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第20話「異界防災と災害ボランティア」

■夕方・ひまわり市庁舎


 異界に転移して半年。

 いつしか当たり前になっていた青空が、この日の夕方、突然その色を変えた。

 紫色の雲が渦を巻き、まるで空そのものが鳴動しているかのように見える。


 防災課長・山根がモニターを叩きながら叫んだ。


「風速は不明。観測機器が魔力干渉で狂ってる!」


 勇輝は窓の外を見上げ、ぞくりと背筋が強張った。


「異界版の“台風”か……これは規模がデカいぞ。」


 加奈は通信システムに食らいつくが、画面にはノイズしか映らない。


「市内放送が届きません! 魔力波で通信妨害が!」


 その中で、市長が立ち上がった。

 指先は震えていたが、その声ははっきりとしていた。


「全職員に通達。――“異界災害対策本部”を設置!」


 美月は広報資料を抱えたまま、震える唇を引き結ぶ。

「こんな時だからこそ、情報を届けなきゃ……」

 その決意が胸の奥に静かに息づいた。



■夜・対策本部


 会議室は緊急で長机が追加され、

 人間の防災課、消防団、魔導士ギルド、エルフ自警団、

 そして広報担当として美月までが肩を寄せ合う状態になっていた。


 地図の上に記された避難所マーカーが、魔力の乱れで揺らめく。


 マルコが長耳を揺らしながら説明した。


「この風は“魔素の乱流”。防げば魔力を逆流させてしまう。避難が最善。」


「だが、避難所の結界が持つかどうか……。」

 山根が唸る。


 勇輝はホワイトボードにペンを走らせた。


「結界を“行政指定避難所”として法的に認定する。

 魔力補助金の対象にして強化する!」


 加奈が思わず声を上げる。


「そんな条例、まだ――」


「作るんだ、今!」

 勇輝の声が響く。


 その隣で、美月が避難広報用の文章を即座に書き上げていた。

 “魔力嵐接近中。安全確保を最優先に行動してください”

 ――異界語と日本語を併記した緊急チラシは、すぐさま印刷された。



■避難誘導・夜の商店街


 冷たい風が路地を走り、瓦屋根の影が揺れた。

 懐中灯と魔法の光が交差する中、職員たちは必死に駆け回っていた。


「落ち着いてください! 避難所は“中央体育館結界区画”です!」

 加奈がメガホンで叫ぶ。


 獣人の母親が不安げに子どもを抱きしめた。


「人間の施設に行っていいの!?」


「もちろんです! ここは“みんなの町”です!」

 加奈は迷いなく微笑む。


 その横で、美月が避難誘導を撮影しながらSNS投稿を行う。

“異界住民・人間ともに安全確保を開始。本部は全力で対応中。”

 投稿から数秒で拡散し、市民たちの不安が少しずつ薄れていった。



■市立体育館・避難所


 体育館は魔法陣で補強され、

 そこに集まった人と異種族が毛布を分け合いながら身を寄せていた。


 勇輝は前に立ち、マイクを握る。


「今ここにいる全員が、“ひまわり市民”です。

 属性も種族も関係ない。――みんなで、この夜を越えましょう!」


 ざわついていた空気が、少しだけ静まった。

 スライムの子どもが丸くなり、エルフの老人がそれを毛布で覆う。

 そんな小さな優しさが次々と生まれ始める。


 そのとき、外で雷のような魔力が閃いた。

 体育館の結界が激しく震え、光の膜が波を打つ。


「くっ……持つか!?」

 山根が声を上げる。


 マルコが杖を掲げ、詠唱した。


「“結界強化・共鳴の陣”!」


 光が大きく広がり、魔力嵐を弾いた。

 住民たちが息を呑み、その光景を見つめる。


 美月は防災本部に状況を発信しながら、

 “守られている瞬間”の尊さに胸を震わせていた。



■夜明け・静寂


 嵐が過ぎ去った朝。

 紫の雲は消え、朝日が瓦礫をきらりと照らしていた。


 加奈は胸に手を当てながら、涙ぐんだ。


「……誰も、死ななかった。」


 山根は空を見上げ、静かに頷く。


「奇跡だ。結界と人の連携が、守ったんだ。」


 勇輝は瓦礫の中に残った灯りを見つめて答えた。


「いや、奇跡じゃない。

 “備え”があったから、みんなで動けた。」


 市長が手帳を閉じながら言う。


「“異界防災基本条例”――施行ね。これからも備えましょう。」



■夜・市民ボランティアセンター


 復旧作業のために集まったボランティアたちが、

 長い列を作っていた。


 獣人もエルフもスライムも、

 人間と肩を並べて道具を運び、片付けを進めていく。


「人間さんの道具、ぷるも手伝うぷる!」

 スライム青年が工具を運びながら誇らしげにいう。


 加奈はその姿に微笑んだ。


「ありがとう。あなたたちがいなかったら間に合わなかった。」


 勇輝は復旧の様子を眺めながら、静かに言った。


「これが……“共助”か。

 防災って、行政よりも、住民の魔法だな。」


 美月は瓦礫の中で働くみんなの姿を写真に収め、

 “ひまわり市は、一緒に立ち直る町”とキャプションをつけて投稿した。


 その投稿は、異界新聞でも話題になったという。


第20話「異界防災と災害ボランティア」END


次回予告(第21話)


「異界選挙と民主主義の挑戦!」


エルフも、獣人も、スライムも投票する――?


“市民とは誰なのか?”

“選挙権はどこまで認めるのか?”


前例ゼロの政治編、ついに始動!

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