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異界に浮かぶ町、ひまわり市 ー転移した山奥のまち、異世界対応中!ー  作者: ひまわり あおい


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第37話「異界経済サミット」

~温泉と予算と、世界のゆくえ~



■朝・ひまわり市庁舎 前庭


 その朝、ひまわり市役所の前には、普段とは明らかに違う空気が漂っていた。


 庭に張られた特設テント。

 整然と並んだ各界の旗。

 花壇には、地上・天界・魔界それぞれの象徴花が植えられ、

 淡い朝陽に照らされて揺れている。


 その中央に、大きな横断幕。


『第1回 異界経済サミット in ひまわり市』


 地方自治体とは思えない、重厚な風景だった。


 勇輝は胸元を正し、深く息を吸い込む。

 空気が少し冷たく、背筋に緊張が走る。


「……まさか地元の市役所で“国際会議”を主催する日が来るとはな」


 加奈は緊張を噛み締めながらも、瞳は輝いていた。


「異界も地上も含めた“新しい地方創生モデル”なんです!

 ひまわり市の未来にとって、大きな一歩ですよ」


 やがて――

 来賓たちの影が、朝靄の奥からゆっくりと現れる。


 天界代表・光翼の大使リュミナ。

 黄金の輪を背に浮かべ、白い羽衣のような光をまとって歩む。


 魔界代表・魔界大公デスガルド。

 黒い炎を従えて進む様は、“威圧”ではなく“威厳”そのもの。


 妖精界代表・商務卿ティティア。

 風の粒子が舞い、その姿は半ば幻のよう。


 ドワーフ連合代表・鉱山王ブルグロス。

 地を踏むたびに音が重く響き、周囲の空気が揺れた。


 それぞれが“世界の顔”であり、

 ひまわり市の前庭は一瞬にして、異界の見本市となった。


 勇輝は思わず、息を呑んだ。



■午前・開会式(大ホール)


 各界の旗が静かに掲げられ、会場には深い緊張が満ちていた。

 照明は落ち、スポットライトだけが壇上を照らす。


 勇輝は司会として登壇する。

 役職上の義務ではない――

 だが“この町を代表する覚悟”として、前へ出た。


「本日の議題は――

 “異界間経済協定”と“観光共通通貨の導入”です」


 会場に波紋のようにざわめきが走る。


 スクリーンへ映し出されたのは、ひまわり花の紋章を刻んだ通貨案。


 ヒマワリ・コイン(HWC)


 電子通貨として各界に対応できるよう設計された、未来の象徴。


 加奈が説明を続ける。


「各界の通貨を共通レートで換算し、

 観光事業を円滑にするための“統一電子通貨”です!」


 その言葉に、ティティアが目を輝かせた。


「小さくて、きらきらしてて……なんて可愛いの!

 妖精界では人気が出るわね♡」


 ブルグロスは眉をひそめ、低く唸る。


「しかし……レート管理は誰が担う?

 信用基盤なくして通貨は成り立たん」


 デスガルドが静かに立つ。

 声は重く、ホールの天井まで響いた。


「魔界が管理するのが筋であろう。

 力こそが信用の裏付けだ」


 すぐさまリュミナが翼を広げるように身を起こし、微笑む。


「天界は“透明性”を重視します。

 魔界単独の通貨管理……少々、怖いですわ♡」


 空気がひりつく。


 勇輝は額に汗をにじませながら心の中で呟く。


(……会議、開会直後から火花散ってるじゃねぇか……)



■昼・昼食会(ひまわり温泉旅館)


 会場を移し温泉宿の大広間。

 温泉特有の湯気と、料理の香りが柔らかい膜となって空間を包む。


 まんまるんが給仕姿でお茶を配って歩く。

 場の緊張が少しだけ和らぐ瞬間だった。


 ティティアはプリンを一匙食べ、瞳を輝かせる。


「この“温泉プリン”、妖精界のデザートより魔法的……!」


 デスガルドは静かに頷き、湯気を見つめた。


「温泉蒸気で熟成した卵……この奥行きのある甘味、悪くない。

 地上には、まだ学ぶべき技術が残っているものだ」


 リュミナは少し意地悪く笑う。


「まぁ……デスガルド様が褒めるなんて、珍しいですわね?」


「黙れ光翼女。味覚に善悪はない」


 言い争いに聞こえるが、どこか互いを知り尽くした者同士の声だった。


 勇輝はそっと胃を押さえ、小声で呟く。


「……外交って、本当に胃が痛くなる……」



■午後・交渉再開(会議室)


 議題は次へ。


 観光収益の分配比率


 地上自治体であるひまわり市にも、責任と発言権が求められる。


 加奈は資料を広げながら言葉を紡ぐ。


「ひまわり市は“窓口”にすぎません。

 観光収益は公平に、各界へ還元されるべきです!」


 ブルグロスが重い拳で机を叩く。


「だが、施設整備は地上側の負担じゃろう?

 それでは釣り合わん!」


 その瞬間、デスガルドが静かに立った。

 背後の空気がわずかに揺れる。


「ならば――魔石を供出しよう。

 地上のインフラに、魔力エネルギーを供給できる」


 勇輝は驚愕してデスガルドを見る。


「それって……本気なんですか?」


 デスガルドが頷く。


「地上に温泉がある限り、魔界もまた潤う。

 我らにとっても利益がある話だ」


 会場に深いどよめきが走る。


 続いてリュミナが柔らかく微笑む。


「ならば天界は“観光保険”を提供します。

 事故、呪詛災害、交通魔獣トラブル……すべて補償いたします♡」


 勇輝は胸を撫で下ろした。


「……これで、異界観光インフラがひとつの形に……!」


 世界が合意に向かって一歩踏み出す音がした。



■夕方・庁舎屋上


 会議後。

 夕陽が屋上を赤く染め、風が静かに吹き抜ける。


 勇輝と加奈は並んで景色を眺めていた。


 加奈の声は少し震えていた。


「異界も、地上も……こんなふうに“町おこし”を話し合えるんですね」


 勇輝は遠くの山を見つめながら答える。


「最初はドラゴンと魔族が飛び交ってたのに……

 今じゃ財政協議だ。

 ひまわり市も、ずいぶん遠くへ来たな」


 まんまるんが紙飛行機を放つ。

 夕風にのってゆっくりと飛んでいき、屋上を横切った。


 そこに書かれた一文。


「ひまわり市、世界をつなぐ」


 勇輝は小さく笑う。


「派手さはなくても……こういう一歩が未来を作るんだな」



■夜・打ち上げ宴会(温泉街広場)


 温泉街の広場では、各界代表が杯を交わしていた。

 火の精霊たちが灯したランタンが、夜空にふわふわと浮かぶ。


 デスガルドは杯を高く掲げる。


「今日の成果を讃えよう。

 ――“温泉外交”に、乾杯だ!」


 リュミナは軽やかに続ける。


「次は“温泉サミット”ですね♡」


ブルグロスは豪快に笑った。


「湯と酒があれば、もう平和じゃ!」


 勇輝は湯気の向こうに花火を見上げながら呟いた。


「ほんと、うちの町……どこへ向かってるんだろうな」


 加奈はその横顔を見て微笑む。


「きっと――“いい方向”ですよ」


 夜空に咲いた大輪の花火。

 その光が、異界の旗を照らし、

 ひまわり市の未来を照らすかのように輝いた。



『異界に浮かぶ町、ひまわり市』

第37話「異界経済サミット」END


次回予告(第38話)


「異界温泉“国営化”の波!」

サミット後、魔界・天界がひまわり温泉に“共同出資”を提案。

しかし、市民の間には

「町が異界に買われるんじゃないか」という不安が広がり――。


勇輝と加奈は、町の未来を守るため、

“ひまわり市独立行政モデル”という新たな選択を迫られる……!

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