表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/141

第32話「異界からのふるさと納税」

~寄付額爆増、でも受け取っていいの!?~



■朝・ひまわり市役所 財務課


 役所の朝は、いつも通り書類の匂いとコーヒーの湯気で始まる。

 だが今日は、その空気を一瞬で吹き飛ばす叫び声が響いた。


「大変だぁぁぁっ! 異界からの納税申請が殺到してるッ!!」


 財務課の佐伯課長が、めずらしく汗だくで走り込んできた。

 抱えている書類は、今にも雪崩を起こしそうだ。


「また変なネット記事に載ったんじゃ……」

 勇輝が眉をひそめると、佐伯課長は震える声で続ける。


「“地上最強の返礼品、温泉付き別荘”って書かれてるんだ!」


 加奈は恐る恐る尋ねる。


「……そんな返礼品、うちにはありませんよね?」


「ねぇよ!? 誰がそんな広報出した!?」


 朝の役所に、早くも疲労の気配が漂った。



■午前・市庁舎会議室


――積み上がる異界申請書


 会議室の机いっぱいに“異界納税申請書”が積まれていた。

 用紙に記された送り主の名前は、見れば見るほど常識を超えている。


「天界」「魔界」「深海都市ナギル」「竜王領」「幽界省」――。


 勇輝は書類をめくりながら、ため息を深くついた。


「名前のスケールがヤバいな……」


 加奈は別の束を手に取り、声を震わせる。


「この“魔界大公デスガルド様”の寄付額、ゼロが……16個あります」


「一京!? 国家予算クラスだぞ!?」


 会議室の空気が“地上に存在しない金額”の重みで揺れた。



■昼・異界経済部ミーティング


――オンライン会談、まさかの豪華メンバー


 事情確認のため、異界経済部は魔法通信を用いて各界と接続した。

 水晶画面には、豪奢な玉座と、炎を背景にした魔界大公デスガルドの姿が映し出される。


「貴市の“温泉パン”が気に入った。納税しておこうと思ってな。」


 彼の低い声は、画面越しでも胸に響いた。


「ありがとうございます!? ですが、納税の目的が……」


 勇輝が恐る恐る尋ねると、大公は笑みを浮かべる。


「ふるさと納税は“心のふるさと”だろう?」


 画面の隅で、炎の動きまでロマンチックに見えるから不思議だ。


「悪魔にしてはロマンチストですね……」

 加奈が小声でつぶやき、勇輝は返答に困り果てた。



■午後・地元説明会


――期待と不安が渦巻く市民たち


 市民センターでは、“異界納税って何?”説明会が開かれていた。

 会場はざわつき、職員の説明が追いつかない。


「魔界大公の金でも税金は税金だろ!?」


「返礼品どうするの!? 温泉券で足りるの!?」


「天界から来た果実、甘すぎて孫が浮いたぞ!?」


 混乱と笑いと悲鳴が飛び交い、

 勇輝は心の中で叫んだ。


(異界間経済の混乱がすでに始まってる……!)



■夕方・財務課会議


――天界の“監査天使”来庁


 庁舎の会議室に、透き通るような光が差し込んだ。

 降り立ったのは、純白の翼をもつ天界財務使者・リュミナ。

 金色の帳簿を携え、微笑みは慈愛そのものだ。


「天界でも“寄付の透明性”は重要です。

 魔界との資金循環、監査対象にしますね♡」


「天界の税務調査が入ったぁ!?」


 勇輝の叫びが庁舎に響く。


「……勇輝さん、もう普通の行政じゃないですね」


 加奈が苦笑すると、勇輝は天を仰いだ。


「いや、地上自治体のどこがこんな現場経験するんだよ……!」



■夜・庁舎屋上


――光の取引、異界と地上を結ぶ


 風がやわらかく吹く屋上で、

 勇輝と加奈は“異界通貨換算報告書”を並べて確認していた。


「でも、異界からの納税が本当に増えたら、

 町の財政、少しは楽になりますよね」


「……それはそうだけどな」


 勇輝は夜景を見下ろしながら、静かに言葉を続ける。


「“異界依存経済”になったら、もう地上自治体じゃなくなる」


 加奈は資料を閉じ、柔らかい声で呟いた。


「それでも――私たちは“町を守る”行政です」


「……ああ。だからこそ、受け取るなら、胸を張って。」


 その瞬間、空を横切るように

 幾筋もの光の流星が降り注いだ。


 ひまわり市と異界を結ぶ、奇妙であたたかい光だった。



■ラストシーン


――魔界大公からの“返礼品”


 庁舎前に、巨大な黒い箱が配送されていた。

 差出人は魔界大公デスガルド。


 添付されたメモにはこう書かれている。


『寄付の証として、ささやかな返礼。

“魔王温泉(持ち運び可)”を贈る。』


 勇輝が箱を覗き込み、眉をひそめた。


「嫌な予感しかしねぇ……」


 箱がゴゴゴと震え、

 次の瞬間――爆ぜるように湯気が噴き上がる!


 ひまわり市の夜に、魔界の湯気が広がった。


第32話「異界からのふるさと納税」END



次回予告 第33話


「魔王温泉・爆誕! ~湯煙と予算の香り~」


開湯と同時に町全体が“魔力温泉地化”!?

住民も観光客も能力覚醒!

だが湯気の奥に潜むのは――

魔界大公デスガルドの、ふるさと納税の“真の狙い”だった……!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ