27.転職して良かった
自分でも気が付かなかったが、光は、病院警備のみんなによい影響を与えていた。自分ばかりが与えられていると思っていたが、気づかないうちにお互いに影響を与えあっていたのであった。病院警備のみんなと別れの挨拶をした光は、いよいよ本社へと向かった。
27.転職して良かった。
「おい、ちょっと早くねえか?」
正面玄関に行くと、ガンさんが、そう声をかけてきた。
だって、最後だからガンさんと少しでも長く仕事をしたいです。みたいなことを言いたいんだけど、何と言ったら、この気持ちを表現できるのか分からなくて「ふふっ。」とただ笑って、車の誘導を始めた。そんな光を見てガンさんも「張り切りすぎるなよ。」とだけ言ってくれた。あんなことがあってもガンさんとは、特に距離感は変わらなかった(ガンさんのほうでそうしているのかもしれないが、)それが、ありがたかった。
「おい、裏の駐車場に3台目の救急車が来るぞ。行けるか?」
無線を聞いていたガンさんが、声をかけてきた。
「ハイ。」
と、返事をして駐車場へ向かうと、ガンさんが後ろから、さらに声をかける。
「今日は、雨が降ってないからな、大丈夫だろう。」
・・・同じことを思い出していた。ガンさんと信頼しあえる関係になれたこと、そのままでいられること、これが一番嬉しい。
誘導を終えて事務所に戻ると、真木君が来ていた。
「お疲れ様です。早いね。」
「新村さんが最後って聞いてたんで、俺ももうすぐ卒業だし、ちゃんと挨拶しとこうかなって」
「ありがとう。私も真木君が来るまで待ってるつもりだったんだ。」
お互いに改まって型通りの挨拶をした後、
「ね、真木君。就職先でも真木君の美化運動は貫くの?」
「え!?何ですか?美化運動って?」
「いや、ずっと、思ってたけど、職場で自分を出すって勇気がいるっていうか。すごくない?それで嫌われたらとか考えないのかな?学生なのにすごいなって」
もう、最後だから思い切って聞いてみたら、真木君から返ってきたのが
「すごいのは新村さんでしょ。新村さんだって、自分流を貫いて、ココの雰囲気を変えちゃったじゃないですか?」
「え!?私が?いつ?」
「そうですよ。新村さんが苦労しながら一生懸命に仕事を頑張っているのを見て、ココのおじさん達は変わっていったんですよ。特に野間弟さんなんかスゴイ変わりようじゃないですか?」
「え?私が原因なの?」
「無自覚なんですね。まあ、新村さんは、それどころじゃなかったですもんね。」と言って真木君は、
「まあ、俺の就職先はIT企業なんで、オフィスは散らかってないと思いますけど、美化運動は貫きますよ。」
といたずらっぽく笑って付け加えた。
真木君に言われて、改めて事務所を見回すと、確かに入社当時とは違って見えた。野間弟さんは、翔が騒ぎを起こした時から忙しい時は、休憩時間でも仕事をするようになった。それが、自分の影響だなんて、助けてもらってばかりだと思っていたけど、私も何かできていたんだな・・・。と思っていると、
「そうですよ。新村さんは、いい影響をたくさん残してくれました。お互いに助け合い力を出し合うことで成長していく。理想の状況になりました。寂しくなりますが、我々もこれをつづけられるよう頑張りますので、新村さんも本社で頑張ってくださいね。」
と、黒田さんが声をかけてきた。事務所のみんなも頷いている。ガンさんも野間兄弟もいなかったが、それをきっかけに皆んなに挨拶をして事務所を出た。前の退社時と違って、みんなが拍手で送ってくれた。思いがけない暖かい送り出しだった。
明日からは、本社勤務だ。光は、初心に返る気持ちで気合を入れた。
本社では、一年前と同じように中田さんが、迎えてくれた。すぐにオペレター室へと行くのかと思えば、また会議室に行った。アレ?デジャヴかな?まさか・・・
<終わり>
転職して頑張っている人の力になればと思って書き始めましたが、やっと完了することができました。もっと短い予定でしたが、書き続けるうちに長くなってしまいました。書くうちに登場人物たちが、自由に話したり動いたりするのが新鮮な驚きと喜びでした。




