13 尾行2
私がヨーコに教わりながら無事、サラシを装着した日の夕方。
珍しく私の方が早く帰っていたため、後から帰ってきたロナを片手を上げて迎えると、部屋に入ってくるなり、ロナが口を開いた。
「ミラ!アンタ、玉の輿なんだって!?」
「はぁ?」
いきなり訳の分からない事を言われて、変な声が出た。
少し詳しく聞いてみると、この界隈の子供達の間で「口が軽いので大事な話はモージには聞かせるな」でお馴染みの存在になっている、そのモージ少年本人から聞いたのだと言う。
何でも私の親戚だという若い金持ちっぽい大人の男の人が、私の事を探して聞いて回っているという。
その話はどうやら今日の事で、モージ自身の体験が元ネタらしい。そして、早くもこの辺りの子供達の間にその噂が広がっているという。
何と言うか、間違いなくモージ本人が広めてそうだった。
「――いや、けどいきなりそんな嘘っぽい話、怖くない?ホントかどうか確かめようもないし」
「そりゃまあ、人買いに売るのが目的って可能性も――けど、それにしては目立ちすぎてるしミラを名指しってのも変じゃない?」
☆
ロナとそんな話をした翌日。
自分が拡げた噂が凄い勢いで拡散するのを実感してモージはご満悦だった。そんな時、再び同じ若い男から声をかけられ、さらに金を掴まされたモージ少年は、その声をかけて来た若い男をあろうことか直接、ミラとロナの拠点に案内しようとした。
よほどのことが無い限り、この辺りに直接大人を引き入れるのは子供達の間でご法度になっている。
発見した子供達によって、即座に陽動が行われ、若い男が混乱した隙に子供達はモージを拉致した。若い男は案内役を失ってしばらく近辺をうろついた後、貧民街を出て行った。
一方で子供達に拉致されたモージはこの辺りで一番、年嵩のリーダー格の少年――マルクの元に引き出された。私とロナも呼ばれ、子供達皆で詳しく話し聞くと、金欲しさというありふれた理由で私の情報を売ったという。
モージはさらに厳しく尋問され、余罪も明らかになった。皿とスプーン、グラスの盗難もモージを含む数名の少年の仕業だったらしい。
それに味を占めたモージが再び声をかけられて、ちょっとくらいなら良いだろう、と私の情報を話し、街の門で待ち伏せて私を指さして教えたという。
その際、気前よく駄賃をはずんでもらったらしく、たまたま一人でいた時に声をかけられため独り占めして非常に美味しい思いをした。今度も独り占めしようと、請われるまま案内を引き受けたという。
全てを白状したモージ少年は、マルクとその仲間にボコボコにされて貧民街を追い出された。
盗みに加担した少年達は少しボコられただけで、あとは厳重注意、次やったら殺すと脅されて、放免となった。ちなみに私は一切、意見を聞かれなかった。
普段はお互い、あまり関わらないし、マルクをボスと仰ぐことも特に無いのだが、意外にも厳しく目を光らせているのだと分かって驚いた。
騒動の最後にマルクが来て、念のため拠点を移したらどうかと言ったので、ロナと2人、勧めに従って別の空き家に拠点を移した。
こうして、モージの密告騒動は幕を閉じた。
☆
(へぇ、意外に皆しっかりしてるのねぇ)
「いや、私も知らなかったし」
翌日、私は引き続き、発雷鼠を狩り続けていた。
いつもと違って、尾行をかなり警戒し、狩場につくのが随分遅れてしまった。その甲斐あって、多分、尾行されていないはずだ。ヨーコの魔力探知もあるのでおそらく大丈夫だと思う。
ちなみにロナから聞いたが、子供達のそういう仕組みを作ったのは昔貧民街に居たアランという少年で、今はベテラン探索者として活躍しているという。
恐らく、この辺りの少年達のあこがれの存在と言う感じだろう。
ちなみのちなみにヨーコの話では、ヨーコが人間として生きていた頃、まだ「探索者」と言う呼ばれ方は無く、似たような事をする人たちが「冒険者」と呼ばれたり呼ばれなかったりしていたらしい。
ただ、似てるとは言っても違いはあり、大きな違いは戦闘メインかどうからしい。冒険者は戦闘メイン。魔物と闘い、犯罪者と闘い、時に冒険者同士も闘って、場合によっては戦争に出る事もあったという。
今はそういう人種を「傭兵」と呼ぶ。大きな戦闘や戦争は不定期で起こるので、常設のギルドなどは無く、必要があれば貴族などが個別に募集する。集まって来るのは専業の傭兵だけではなく、普段、他の職に就いている人が応募することもあるし、当然、探索者が傭兵として働くこともある。
その点、探索者は探索メイン。戦う事もあるが必要に迫られて、と言う人が多い。基本は森で薬草や食料となる肉や木の実などを採(獲)る。依頼を受ければ人でも物でも何でも探す。上級者ほど依頼を受けて貴重な何かを探すのが探索者だ。
そんな探索者の端くれである私は今、狩りと魔法の強化訓練中であり、完全に戦闘メインの毎日だった。
今日は狩り始めたのが遅かったので、そろそろ夕方だと気付くのが遅れてしまった。そのせいで帰るのが遅れ、危うく門が閉まるところだった。
門を潜って街に入ると、ヨーコがまたしても私を尾行してるらしい人の気配を感知する。私はため息を吐きながら、人ごみと裏道を利用して尾行を撒きつつ探索者ギルドへ行って、素材を売却する。
でも、街に帰ってきた探索者の行き先は非常に分かりやすく、せっかく撒いてもすぐに探索者ギルド会館を出たところでまた発見されてしまう。
てか、何時も通る北街門か、探索者ギルド会館の中で待っていて声をかければ良いだけなのに、そうしないあたり怪しすぎる。人目に付くところでは声をかけたくない用件なんて、絶対まともな用件じゃないと思う。勿論、実際に待ち伏せされたら嫌だけど――。
再度、人ごみと裏道を利用して尾行を撒く。怪しい人間に尾行されているのに裏通りを通るのは逆に危ないが、この辺りの裏道なら貧民街よりはまだ危険度は低いので、ささっと通れば大丈夫。――なのだが、これから毎日こんなだと面倒だし正直シンドイ。
私は結局、かなり遠回りしてなじみのパン屋に戻り、売れ残りのパンを買い、本当なら必要のない時間をたっぷりかけて新しい拠点に帰り着いた。
今日は遅かったのでとっくにロナが帰って、先にご飯も食べ終わっていた。
「お帰り~遅いじゃん?」
「また誰かに尾行された」
「あー。モージのせいでミラの顔、知られてるんだっけ」
そう。顔バレしてしまったので、撒いても撒いてもキリがなくてイライラしてしまう。相手は好きなだけ再挑戦できるのだ。不公平この上ない。
でも、だからと言って、接触してこられても困る。一度会って、話を聞いてそれで終わり、とはいかない気がするのだ。
ホントもう、これだけ撒かれたら嫌がられてるって、分かってほしい。私は心の底からそう願っていた。
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