文化祭 夜の光景 プロポーズ
「貴方のそういうところが嫌で、俺は付き合いを解消したんですよ。静香先生。」
唐突に聞こえた声に、私は振り返ろうとした。
だが、それより先に手首と背中から抱きしめられるぬくもりで、私は誰だが察した。
「三沢先生」
目の前にいる河野先生が、私の背後にいる彼の名前を紡いだ。
「信じてくれて、ありがとう。京子さん。俺、貴方のそういう所に惹かれたんです。」
ちゅという音とともに、頬にキスが落とされた。
「俺がこの世で一番惚れているのは、橘京子ただ一人。他の誰でもない。今日の執事喫茶の出来事だって、俺が頼んだようなものです。」
「知先生、それは・・・」
反論しようとする言葉を封じるかのように、知先生は私の口元を抑えた。
視線で彼を睨みつけようとするが、ニィと彼は意地の悪い笑みを浮かべるのみだ。
「それにだ。」
何かを取り出し、知先生は私の左手を掴んだ。
指輪?
銀色のシンプルな指輪が、私の左手の薬指にはめられていた。
知先生、色々順番すっ飛ばしている・・・。
「今日、プロポーズするんです。京子さんに。河野先生、はっきり言っておきます。俺の全ては京子先生にものだ。一生、添い遂げたいと思うのも彼女のみだ。貴方じゃない。」
その言葉を聞いた彼女は、部屋を飛び出していった。
知之さんは私の背後から抱きついたまま、話し出した。
「恋人同士だったんだ・・・良いの?私、河野先生より6歳も年上よ。」
「俺にとっては、年齢も傷跡のことも全然、関係ないです。静香先生と、大学時代恋人同士でした。だけど彼女のああ言うところが嫌で関係を解消したんです。で、ちょこちょこといろいろ遊んでいたんですが・・・この学校に来て、先生に一目惚れしたんです。俺」
「一目惚れ?」
くすりと、彼は楽しげに笑った。
「生徒の話を真剣に耳を傾けている姿に。で、俺が悩んでいた時だったかな。俺が悩んでいることを察した先生、コーヒー淹れて、黙って待っていてくれたでしょ。あれが俺にとって決め手でした。」
たしか、知先生が赴任して二ヶ月ぐらいした頃だった。
私は風さんから、「三沢先生が何か悩んでいるようだから、よかったら話を聞いてくれ」と言われた。
偶然、剣道部の生徒が怪我をして、知先生がこの部屋に知先生がきた時、私は彼に言ったのだ。
「顔色があまりよくないですよ。三沢先生、私で良ければお話を聞かせてください。」
その時、彼は何も言わなかった。ただ驚いた表情を浮かべていたのを覚えている。
生徒の怪我の手当が終わり、帰宅しようと思っていた所に彼は再びやってきた。
私は、彼の話を聞くため、サイフォンのスイッチを入れた。
「俺は京子さんが良い」
溜息のような声で、耳元に囁かれる。
「いろいろ順番すっ飛ばしているけど・・・まあ、良いか。私でいいの?私が貴方にあげられるものなんて、私自身だけだよ。」
「それがほしい。京子さんまるごと・・・心と身体、両方欲しい。俺の奥さんになって。」
彼の言葉に私は振り返り、彼の胸元に抱きついた。




