第26話「異界動物保護課、暴走!」
■朝・ひまわり市庁舎
出勤直後の静かな廊下で、突然――
「ガオォォォォ!!」
「もふぅぅぅ!」
「ぴぎゃー!!」
「スライムくさい!!」
怒号とも悲鳴ともつかない音が連続し、庁舎全体がざわついた。
「な、なんですかこの動物園状態!?」
加奈が鞄を抱いたまま固まる。
勇輝が廊下の角をのぞくと、
犬耳の職員――動物保護課のルナが必死に走ってくるところだった。
「ちょっと! 誰か止めてぇぇぇっ!」
涙目で叫ぶルナの後ろから、
角ウサギ、炎スライム、翼の生えた猫……
いつ保護されたのか分からない幻獣たちが次々と飛び出してきた。
「わーっとっとっと!!」
美月もSNS用カメラを頭にぶつけながら逃げてくる。
「美月!? なんで撮影してんの!?」
「クセなんですぅぅぅ!!」
■午前・庁舎ロビー(即席・捕獲作戦)
ロビーはすでに半獣半魔のカオス空間になっていた。
総務課が持ち出したロープや結界札でバリケードを形成し、
職員たちが全力で“捕獲作業”にあたる。
「おい、総務課! ロープ持ってこい!」
「登山用ですか? それとも結界用?」
「両方だッ!!」
頭上では飛行猫が警備灯にぶら下がり、
床では炎スライムがちりちりと煙を上げている。
「と、止まりなさいっ……!
あっ、髪引っ張らないでぇぇぇ!」
加奈が捕獲ネットを持ったまま、天井の猫と全力で取っ組み合い。
一方、美月はというと――
「この混乱……“異界動物フェス in 市役所”とかタイトル付ければバズる……いや違う違う違う!」
使命感と不謹慎な衝動の間で揺れていた。
「これはもう、異界動物“暴走特別警報”レベルだ……!」
勇輝が額を押さえる。
■昼・動物保護課 事務室
書類は散乱し、机の上には噛まれた跡と焦げ跡。
その前で、ルナが耳をしゅんとさせながら深く頭を下げた。
「す、すみません!
昨日、新しく保護した“夢獣ベリオ”の魔力が暴走して、
他の子たちが共鳴しちゃって……!」
「夢獣……?」
加奈がメモを取りながら首を傾げる。
「寝てる人の夢を見て、そこから“願い”を現実化しちゃう子です。」
ルナが涙目で説明した。
「つまり、市民が“もふもふに囲まれたい”と思って眠ってたら……」
勇輝が状況を推察する。
「はい。そのまま現実化して庁舎が動物だらけに……」
「夢の力で町が崩壊するって、平和なんだか危険なんだか……!」
「でも……かわいかったです。ちょっとだけ。」
美月がこっそり付け加え、全員にツッコまれる。
■午後・庁舎屋上(夢獣封印作戦)
夢獣ベリオ――白虎のような巨大な幻獣は、
屋上で丸まって心地よさそうに寝息を立てていた。
その周囲には、夢のように生成された幻獣たちが群がり、
温泉街の湯気のようにふわふわ漂っている。
「眠ってるうちに“夢印札”を貼れば、鎮静できるはず!」
加奈が札を握りしめる。
「よし、俺がいく。」
勇輝が慎重に近づく――が、
すぐにベリオのふわふわ毛が足に絡みついた。
「ふわっ……な、なんだこの幸福感……!」
膝から崩れ落ち、顔が半分埋もれる。
「勇輝さん! もふ堕ちしないでください!!」
加奈が両腕で引っ張り出すが、毛並みの吸引力は強かった。
そこへ、ルナが鋭く号令をかけた。
「全員、札投下準備――
もふアタック、開始!!」
どう見ても“平和な突撃”なのに、
市役所史上もっとも統率の取れた動きだった。
職員たちが獣たちに次々と貼り付ける札が光り、
屋上は戦場というより“巨大な癒し空間”と化していく。
「異界行政、総力戦だな……!」
勇輝が息を整えながら呟く。
■夕方・屋上
夢獣ベリオが大きくあくびをし、
その瞬間、辺りに細かな光の粉が舞った。
幻獣たちはその光に包まれ、
静かに元の世界へ転移していく。
「これで全部、保護完了です!」
ルナが満面の笑みを浮かべる。
「もう……もふもふ過剰摂取です……」
加奈がぐったりする一方で、
美月は「写真100枚は撮れた……」と満足げだった。
「まぁ、“動物に優しい行政”ってキャッチコピーは悪くないかもな。」
勇輝が苦笑する。
「パンフに“ふれあい庁舎”って書いちゃいます?」
ルナが耳をぴこぴこ動かした。
「やめてぇぇぇぇっ!!」
勇輝と加奈の悲鳴が重なる。
■夜・庁舎前
喧騒が嘘のように、夜風は穏やかだった。
ベリオの白い毛が一筋だけ風に舞い、空に消えていく。
「……でも、あの子、悪気はなかったんですよね。」
加奈がそっと呟く。
「ああ。夢が溢れすぎただけだ。」
勇輝も同じ方向を見上げながら言う。
「じゃあ、私たちは“夢の管理職”ですね。」
加奈が笑う。
「いい響きだな、それ。」
勇輝も小さく笑った。
――ひまわり市は、今日も夢を抱えて動いている。
第26話「異界動物保護課、暴走!」END
次回予告 第27話
「異界選挙、再び!」
新たに誕生した“異界代表制度”をめぐり、なんと住民による選挙戦が勃発!
候補者は――スライム!? エルフ!?
そしてまさかの勇輝まで推薦され……?
混沌必至、“異界民主主義編”スタート!




