表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/132

第21話「異界選挙と民主主義の挑戦!」

■朝・市役所選挙管理委員会


 市長選――その言葉が、今やひまわり市を混乱の渦に巻き込んでいた。

 転移後初めて迎える選挙。

 会議室の机には、山のような申請書と、異界語で送られた問い合わせが積まれている。


 選管職員の田辺が頭を抱える。


「異界住民から“投票したい”という要望が殺到しています。

 でも……法的には、彼らは“市民”じゃない。」


 その言葉に、加奈が顔を上げた。

 迷いと怒りが混じった瞳だった。


「でも、ここに住んで、働いて、税金も魔石で払ってます。

 それを“市民じゃない”って言えますか?」


 勇輝は、机の端に置かれた異界住民名簿を見つめながら呟いた。


「――“異界住民の選挙権”。

 これは、自治体が人権をどう定義するかの試金石だな。」


 その横で、美月は広報資料をにぎりしめていた。

「選挙のポスター、誰に向けて作ればいいの……?」

 ひまわり市の“選挙”そのものが揺らいでいた。


■午前・市長室


 市長・日向は窓の外の雑踏を眺めながら言った。


「私は、全ての住民に投票権を与えたい。

 けど、国法では不可能。なら、条例でやるしかない。」


 勇輝は眉を寄せつつも、静かに頷いた。


「“ひまわり市自治投票権条例”……前例はゼロです。

 総務省は間違いなく止めに来ますよ。」


 しかし、市長は微笑んだ。


「止められても、やるわ。

 この町は、もう“地球の自治体”だけじゃないのよ。」


 横で美月がそっと手を挙げる。


「その……広報の観点では、“誰でも投票できる町”って強い言葉になります。

 テレビ局、ぜったい食いつくと思います!」


「不純な理由だけどパワーはあるな……」

 勇輝が笑うと、市長も肩をすくめた。



■昼・議会


 議場の傍聴席は、異界住民で埋め尽くされていた。

 ぷるぷる震えるスライム、堂々と座る獣人、静かに目を閉じるエルフ、

 そして手帳片手に熱心にメモを取るドワーフ。


 議員たちはざわつき、空気は重い。


「人間以外に票を与えるなんて、混乱を招くだけだ!」

 議員Aが机を叩く。


「しかし、彼らもこの町の経済を支えている!」

 若手議員Bがやり返す。


 傍聴席からマルコが立ち上がり、声を張った。


「人も魔も、投票という魔法を使う権利があるはずだ!」


 勇輝はマルコの言葉を聞きながら思う。


(投票って……信じることの証なんだよな。

 “この町が続いていく”と信じる力の結晶だ。)


 美月は議場の記録をカメラに収めながら、

 “歴史の瞬間”を噛みしめていた。



■午後・臨時記者会見


 条例が――可決された。


 報道陣が殺到し、全国ニュースが即座に速報を流す。


「スライムにも投票権? 識別方法は?」

 記者が詰め寄る。


 加奈が説明パネルを示しながら答えた。


「魔力認証+意思波紋検出で、“投票意思”を確認します。」


 勇輝も補足する。


「一人一票。

 種族を問わず、意志ある者すべてに、です。」


 美月はすかさず広報用動画を配信し、

 “ひまわり市は誰も置いていかない”というメッセージを打ち出した。



■選挙当日・ひまわり市民ホール


 投票所には、これまで見たことのない列ができていた。


 小さなスライムがぷるぷる震えながら投票用紙を入れ、

 獣人の母親が息子の肩を抱きしめ、

 エルフの老人が深く一礼して去っていく。


 美月は涙ぐみながら、その様子を撮影し続けた。


「……投票所って、こんなに美しい場所だったんですね……。」


「そうだよ。」

 勇輝は投票箱を見つめながら、静かに言った。


「“平等”って言葉が、今日だけは嘘じゃない。」



■夜・開票センター


 魔力と電算を合わせた前代未聞の集計システムが光を放つ。


 結果が映し出された。


 日向市長、再選。


 会場に歓声と涙が広がる。

 エルフも人間もスライムも、同じように拍手を送った。


 市長はマイクを握り、言葉を紡いだ。


「人も異界も関係ない。

 ここに住む全ての命が、“ひまわり市”です!」


 魔法の光が夜空へ放たれ、

 それはまるで異界と人界の祝福のようだった。



■深夜・市役所屋上


 静かな風の中、勇輝が空を見上げた。


「……選挙って、“信頼”の証明書なんだな。」


 加奈が隣で肩を寄せる。


「でも、きっと国から怒られますよ。」


「構わないさ。

 “民主主義”ってのは、怒られながら進むもんだ。」


 その横で、美月が静かに写真を撮った。

 “自治の夜明け”とタイトルをつけて。


 風は柔らかく、どこか祝福の匂いがしていた。



第21話「異界選挙と民主主義の挑戦!」END



次回予告 第22話


「婚姻課、愛を証明せよ!」


エルフと人間、スライムと獣人――

“愛”にも行政の手続きは必要です。


婚姻届は、種族が違うとどうなるのか?

証明書は? 親の同意は?

そもそもスライムと獣人は婚姻制度に該当するのか!?


異界と現代日本の価値観が激突する、

恋と行政のダブル修羅場編、開幕!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ