いのでそこそこ裕福な人の食卓にしか上らない。味も普通に美味しいらしいが、魔物肉と比較すると残念ながら数段、劣るという。

 

 それ程、魔物肉の美味さは別格らしい。

 

 魔物肉は探索者か魔物肉専門の猟師くらいしか獲る者がいないので、基本、ある時にしか手に入らない。当然、探索者ギルドに強いコネを持つ人が優先して手に入れるので、一般にはあまり出回らない。

 

 それ専門で活動する個人探索者やパーティもそこそこ居るが、そういう人たちが用意する魔物肉は、ほぼ行先が決まっている。

 

 探索者ギルドが魔物肉の買い取りを強化しようとしても、駆け出しや下級の探索者には荷が重く、中級~上級探索者の中から新たに魔物肉を専門に扱う者はそうそう現れない。

 

 そんな事情もあり、魔物肉は高級な上、希少な存在なのだ。

 

 それを、ここのところ毎日安定して売却しているため、評価されたらしい。

 

 私にとっては戦闘訓練のついでだし、評価を上げたいとは思っていないので、どうでも良い。というかむしろそう言う評価は困るかも?断りにくい贔屓客とかが付いて、特定の肉ばっかり取って来いと言われるようになっても嫌だ。

 

 勿論、断れば良いだけなのだが、実際はそう簡単ではない。知り合いや目上の人から言われたら殆ど人付き合いの無い私ですら断りにくいこともある。そういうのは少なければ少ないほど良い。

 

「……あー、じゃあしばらく売りに来るのやめよかな?」


「そんな意地悪言わないで、がんばって狩ってきてくださいよ、ねっ♪」 

 

 お姉さんは、魅力的な笑顔で言った。凄く魅力的なのに何故か目が笑ってない――気がする。――ほら、そーいうのが嫌なんだよ。圧が。圧がすごいから!

 

 お姉さんも上の人に「出来るだけたくさん狩ってこさせろ!」「がんばるように言え!」とでも言われてるんだろうか。

 

 結局「あ、はい、余裕があったら――(汗)」と答えたのだが、昨日も今日も「がんばってくださいね、お待ちしてます♪」と、笑顔で送り出されてしまったのだった。

 

 彼女には1年ほど前、探索者ギルドに登録した時からお世話になっているから頭が上がらない。依頼を受けるためのアレコレや子供でも出来る稼ぎ方を教えてくれたり、査定をおまけしてくれたり、報酬をおまけしてくれたり――今利用している比較的安くて安心なパン屋を教えてくれたのも彼女だ。

 

 割と「そんなの関係ない」って性格の私でも、辛いとき助けてくれた人に何の恩も感じないほどイカレてはいない。

 

 そういう訳で私にとって「探索者ギルド=いつもの受付のお姉さん」なのだ。 

 お姉さんに頑張れと言われてしまったなら頑張るしかない。オラオラ、今日も発雷鼠狩りだ!

 

 ――まあ、そういう事情が無くても、元々、戦闘訓練と魔法石狩りでまだまだ何十匹、何百匹と狩る予定ではあるのだが――発雷鼠がいつ枯れるかと思うと、ちょっと心配ではある。

 私はギルド会館の外に出ると、小声でヨーコに聞いてみた。

 

「――どうすれば良いと思う?」 

 

(そうねぇ。いっその事、暫くギルドに来るのを止めると言うのも一つの手だけど、次に来た時は余計、気まずくなるかもねぇ――殺気のお姉さんとか?) 


 ヨーコの「さっき」が「殺気」に聞こえるほど私は追い詰められているのだろうか。

 

(まあ、そっちはともかく、尾行はこれからもあるかもだから、対策したいわね)


「たっ……(対策ってどんな?)」


 思わず大きな声が出そうになり、私は慌てて声を押さえる。


(それはやっぱり、魔法使いなら魔法で解決するものよ)

 

「(――役に立ちそうな魔法石を探すってこと?じゃギルドに戻って資料室、行く?)」 

(正解。だけどギルドには戻らなくていいわ。多分、資料室は役に立たないから) 

 

 何故、今回は資料室ではダメなのか。歩きつつ考えていると、ヨーコが教えてくれた。

 

(昔もマニアックな人しか知らなかったんだけど――わたしも友達に聞いたんだけど――実は、稀に魔法石を持ってる虫もいるのよ) 

 そんな事を言い出したヨーコに、私はギクッとなった。その話の流れだと私に「虫を狩れ」という指令が下る事になるのでは……?

 

(――虫って擬態とか隠形とか、得意でしょ?まあ確率は小さい魔法石よりさらに低いけどね。擬態や隠形の魔法を持ってる強大な魔物もいるけど、そういうのを倒して手に入れるより安全でお勧めではあるわ。ただ、虫が苦手な人って多いからねぇ?) 

 

 ヨーコの醸し出す雰囲気が「お前も苦手だろ」と言っている。勿論、私も苦手だった。虫を見たり触ったりすると思うと、文字通り虫唾が走る。

 

(昔は持ってたけど、あの手の魔法はめちゃくちゃ便利なのよねぇ。組織とか大人数に追われる予定があるなら必携だと思うわ) 

 

 そんな嫌な予定は嫌だけど、今の私には非常に魅力的な魔法石だった。私の中で虫に対する嫌悪感より、しつこく付きまとって来る尾行に対する嫌悪感が上回る。

 

 今も散々、グルグルと街を回りつつ尾行を撒いてから門外へ出たところだからだ。暫く歩くと、視界に入る他の探索者も居なくなった。

 

「じゃ、今日から肉のついでに虫も狩ろうか」 

 

(よっぽど嫌なのねぇ)


 ヨーコが苦笑する雰囲気が伝わってくる。

 

「正直、鳥肌だけど、まだ虫のがマシかな。この先もこーいう事があるなら狩っときたい」 

 

 森まで歩きつつヨーコと作戦会議をするとまずは発雷鼠を狩る。念のためヨーコの魔力探知で尾行が無いのを確認してから、高速で狩場を巡り、サクサクと狩って行く。

 

 今なら5匹以上狩ることも可能だが、5匹以上狩れる事が探索者ギルド会館のお姉さんに知られたらますます私の自由な時間が削られてしまうので、5匹狩って、解体処理をしたら籠に入れる。

 

 ちょうどお昼時なので、「異空間収納」の魔法でカレーとレモンティーを取り出してお昼休憩にした。

 

 今のところ同じデザインのお皿しか見ていないが、入れた時期によって色んな皿があるらしい。カレーも違うお店から買ったり、参考に自作したものもあり、味も具も様々らしいが、今のところ私には違いが分からなかった。

 

 ヨーコ曰く、買う時も作る時も大量だったし、凝り性なのでしばらく同じ味を食べ続ける事が多く、意識して探さないと違う味のエリアにはたどり着かないらしい。私はお皿のデザインはともかく、違う味と具にはちょっと興味を惹かれ、その内「異空間収納」の中を探してみようと思った。

 

 ご飯を食べて少し休んだら、午後からは嫌な虫狩りの時間だ。ちなみに魔法石を持ってるほどの虫は、例外なくデカいらしい。そんなマニアック情報は一生、知りたくなかった。

 

 ただでさえ嫌いな虫だが標的は普通の虫より遥かにデカくて、擬態とか隠形で隠れている。それを、わざわざ探して狩らなくてはいけない。考えただけで鳥肌が立つ。

 

 私だけなら最初の1匹を見つける前に挫折しただろう。だが、ヨーコの魔力探知のおかげで、森を巡るうち、ついに最初の1匹を発見してしまった。

 

 ヨーコが発見したのは、擬態をするタイプの虫型魔物だった。その姿は一見、太めの木の枝に細めの枝が何本か生えているような見た目をしていた。ヨーコによれば「ナナフシっぽい」との事だが、勿論、私には分からない。

 

 急所である頭の位置もヨーコが教えてくれたし擬態中はジッと動かないので、仕留めるのは一撃だった。その後、全身の肌が泡立つような感覚を必死に無視して、私は解体のため虫型魔物を斬り裂いた。予想通り、魔石も魔法石も無かった。

 

 私はすぐに魔物を放棄し「洗浄」の魔法で手を洗う。

 

 硬そうにみえて、ぐんにょり柔らかい虫型魔物の感触が私にはトラウマものだった。



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今日もやんごとなき事情により遅刻しました。

代わりという訳ではないですが2話連続投稿します。

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読んでくれて、ありがとうございました♪

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