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第九話 悪魔の面談

 六海道書店に着くと我々は応接室へと案内された。人間生馬がここに来た時もいつもそうだった。我々が応接室に案内されて五分程してから、先方の担当者が現れた。名前を池田 安次郎という。池田の年齢はオレと同じくらいだが太った身体つきのせいか、やけに貫禄がある。


「やあ狩野さん。今日はお供をお連れですか」


オレは椅子に腰掛けたまま、


「いや、我が部署の若手なんですがね。どうしても六海道さんに同行して勉強したいと言うもので連れて参りました。お邪魔じゃなかったですか?」


このセリフは人間生馬なら立ちあがって一礼しながらいうセリフである。


「とんでもない。小泉文具さんのルーキーさんに勉強になることなんてうちにあるかどうか分かりませんが」


小太りで頭の毛が後退しているいかにも仕事のでき無さそうな中年は笑いながら答えた。


「池田さん。実はこの度わが社で新商品を扱うことになりまして。ぜひ六海道さんにと思いまして今日は伺わせて頂きました」


オレは新商品の蛍光ペンのカタログとサンプルをとり出した。正直、これをどうやったら客に買って貰えるかなんて想像もつかないがオレには秘策があった。人間というものは何かを決めるとき、例えばYESかNOかを選ぶときに口に出してYESやNOを答える直前の6~7秒前には脳内で答えを出しているものなのである。君達にも何となく心あたりがあるのではなにだろうか。オレはその7秒前の判断を操作することができる。分かりやすく言えば、大概のことについては人間にYESと言わせることが可能なのだ。


「どうでしょうか池田さん。お試しに使ってみてはもらえませんか」


そしてオレは神経を集中して池田の脳に語りかける。


「YESと言え」


すると池田は笑って答える。


「そうですね。値段も安価だし試しに取り扱ってみようかな」


これで受注。早くも営業実績を残したことになる。


「有難うございます」


と、言ったときにオレはしまったと思った。人間生馬の愚かしいと思っていた


「有難うございます」


というセリフをこのオレもおもわず使ってしまった。この言葉だけは簡単には使うまいと思っていたのに。


まあいいだろう。ここは人間生馬のやり方を素直に見習うとするか。


「ところで池田さん。最近ゴルフには行かれていますか?」


ここから先はどうでもいい会話だった。注文をくれたお礼に池田の好きな話題に付き合ってやるのだ。しかしこの池田という男はよく喋る。しかも話題は専らゴルフの話題だ。あそこのコースはバンカーの位置が絶妙だとか、上り斜面になっているから難しいだとか、ゴルフというものを全く受け入れられないオレからしてみれば退屈この上ない。オレから話を振っといてなんなのだが。聞けばこの男、月に二回はゴルフ場に足を運んでいるらしい。よっぽどあの下らない競技にご執着されているようだ。


オレでも知っているがゴルフというものは決して安価な娯楽ではない。オレのように嫁から小遣いをもらっているような身分では月に一回行ければいい方だと思う。それを月に二回も行くとは正直あきれ果てる。人間にはもっと他に娯楽というものが無いのだろうか。


今の春の時期には色んな草花が冬を乗り越え地上に芽吹いてくる。オレは生馬に乗り移る前からツツジというものを見てこれだけ美しいものがあるものかと感心した。聞けば、草花を鑑賞する為に作られた観光施設もあるというではないか。ゴルフなんかよりそちらを見物に行く方がよっぽど心は落ち着くし、人間らしいという気がしてならないのだが。


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