一枚目『worker』 【3】
【3】
口コミほど信用できるものがないと思われていたのは、サイト上に限っては昔の話に変わりつつあると、冷めた私は思ってしまう。
在宅ワークに興味を持ってから、口コミ書き込みの求人を見た事があるので、ひねくれた私はそう感じてしまう。
逆に、人から人へ、それも親しい人間に伝わる口コミは、かなり信用する事ができるものだとも感じる事ができる。よほど自分が良いと思わない限り、相手との関係をやめてしまいたくないのであれば、勧める事ができない。
それも、オーナーの性格が人から可愛がられるような、いい意味での素直な性格が理由だろう。
「わー、綺麗ですね」
搬入のために、訪れた今回の作家さんはドアを開けた瞬間に、思わず口からもれてしまったようにそう言った。
こういう反応をする時、オーナーはいつもニヤリと笑う。
思わず口からもれてしまった言葉ほど、『お世辞じゃない、心の底からの信用できる誉め言葉』だと言うのがその理由らしい。
「ありがとうございます。作品は、届いた分がこれで全部なので、確認していただいてよろしいですか?」
「あ、はい」
届いた作品は梱包を解く事はしていないが、作品ごとに一カ所に立てかけて並べてある。大きさはポスターサイズが一番大きく、他はA4サイズほどの作品がほとんどだ。作家としては、大きな絵を描きたいところだが、収入を得る事を考えると大きな絵ほど買ってもらえない。
絵のサイズを小さくする事で、デメリットもある。
「あの、本当にこの料金でいいのですか?」
「はい、間違いありません」
「さっそく、展示始めましょうか。まず、どれから並べますか?」
「じゃ、これから」
サイズが小さくなるという事は単価が低くなり、収入が減ってしまう。私は絵の展示について詳しくはないが、絵の収入から手数料をとる事もせずに作家に渡してしまう事は珍しいらしい。場所としてのレンタル料金は、少しの黒字になるようなもので限りなく安い。それも、必要とするのなら、展示をする手伝い費込みの料金だ。
料金は、この家の維持をするための費用と、ほんの少しの黒字。よくこの料金設定にしたものだと言ったら、『私一人だったから、人件費をあまり考えなくていいからね。主な最低限の生活費は別で得てしているから』と笑顔で言っていたが…『値上げしましょう!』と即つっこみをしたくなるぐらい、借りる側にとって良心的な価格設定だった。
「友人が、ここのギャラリーがよかったと言っていて」
「そうですか」
「アドバイスまでもらえたとか」
「アドバイスと言えるかどうか分かりませんが、感想は言わせていただいています」
オーナーは苦笑を浮かべて答える。
「オーナーは、何か作品を作られていますか?」
「いいえ、もっぱら見るのが好きです。ココを開こうと思った時に、必要最低限の勉強をした程度です」
視線で作家さんが、私は?と質問をしてくる。
「私も作りません」
「私が、拾いました」
「拾った?」
「オーナー、拾ったなんて言わないでください。場合によっては、ある漫画みたいな展開だと誤解がうまれるじゃないですか。雇ったと言ってください」
「あまり、意味が変わらないのに」
「めちゃくちゃ変わります!」
「そうかなぁ」
納得できずに不満そうな表情を浮かべて言っている。
確かに、意識しすぎているのが、原因なのかもしれないけれど、条件反射で反論してしまう。
「そうです!」
「仲が良いですね」
見守るような視線を向けながら言われた事に対しては、とっさに言葉が浮かばない。
「……」
「そうですね」
展示作品を床に並べる作業する手を休める事なく、ほのぼのとした口調でそう答えていた。