知兄ちゃんの理想
夕方。
僕は校門の前で、知兄ちゃんが来るのを待ち構えていた。
「センセ、さようなら」
「サヨウナラ。また明日な。」
校門から出てきた知兄ちゃんに声をかける。
兄ちゃん。
「琥珀。お前なんでこんなところに・・・まさか、俺を迎えに来てくれたのか?」
はい、お迎えです。
「・・・頭が良い奴だと思っていたが・・・流石、魔女姫の使い魔」
酷いな。黒猫だからって【使い魔】は失礼だな。ねえ。怒っていい?
「お、怒るなよ」
僕の様子に気がついた知兄ちゃんが、笑った。
小さな日本家屋の前に、僕は立ち止まった。
「此処か?【橘】って表札あるし・・・」
そうだよ。早くベル鳴らして。僕もお腹空いた。
知兄ちゃんはベルを鳴らした。
「はい。お帰りなさい。知先生」
出迎えた京ちゃんの姿に、言葉を失い、知兄ちゃんは立ち尽くした。まあ、無理もないよねえ。
京ちゃんは、和服姿に割烹着。和服美人というのは、こういう人だろうと思わせる姿。
「京子センセ?」
「そうですよ?琥珀。お迎えありがとう」
どーいたしまして。
「縁側にタオルおいてあるから、脚を拭いて入ってきなさい。」
はーい。
固まったままの知兄ちゃんを僕は見上げた。
「・・・結婚してください。」
「知先生。33歳のおばさんをからかうものじゃありませんよ。ホラ、風邪引くから中に入って」
知兄ちゃんのプロポーズを、京ちゃんは華麗にスルー。知兄ちゃんの腕を掴むと、京ちゃんは家の中に引きずっていった。
さて、僕も御飯御飯。
「京センセ、この家って」
「最近、引っ越したの。祖父の財産。古くて驚いたでしょ。相続税払ったりしたら、この家だけが残った。」
「・・・センセ、その格好」
着物姿に兄ちゃんは未だ驚いているようです。
「ん?家ではこの姿が多いよ。私。ま、流石に学校では着ていけないけどね。部屋は此処。」
京ちゃんが知兄ちゃんを案内したのは、四畳ほどの小さな和室。たくさんの本と本棚、文机。
僕は座布団の上に座ってごろ寝していた。
「布団は、そこの押し入れにあるからね。好きに使って・・・どしたの?知先生?」
なんかブルブル震えている知兄ちゃんの様子に、京ちゃんは首を傾げた。
僕も疑問。この部屋暖かいのに、何震えているんだろ?
「理想っす。日本家屋に和室に畳の部屋に。着物美人!!何ですか。この萌の嵐!俺を萌え死にさせたいんですか!だから結婚してください!」
「バカは休み休み言いなさい。隣の部屋に夕飯用意してあるから、支度したら早く来なさい。」
京ちゃんは、知兄ちゃんに呆れた表情を浮かべると、夕飯の支度に向かった。
「琥珀・・・全部、本音なのに・・・信じてくれねえ」
僕を抱き上げた知兄ちゃんは、ぼそりと呟いた。ホントすいませんねえ。京ちゃん、鈍いんです。