第21話「異界選挙と民主主義の挑戦!」
■朝・市役所選挙管理委員会
市長選――その言葉が、今やひまわり市を混乱の渦に巻き込んでいた。
転移後初めて迎える選挙。
会議室の机には、山のような申請書と、異界語で送られた問い合わせが積まれている。
選管職員の田辺が頭を抱える。
「異界住民から“投票したい”という要望が殺到しています。
でも……法的には、彼らは“市民”じゃない。」
その言葉に、加奈が顔を上げた。
迷いと怒りが混じった瞳だった。
「でも、ここに住んで、働いて、税金も魔石で払ってます。
それを“市民じゃない”って言えますか?」
勇輝は、机の端に置かれた異界住民名簿を見つめながら呟いた。
「――“異界住民の選挙権”。
これは、自治体が人権をどう定義するかの試金石だな。」
その横で、美月は広報資料をにぎりしめていた。
「選挙のポスター、誰に向けて作ればいいの……?」
ひまわり市の“選挙”そのものが揺らいでいた。
■午前・市長室
市長・日向は窓の外の雑踏を眺めながら言った。
「私は、全ての住民に投票権を与えたい。
けど、国法では不可能。なら、条例でやるしかない。」
勇輝は眉を寄せつつも、静かに頷いた。
「“ひまわり市自治投票権条例”……前例はゼロです。
総務省は間違いなく止めに来ますよ。」
しかし、市長は微笑んだ。
「止められても、やるわ。
この町は、もう“地球の自治体”だけじゃないのよ。」
横で美月がそっと手を挙げる。
「その……広報の観点では、“誰でも投票できる町”って強い言葉になります。
テレビ局、ぜったい食いつくと思います!」
「不純な理由だけどパワーはあるな……」
勇輝が笑うと、市長も肩をすくめた。
■昼・議会
議場の傍聴席は、異界住民で埋め尽くされていた。
ぷるぷる震えるスライム、堂々と座る獣人、静かに目を閉じるエルフ、
そして手帳片手に熱心にメモを取るドワーフ。
議員たちはざわつき、空気は重い。
「人間以外に票を与えるなんて、混乱を招くだけだ!」
議員Aが机を叩く。
「しかし、彼らもこの町の経済を支えている!」
若手議員Bがやり返す。
傍聴席からマルコが立ち上がり、声を張った。
「人も魔も、投票という魔法を使う権利があるはずだ!」
勇輝はマルコの言葉を聞きながら思う。
(投票って……信じることの証なんだよな。
“この町が続いていく”と信じる力の結晶だ。)
美月は議場の記録をカメラに収めながら、
“歴史の瞬間”を噛みしめていた。
■午後・臨時記者会見
条例が――可決された。
報道陣が殺到し、全国ニュースが即座に速報を流す。
「スライムにも投票権? 識別方法は?」
記者が詰め寄る。
加奈が説明パネルを示しながら答えた。
「魔力認証+意思波紋検出で、“投票意思”を確認します。」
勇輝も補足する。
「一人一票。
種族を問わず、意志ある者すべてに、です。」
美月はすかさず広報用動画を配信し、
“ひまわり市は誰も置いていかない”というメッセージを打ち出した。
■選挙当日・ひまわり市民ホール
投票所には、これまで見たことのない列ができていた。
小さなスライムがぷるぷる震えながら投票用紙を入れ、
獣人の母親が息子の肩を抱きしめ、
エルフの老人が深く一礼して去っていく。
美月は涙ぐみながら、その様子を撮影し続けた。
「……投票所って、こんなに美しい場所だったんですね……。」
「そうだよ。」
勇輝は投票箱を見つめながら、静かに言った。
「“平等”って言葉が、今日だけは嘘じゃない。」
■夜・開票センター
魔力と電算を合わせた前代未聞の集計システムが光を放つ。
結果が映し出された。
日向市長、再選。
会場に歓声と涙が広がる。
エルフも人間もスライムも、同じように拍手を送った。
市長はマイクを握り、言葉を紡いだ。
「人も異界も関係ない。
ここに住む全ての命が、“ひまわり市”です!」
魔法の光が夜空へ放たれ、
それはまるで異界と人界の祝福のようだった。
■深夜・市役所屋上
静かな風の中、勇輝が空を見上げた。
「……選挙って、“信頼”の証明書なんだな。」
加奈が隣で肩を寄せる。
「でも、きっと国から怒られますよ。」
「構わないさ。
“民主主義”ってのは、怒られながら進むもんだ。」
その横で、美月が静かに写真を撮った。
“自治の夜明け”とタイトルをつけて。
風は柔らかく、どこか祝福の匂いがしていた。
第21話「異界選挙と民主主義の挑戦!」END
次回予告 第22話
「婚姻課、愛を証明せよ!」
エルフと人間、スライムと獣人――
“愛”にも行政の手続きは必要です。
婚姻届は、種族が違うとどうなるのか?
証明書は? 親の同意は?
そもそもスライムと獣人は婚姻制度に該当するのか!?
異界と現代日本の価値観が激突する、
恋と行政のダブル修羅場編、開幕!




