第17話「異界学校と教育委員会の戦い!」
■朝・ひまわり第一小学校
朝のチャイムが、いつもと同じ軽やかな音を響かせた。
だが、その校舎の風景は“転移前”とはまったく違っている。
教室の窓の外では、森の精霊が子どもたちに手を振り、
校庭の砂場では――ドラゴンの子どもが丸まって昼寝をしていた。
周囲の児童たちは最初こそ怯えていたが、
今では“砂場の新しい地形”くらいの扱いである。
美月はPR用の写真を撮りながら苦笑する。
「これ……“学校紹介パンフ”に載せられるのかな……?」
そこへ、教育委員会担当の加奈が資料ファイルを抱えて駆け寄ってくる。
「転移後も登校率は100%です……が、問題が。」
彼女の目線の先、昇降口には耳の尖ったエルフの子、
角の生えた魔族の子、ふわふわした獣人の子――
すでに“学びたい者”の種類が爆発的に増えていた。
勇輝も深いため息をつく。
「うん、明らかに“生徒が異世界人混ざってる”問題だな。」
そこへ胸を張ったマルコ(エルフ商人)が割って入る。
「学びたいと願う者を拒むのは教育の恥ですぞ!
我が国では5歳から魔法初級を――」
加奈が即座に指を立てて制止する。
「ダメです、文科省指導要領にない科目です!」
横で美月が「(行政、日本のしがらみ強い……!)」と小声でこぼした。
■昼・市役所 教育課会議室
市役所の一室には、緊張した空気が流れていた。
机を挟んで向かい合うのは――
教育委員会
魔法学院代表団
まさに“知識戦争”の構図である。
魔法学院長・リュシアンは優雅な白衣を翻しながら語る。
「魔法学は“自然の理”を理解する学問。義務教育で教えるべきです。」
対する教育委員長・小山は眉間にシワを寄せた。
「しかし、魔法というのは……科学的根拠が乏しい!
下手をすれば火傷・爆発・異界召喚事故の恐れも!」
美月は記録係として議事録を取りつつ、
「(去年の理科実験で机吹っ飛んだ件、まだ根に持たれてる……)」と心の中で突っ込む。
勇輝も席の端で腕を組みながらつぶやいた。
「(まあ実際、去年の理科実験でも机が吹っ飛んだしな……)」
会議室の緊張は、まるで爆発寸前の魔法瓶のようだった。
■午後・校庭/実証授業
“折衷案”として開催された体験授業。
テーマは――
「科学と魔法の共通点」
校庭には安全柵が張られ、教師と職員、美月、教育委員、魔法学院の面々が見守る中で行われる。
講師役のマルコが胸を張って宣言した。
「見よ、人間の火打石と、我らの火炎魔法。
原理は同じ――“エネルギーの転換”!」
彼が火打石を鳴らすと、かちりと小さな火花。
続いて軽く魔法陣を描くと、ぽわんと安全仕様の小さな火の玉。
「おおー!」
子どもたちから歓声が上がる。
美月は写真を取りながら「これは広報映えする……!」と息を呑む。
加奈は控えめな声でつぶやいた。
「すごい、ちゃんと安全管理もしてる……。」
リュシアンは満足げに微笑む。
「魔法は危険ではない。学ばぬことこそ危険なのです。」
小山は腕を組んだまま黙って見ていたが、やがて重く口を開く。
「……それは、教育の根本理念でもあるな。」
風がふっと吹き、
火の玉は安全装置の結界へ吸い込まれて消えた。
校庭の空気は、少しだけ柔らかくなった。
■夕方・ひまわり市 教育委員会室
体験授業の好結果を受け、会議室に再びメンバーが集まる。
小山がゆっくり立ち上がり、宣言した。
「“異界共通基礎教育”を制定します。
科学・魔法・倫理を共に学ぶ新しいカリキュラムを。」
加奈は胸に手を当てたまま、瞳を潤ませた。
「異界と日本の子どもが同じ教室で学ぶ……
これ、本当にできるかも。」
美月も「パンフ更新しなきゃ……!」と喜びの悲鳴をあげる。
勇輝はゆっくり息を吐き、言った。
「行政って、こういう“希望の計画書”を通すためにあるんだよな。」
その言葉に、小山も静かにうなずいた。
■夜・ひまわり市 校舎屋上
夕焼けの赤が校舎を染め、やがて星がひとつ輝き始める。
その屋上には、勇輝とリュシアンの二人だけがいた。
下からは子どもたちの笑い声や、家庭科室の鍋の音が微かに聞こえる。
リュシアンは夜空を見上げたまま言った。
「この世界では“教えること”が、あなた方の魔法なのかもしれませんね。」
勇輝は苦笑しながら肩をすくめる。
「……行政魔法ってやつかな。申請書の呪文で社会を変える。」
リュシアンは穏やかな笑みを見せた。
「ならば、我々はその魔法を学ぼう。」
二人の視線の先で、星がまたひとつ瞬いた。
『異界に浮かぶ町、ひまわり市』
― 第17話「異界学校と教育委員会の戦い!」END ―
次回予告 第18話
「異界交通とバス運転手たち」
魔獣も乗れる!?
新交通法に挑む運輸課の奮闘!
「車体重量オーバー!? いや、それドラゴンが乗ってるんだよ!」
「スライムは座席扱いか、手荷物扱いか!?」
ひまわり市、まさかの “市バス、天翔ける”交通行政編へ!




