SCENE77
──新しく宇宙の声が聴こえて来た。
それはワタシにとってとても新鮮なことだった!
年が明け、前首相の国葬の日が近づいて来たが、露巳代表や春子さんらとは音信不通のままだった。ワタシはシーちゃんとの日常を穏やかに送りながら平常心をこころがけていたが、そんなおり大学院に通っている親友のミホコから郵便が届いた。
──むずかしい小説だが、読む価値あり──
とひとこと添えられてあった。
大江健三郎の長編小説『同時代ゲーム』(新潮社文庫)だった。
驚くべきことに、村=国家=小宇宙と太平洋戦争前と思われる大日本帝国との五十日間にわたる全面戦争が描かれていた。 ──四国の原生林に囲繞された一寒村の村=国家=小宇宙を謀叛人として、大元帥陛下の皇軍たる大日本帝国の一中隊との、類をみない全面戦争が克明に描かれていた──
しかも大日本帝国との全面戦争の開始にあたって、村=国家=小宇宙は、自分たちを不順国神、そして不逞日人とし、人間としては、自分たちはおまえらと根柢から違う者だ、異族なのだということを示した。
ワタシはこの小説に登場する村=国家=小宇宙が、露巳代表ら《小さきものたち》のことのように思われ夢中になって読みすすめた。
そして孤独なひとつの蹶起=テロに涙を抑えることができなかった。 ──ピンク色のテロリストを自認する自分として──
また主人公の僕(谷間の村と「在」の神話と歴史を書く者)の一族は、みな波瀾万丈な生涯をおくっていた。とくに5人兄弟のうち長男露一兵隊(かれは25年間精神病院に閉じ込められていた)は、孤独な蹶起を決行した。
露一兵隊は逮捕された際、意味不明な言葉をしゃべったが、取り調べた警官が片仮名でメモしていたものを主人公の僕が、エスペラント語の学者に問い合わせをした結果、エスペラント詩人伊東三郎の詩が原典であることが判明した。まさに露一兵隊の蹶起後の感慨をあらわす言葉だったのだ。
『ふかぶかと息をして』
ふかぶかと息をして
腕を自由にのぼし
気がついて見まわしておどろく
かげろうのように日が経ったことを
思い出がよみがえる
打ちつづいた仕事について
それはすらすらとは行かなかった
体や神経をすりへらした
たびたび苦しい吐息をはきだした
でもとうとうひと仕事やりとげた
いま気持ちよいつかれ
おちついた安らぎ
なんだか心はいっぱいだ
喜びと希望でいっぱいだ
長い苦労ののち
新しい仕事! 新しい問題に!




