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第1話 俺だけ知っている村、そしてダンジョン配信


 ダンジョン探索者の朝は早い。


 朝起きたら、まずは家の中にあるTVをつける。

 今日と明日の天気のニュースを見て、料理の新メニューを学んで、ついでに占いを確認する。ダンジョンにおける幸運と占いの結果は連動している。最近俺はそう思うようになった。


 家を出る。


 家畜小屋に行き、卵を回収し、不足している分の餌として干し草を補充してやる。

 それが済んだら、農地の面倒を見る時間だ。


 基本は水やりだけでいいが、ときおり、出来た作物の収穫をすることもある。今日もいくらか野菜を収穫することができた。


 仕事がひと段落したら町に出かけて、住人とコミュニケーションを取る。


「シリュウさん、今日はいいお天気ですねえ」

「シリュウさん、作物はよく育っていますか? 日頃の手入れが肝心ですよ」

「シリュウさん、今夜にでも夜釣りとか一緒に行きませんか」


 声をかけてくれる彼ら彼女ら、一人一人に挨拶を欠かさない。


 これが、俺、矢車子龍やぐるましりゅうの繰り返される朝の習慣モーニングルーチンだ。


 ダンジョンは関係ないって?

 でも関係あるんだ。


 なぜなら。

 この村が、ダンジョンの中にあるから。


 ダンジョン内に村があるなんて、とても奇妙な話に聞こえるだろう。

 この村へのゲートが自宅に開く、という偶然にもほどがある出来事で、俺はこの村の存在を知った。


 正直、驚いたね。

 でも、あるものはあるんだから、現実に適応しなければいけないんだ。

 

 さて。

 昼になったので、俺は山に向かった。


 山には鉱山がある。

 洞窟の入り口のようにぽっかりと開いた穴に入る。中は薄暗いが、ダンジョン探索者として、暗闇に慣れている俺には十分すぎる明るさだ。


 少し奥に入ると、そこには昇降機がある。


 昇降機の床板に乗ると扉が自動で閉まった。パネルで階数を選択して、少し待つと。


 ゴウン、と足元が揺れて昇降機が動き出した。

 ちょっとした浮遊感を味わいながら、俺は昇降機が動きを止めるまでそのまま待った。


 チン、という音と共に扉が開く。

 開いた先は、土と岩の道というか岩盤をくり抜いてできたかのような洞窟の通路。


 そう。ここは渋谷ダンジョンの5階だった。

 進みでて振り返ると、そこにはもう昇降機のドアの影も形もない。消えてしまっている。ダンジョン特有の一方通行の扉のように。

 

 俺に分かるのは、村とダンジョンが繋がっていること。そして、村とダンジョンは基本的に一方通行であることだ。


 村からダンジョンは昇降機でやってこれるが、ダンジョンから村に移動するためには、基本的には、一度家に帰って、家のゲートを使用しないといけない。

 基本的には、と書いたのは別の手段もあるからだが、今はそれは言わない。


 それで、村の洞窟の昇降機からのダンジョンへの移動は、おそらく何階にでも降りられる。全ての階層を試したわけではないが、1階から8階は確認済みだ。


 今回5階に降りたのは、人通りが多い1-3階では一方通行のドアを出た後に誰かと遭遇してしまうかもしれないから。


 どこから来たんだ? と聞かれると答えられない。

 不審者になってしまう。ダンジョン内の不審者はあまりにも人権が低い。


 一応、周囲の気配を察知してからドアをくぐるようにはしているが、秘密を守るには5階ぐらいでの出入りが安全だ。これはこのひと月で学んだことだった。


 今日、目的にしている階は3階なので、そこまでは覚えている経路順に進んでいく。


 と。途中で、モンスターと出くわした。


 半人半獣の化け物。ワータイガーなどと呼ばれている、獣人だ。

 虎の爪を凶悪にしたような爪を手足に持っていて、二足歩行で動く俊敏な敵だ。凶暴性、動きの素早さ、爪の危険性。

 低層階の探索者では対処に困るだろう。


 今回は運よく一体しかいなかったので、接敵して、すぐに首を刎ねて始末する。


 5階の敵はなかなかに強いんだ。怪我などしたくないから、複数体の敵の群れに突っ込まないように注意しないと。


 今の俺は半ば呼吸のように自然と、気配察知スキルを展開している。


 ああ、そういえば。

 ダンジョン内では各種のスキルが使用可能になるんだ。


 ゲームのようにスキルなんとかが何Lvで〜とか、ステータスにスキル【気配察知】があるとか、そういうわけではないが。


 地上では使えない能力——もっとも分かりやすいのは魔法なのだが、魔法以外でも、暗視や気配察知のような特殊技能の類が利用可能になる。

 ダンジョン内だけだが。


 外で同じことをしようとしても、少し夜に目がいいだけ、ちょっと勘のいいだけの人になるだろう。


 そういうのを俺たち探索者はスキルと呼んでいる。


 なぜダンジョンでだけ使えるのか?

 そのメカニズムは今もよく分かっていない。


 だが、過去のダンジョン探索者が培ったノウハウで、ダンジョン内ではそういうゲームめいたことができる、という事実は確定している。

 俺たちは、そういうものなのだと理解するしかない。


 ダンジョン内でしか効果のないものとしては、他にアーティファクトなどがあるが、今は面倒なので省略だな。おいおい話していこう。

 

 さて。

 その後、特に敵との接敵エンカウントはなく、俺は二度の階段登りを経て、ダンジョンの3階まで移動することに成功した。


「よし、じゃあダンジョン配信を始めますかね」


 俺はスマートフォンを操作して配信の待機画面を出すと、腰に下げているダンジョンポーチからドローン型カメラを取り出した。


 ダンジョンポーチは、子供向けの超長寿アニメに出てくる、四次元ポケットみたいなものだ。


 アーティファクトと言われる、ダンジョン内で出土するが、ダンジョン内でしか機能を発揮しない道具。

 まあ、その辺の説明は端折りたい。なんとなく理解はできると思うから。


 ドローンは、ボタンを押して起動するだけで、登録された所有者の周囲を周回してくれる優れもの。ただし、所有者側はマーカーの装着が必要なのだが。

 こっちはれっきとした現代の利器だ。AI搭載で数十万円するモデル。

 まあゲーミングPC一台分と考えれば多少はね?


 ちなみに、ダンジョン配信は俺だけが知っているさっきの村では行えない。

 回線が通じないので。


 ダンジョン配信のためには、当然ながら、スマートフォンの電波が届く必要がある。しかし、中継アンテナはダンジョンの一定の階数までしか立っていない。

 だから、未踏破エリアや、それに近い深層階では配信はできない。

 シンプルな理由だ。


 なので大半のダンジョン配信者は低層階で活動している。中層階以降に行くのは探索ガチ勢と、一部の動画配信者になる。


 配信はできないのだが、生配信ではなく、ドローンで撮影した後に動画でアップロードするってやり方なら可能なんだ。


 そうすればダンジョンにある村を動画で撮影して公開することもできるだろう。

 しかし、ダンジョンに便利な村が存在しているという秘密を暴露しても、俺になんのメリットもない。


 さて。準備が終わったので、配信を開始する。


:リトドラ氏〜

:こんちわー

:久々の配信ですか?


 リトドラ氏というのは俺のこと。そういう配信名義でやらせてもらっている。

 名前の由来は言うまでもなく、実名の英語読みだ。

 ネットに実名を流す人は今でもそんなに多くない。みんな適当な配信ネームをつけている。俺の場合はリトドラ。


「そんな久々ってほどじゃないだろ? 一週間ぶりぐらいだぞ」


 俺は、いくつか流れていったコメントの中で、最後のコメを拾った。


 確かに俺は配信頻度が高い方ではない。配信を一切しないダンジョン探索者は今では絶滅危惧種となっていて、基本は配信ありの探索者が一番多いのだが、そんな中で、俺は気まぐれ配信でやらせてもらっている。


 ダンジョン配信をする理由は色々あると思う。


 楽しいから。功名心。お金のため。

 中には、ダンジョン探索者ではない配信者が、配信のネタを求めてダンジョンに潜るなんて例もある。

 じゃあ俺はというと、寂しいから。だろう。


 俺は基本、単独行ソロのダンジョン探索者だ。

 パーティーでダンジョンに潜っている探索者とは違って、常に孤独を感じている。


 そんな中で、ダンジョンの奥底でも人との繋がりを感じられる手段としてダンジョン配信に手を出した……。


 いや、当初はただ流行っているからやってみただけなのだが。


 なので、俺はそこまで熱心に配信をするタイプのダンジョン探索者ではなかった。たまにで十分。配信はエンジョイ勢だ。


:どしたー?

:ミュート?

:マイクトラブルか


「ああ、すまん。ちょっと考えごとしてたわ」


:ならよかった

:で今日は何すんの

:いつものモブハン?


「そうだね、今日は、渋谷ダンジョン三階で雑魚狩りしたいと思う」


 同時視聴者数は22人。

 底辺配信者と言われるほど少なくはないが、有名配信者の名前入りをするには視聴者が一桁から二桁足りない。

 これが俺の日常だ。

 このときはここから変わることなんて、考えてもなかったんだが。 



ダンジョン内の村のイメージはStardew Valleyをリスペクトしています

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