第22話「婚姻課、愛を証明せよ!」
■朝・市役所 婚姻課
朝の婚姻課は、これまでにないほどの活気に包まれていた。
受付カウンターには、書類を握りしめた異界住民と人間のカップルが列をなし、
職員たちが慌ただしく案内に走り回っている。
そんな中、一組のカップルが静かな熱を帯びて職員の前に立った。
エルフの女性・リィナは凛とした表情で言う。
「私たち、正式に結婚したいんです!」
隣の青年・拓真も、力強く頷いた。
「この町で出会って、ずっと一緒に暮らしてきました。
でも“種族が違う”って理由で、届けが受理されないなんて!」
職員が困ったように書類をめくる。
そこには、“婚姻届(人間・異界住民間)”の上に赤い判――《保留》。
加奈が深いため息をついた。
「……法的には、異界住民との婚姻は“存在しない”ことになってます。
でも――」
その背後で、書類を束ねていた勇輝が立ち上がった。
「存在しない制度なら、作ればいい。」
その声に、婚姻課の空気が一瞬止まる。
美月はPR資料を持ったまま目を丸くし、
「新制度の広報動画、作れるかも……!」と小声でつぶやいた。
■昼・市長室
市長・日向は、机に置かれた婚姻データをゆっくりと眺めていた。
その中には「人間×異界」の文字が増え続けている。
「“異種婚条例”を作る、ですって?」
「はい。」
市長は迷いなく答えた。
「異界選挙を通したこの町なら、前例の一つや二つ、増えてもいい。」
勇輝も真剣な目で言葉を重ねる。
「愛の形を“種族”で分ける時代は、もう終わりです。」
加奈はしばし考え――ふっと微笑んだ。
「……やっぱり、うちの職員はロマンチストね。
いいわ。前例を作りましょう。」
その瞬間、美月がガッツポーズを決めた。
「婚姻課特集の広報、任せてください!
“愛を通す町”ってキャッチ、絶対バズります!」
「動機はさておき、助かるよ……」
勇輝は苦笑した。
■午後・市議会
議場は今日も熱気に包まれていた。
傍聴席には異界住民たちがずらりと並び、静かに議論を見つめている。
議員Aが机を叩いた。
「子どもが生まれた場合の法的扱いはどうする!?」
「医療や戸籍の管理は!?」
別の議員も続く。
しかし勇輝はゆっくりと、しかし確信を持って語った。
「子どもが“どの種族”でも、彼らは“ひまわり市民”です。
それ以上でも、それ以下でもない。」
傍聴席でマルコが立ち上がる。
「そうだ! 種を越えた愛に、境界線なんていらない!」
議場がざわつき、異界住民たちが希望の光を宿した目で見つめる。
――投票が行われ、結果は。
賛成多数で可決。
その瞬間、美月はこっそり涙を拭きながら広報用写真を撮った。
■夕方・婚姻課
リィナと拓真が、再び受付に姿を現した。
加奈は満面の笑みで、新しい書類を差し出す。
「こちら、“異界婚姻届”。
記入は共通語でも魔文字でも構いません。」
二人は互いを見つめ、静かにペンを取った。
魔力がふわりと紙面を照らし、温かな光が広がっていく。
「……魔法の契約みたいだな。」
勇輝がぽつりと言う。
「愛は一番、強い契約ですから。」
加奈が微笑んだ。
その背後では、美月がそっと映像を回しながら呟く。
「これ……絶対に、市の広報記録に残さないと……」
■夜・ひまわり市庁舎前
式場として整えられた広場では、
リィナと拓真の“異界初の公式結婚式”が開かれていた。
エルフの笛は風のように澄み、
獣人の太鼓は大地の鼓動を刻み、
スライムたちは光る花びらを空へ舞い上げる。
輝く夜気の中、勇輝が司会として言葉を紡ぐ。
「ここに、ひまわり市は新しい家族の形を祝福します。」
リィナは涙を浮かべながら言った。
「ありがとう、ひまわり市。
この町に来て、あなたと出会えて、本当に幸せです。」
広場に拍手が響き渡り、魔法の光が夜空を照らした。
美月はその景色を撮りながら、
「……広報史上、最高の夜かも……」と呟いていた。
■ラスト・庁舎屋上
夜風が心地よく吹き抜ける屋上。
結婚式の残響がまだ町に漂っている。
「……ねぇ勇輝さん。」
加奈が、手すりにもたれて夜空を見上げる。
「“異界婚”って、書類だけじゃなくて、心の覚悟も試されますね。」
「愛と行政、どっちも手続きが大変だからな。」
そして勇輝は静かに微笑んだ。
「でも、愛が通る町って、いいよな。」
遠くで、祝福の鐘が鳴った気がした。
ひまわり市に、またひとつ――新しい制度が生まれた。
第22話「婚姻課、愛を証明せよ!」END
次回予告 第23話
「異界企業とブラック労働問題」
異界企業が持ち込んだ“魔力残業システム”。
それは働き方改革か、それとも魔力搾取か?
労基課 VS 魔導商会――
行政が、“働く”を救う。
働き方の闇に、ひまわり市が切り込む!




