一枚目『worker』 【4】
【4】
「…できた♪」
展示作業が終わり、オーナーが時計を見上げると展示開始時間の10分前だった。
「でも、ぎりぎりですね」
私は、珈琲を人数分用意しながら、ため息を吐き出す。
淹れ方は喫茶店で習ったものなので、少しだけ上手く淹れられるようになった、つもりだ。淹れ終わった珈琲を2人に渡していく。
「それは、しょうがないよね。こういうものだよ」
「そうですよね。余裕があるはずの予定で、なぜ、締め切りぎりぎりに仕上げる事になるのか…それと、同じですよね」
珈琲を受け取りながら、今回の作家さんはどこか遠い目をしている。オーナーは展示作品を改めて全体的に眺めている。
「そういうものだよね」
いつも余裕をもっての展示作業の開始時間をみつもっているつもりが、ぎりぎりになってしまうのを阻止する事ができずにいるのもいつもの事になりつつある。
振り返れば、学生時代の課題は、出された日の休憩時間等の隙間時間にこなしてしまっていた私には、素直に納得する事ができない。予定が狂う事など、ここのバイトをする前には経験した事がない。
だから、つい、改善点があるのではないかと考え始めてしまう癖がある。
「…うーん」
作品に触れるような仕事につく事も、想像した事すらなかった。普段の私なら、自分の苦手な仕事につく事を選択するなんて事は、絶対にしなかったはずだ。
なのに、なぜ?と何回自分に問いかけた事だろう。そして、自分の中からかえってくる答えも何回聞いた事だろう。自分の見ないフリをしている事に対しても、自覚をしている。
「もう、慣れようよ。予定通りにいかないのが、人生」
「何、良い事言い切ったみたいな表情をしているのですか! 全部がそれでいいはずないでしょう。どこかに改善点があるはず…」
「真面目な方ですね」
作家さんは苦笑を浮かべながら、珈琲を一口飲み、美味しそうに目を細める。
「ね、堅すぎるよね。もっと、気楽でいいのに」
「オーナーは、気楽すぎます!」
「はぁーい」
「もう、今は話を聞いていませんよね」
「うん」
どうして私は、こんな楽天家に好意を抱いてしまったのか。
拾われたから、好意を抱くのは当然の流れで、仕方ない事だと言い聞かせようとする自分がいる事は、自覚している。
私の方がだい年下で、時に叱りながら、仕事の主導権はほぼ私が握っているようなもので、お世話しているような気になっているのに。
オーナーに視線を向けた。
絵の全体のバランスを見ている事に集中していて、他の事に対して意識を向けていない。作品に対しては、真剣な表情をしているのが普段の雰囲気とは違って、ギャップを感じている。
作品には、その人自身が現れているから、向き合うのも誠実でありたいというのが信条だと以前話していた事があった。
人に対して誠実に向き合う姿勢が、好意を抱くようになった大きな理由だ。
ドアが開く音がして視線を向けると、ちょうどお客さんが来たところだった。




