第32話「異界からのふるさと納税」
~寄付額爆増、でも受け取っていいの!?~
■朝・ひまわり市役所 財務課
役所の朝は、いつも通り書類の匂いとコーヒーの湯気で始まる。
だが今日は、その空気を一瞬で吹き飛ばす叫び声が響いた。
「大変だぁぁぁっ! 異界からの納税申請が殺到してるッ!!」
財務課の佐伯課長が、めずらしく汗だくで走り込んできた。
抱えている書類は、今にも雪崩を起こしそうだ。
「また変なネット記事に載ったんじゃ……」
勇輝が眉をひそめると、佐伯課長は震える声で続ける。
「“地上最強の返礼品、温泉付き別荘”って書かれてるんだ!」
加奈は恐る恐る尋ねる。
「……そんな返礼品、うちにはありませんよね?」
「ねぇよ!? 誰がそんな広報出した!?」
朝の役所に、早くも疲労の気配が漂った。
■午前・市庁舎会議室
――積み上がる異界申請書
会議室の机いっぱいに“異界納税申請書”が積まれていた。
用紙に記された送り主の名前は、見れば見るほど常識を超えている。
「天界」「魔界」「深海都市ナギル」「竜王領」「幽界省」――。
勇輝は書類をめくりながら、ため息を深くついた。
「名前のスケールがヤバいな……」
加奈は別の束を手に取り、声を震わせる。
「この“魔界大公デスガルド様”の寄付額、ゼロが……16個あります」
「一京!? 国家予算クラスだぞ!?」
会議室の空気が“地上に存在しない金額”の重みで揺れた。
■昼・異界経済部ミーティング
――オンライン会談、まさかの豪華メンバー
事情確認のため、異界経済部は魔法通信を用いて各界と接続した。
水晶画面には、豪奢な玉座と、炎を背景にした魔界大公デスガルドの姿が映し出される。
「貴市の“温泉パン”が気に入った。納税しておこうと思ってな。」
彼の低い声は、画面越しでも胸に響いた。
「ありがとうございます!? ですが、納税の目的が……」
勇輝が恐る恐る尋ねると、大公は笑みを浮かべる。
「ふるさと納税は“心のふるさと”だろう?」
画面の隅で、炎の動きまでロマンチックに見えるから不思議だ。
「悪魔にしてはロマンチストですね……」
加奈が小声でつぶやき、勇輝は返答に困り果てた。
■午後・地元説明会
――期待と不安が渦巻く市民たち
市民センターでは、“異界納税って何?”説明会が開かれていた。
会場はざわつき、職員の説明が追いつかない。
「魔界大公の金でも税金は税金だろ!?」
「返礼品どうするの!? 温泉券で足りるの!?」
「天界から来た果実、甘すぎて孫が浮いたぞ!?」
混乱と笑いと悲鳴が飛び交い、
勇輝は心の中で叫んだ。
(異界間経済の混乱がすでに始まってる……!)
■夕方・財務課会議
――天界の“監査天使”来庁
庁舎の会議室に、透き通るような光が差し込んだ。
降り立ったのは、純白の翼をもつ天界財務使者・リュミナ。
金色の帳簿を携え、微笑みは慈愛そのものだ。
「天界でも“寄付の透明性”は重要です。
魔界との資金循環、監査対象にしますね♡」
「天界の税務調査が入ったぁ!?」
勇輝の叫びが庁舎に響く。
「……勇輝さん、もう普通の行政じゃないですね」
加奈が苦笑すると、勇輝は天を仰いだ。
「いや、地上自治体のどこがこんな現場経験するんだよ……!」
■夜・庁舎屋上
――光の取引、異界と地上を結ぶ
風がやわらかく吹く屋上で、
勇輝と加奈は“異界通貨換算報告書”を並べて確認していた。
「でも、異界からの納税が本当に増えたら、
町の財政、少しは楽になりますよね」
「……それはそうだけどな」
勇輝は夜景を見下ろしながら、静かに言葉を続ける。
「“異界依存経済”になったら、もう地上自治体じゃなくなる」
加奈は資料を閉じ、柔らかい声で呟いた。
「それでも――私たちは“町を守る”行政です」
「……ああ。だからこそ、受け取るなら、胸を張って。」
その瞬間、空を横切るように
幾筋もの光の流星が降り注いだ。
ひまわり市と異界を結ぶ、奇妙であたたかい光だった。
■ラストシーン
――魔界大公からの“返礼品”
庁舎前に、巨大な黒い箱が配送されていた。
差出人は魔界大公デスガルド。
添付されたメモにはこう書かれている。
『寄付の証として、ささやかな返礼。
“魔王温泉(持ち運び可)”を贈る。』
勇輝が箱を覗き込み、眉をひそめた。
「嫌な予感しかしねぇ……」
箱がゴゴゴと震え、
次の瞬間――爆ぜるように湯気が噴き上がる!
ひまわり市の夜に、魔界の湯気が広がった。
第32話「異界からのふるさと納税」END
次回予告 第33話
「魔王温泉・爆誕! ~湯煙と予算の香り~」
開湯と同時に町全体が“魔力温泉地化”!?
住民も観光客も能力覚醒!
だが湯気の奥に潜むのは――
魔界大公デスガルドの、ふるさと納税の“真の狙い”だった……!




