第16話「異界グルメフェスと保健所バトル!」
■朝・ひまわり中央公園
朝日が差し込むと同時に、中央公園は熱気を帯び始めていた。
異世界と人間世界の料理が一堂に集まる大イベント――
「異界グルメフェス in ひまわり市」
公園いっぱいに並んだ屋台は、香辛料、魔法素材、蒸し気、甘い香りが入り混じり、もはや“屋外”なのに“厨房の中”のような賑わいだった。
人間の行列の後ろには、耳の長いエルフ、毛並みの整った獣人、ぷるぷる跳ねるスライムたち。
まさに食の混成軍ができあがっている。
美月は広報カメラを回しながら歓声に耳を澄ます。
「すご……! これ、絶対今日トレンド入りしますよ!」
その横で、加奈が本気で悲鳴をあげた。
「見てください勇輝さん! お客さんの列が……通り越して転移門まで続いてます!」
勇輝は信じられない光景に口を開けたままだった。
転移門の向こうにも屋台の続きがあり、近くの町でも「ひまわり市フェス」と看板が出ている。
「マジか……屋台が国をまたいでる!? 物流どうなってんの!?」
そこへ、目を輝かせたマルコ(エルフ商人)が胸を張った。
「本日の目玉、“フェニックスの炙り肉丼”ですぞ!
再生する肉を使うのでサステナブル!」
「いや倫理的にアウトでは!?」
勇輝の悲鳴に、美月と加奈が「(それはそう……)」と同時にうなずいた。
■昼・保健所テント
公園の端に設置された白いテント。
そこからは冷たい空気が漂い、屋台の熱気とは正反対の静けさが支配していた。
テントの中央に立つのは――
鋭い眼鏡と白衣がトレードマークの、保健所主任・夏井。
夏井の前に置かれた書類の山は、異界食材の検査報告書で埋まっていた。
「生肉調理に“炎属性調理法”は未認可です。
あと、スライム製ゼリーは“分類上・生体食品”です。販売中止。」
淡々と告げる声に、加奈が叫ぶ。
「スライムは……食べ物じゃないんですか!?」
すかさず、ぷるんと震える影が前に出る。
「ぼくたち、食用に分化してるぷる! 衛生証明もあるぷる!」
夏井は書類をめくり、一瞬でツッコんだ。
「証明書が“ぷるん印”って何!? 公的印じゃないでしょ!」
美月は「(いや可愛いけども!)」と心の中で悶えていた。
■午後・特設ステージ前
ステージ前に設置された会議テーブルには、色とりどりの異界食材サンプルが並んでいた。
香草、魔石塩、風属性穀物、モンスター肉……すでに見た目から文化摩擦が生まれそうだ。
勇輝、市長、マルコ、夏井、そして怒りで湯気が出そうな屋台連合の面々が集合する。
市長は、両手を広げるように声を張った。
「異界グルメで町おこしするなら、保健所と協力しなきゃダメよ!」
夏井はペンを指先で弾きながら答える。
「私は許可を出せと言われたんです。出せる根拠をください!」
マルコが鼻息荒く言い返す。
「我らの国では、“魔除け香草”で寄生虫を防ぐのだ。」
「科学的根拠ゼロですね。」
即答。
勇輝が肩をすくめながら手を挙げる。
「じゃあ――実証実験だ。」
美月と加奈は同時に「(うわ始まった)」と心の中で頷いた。
■検証シーン・グルメフェス内ラボ
臨時で設置された検査テント。
中には魔法陣と科学機器が混在し、異界と人間界の研究者が入り乱れていた。
エルフの魔導師が魔力反応を測定し、
人間の技師が細菌検査装置を操作する。
まさに“魔法と科学の融合ラボ”だった。
加奈が検査結果を読み上げる。
「魔力検知反応……OK!
細菌反応……陰性! 成功です!」
夏井は目を丸くしたまま固まっていた。
「まさか……科学と魔法を併用した衛生管理!?」
勇輝が自信ありげに腕を組む。
「“衛生のハイブリッド行政”ってことで、どうですか?」
夏井はしばらく沈黙したあと、深く頷いた。
「……おもしろい。
ひまわり市、全国初の“異界食品衛生認定制度”を出しましょう。」
その瞬間、加奈と美月が「やったー!」と小さくハイタッチした。
「やったわね! これで安心して食べ歩きできる!」
市長の声が明るく響いた。
■夕方・フェス中央広場
ステージにライトが灯り、司会者の声が響く。
「本日のグランプリ、
“スライムぷるぷるゼリー”に決定〜!」
観客は人間も異種族も関係なく、ひとつの歓声を上げた。
多種族混合の拍手は、祝祭の夜を震わせる。
ステージに上がったスライム商人は、全身で喜びを表していた。
「認められたぷる……ぼくらも、“ひまわり市民”ぷる!」
ぷるぷる震えながら流す涙に、勇輝は思わず視線をそらす。
「(……なんか泣けるな。)」
その横で、加奈が静かに言った。
「行政って、書類だけじゃないですね。
“認め合う味”があるんだ。」
「異界でも保健所強ぇな……」
勇輝のつぶやきに、美月が苦笑する。
■夜・グルメフェス後
屋台の明かりがゆっくり消えていく。
後片付けをしているのは、残業組の勇輝と夏井だった。
夏井は片付けながら、ふと勇輝の横顔を見る。
「あなたのやり方、悪くなかったです。
“魔法的安全性”を数値化する発想、全国でも前例なしですよ。」
勇輝は笑って返した。
「行政って、現場で動いてナンボですから。」
夏井も眼鏡を押し上げ、少しだけ笑みを浮かべる。
「……次は“異界給食”の衛生管理ですね。」
「また仕事増えた……!」
二人の笑い声が、夜のフェス会場に響いた。
その上では、片付け残りの提灯がふわりと揺れ、
星空に温かいオレンジ色の光を映していた。
『異界に浮かぶ町、ひまわり市』
― 第16話「異界グルメフェスと保健所バトル!」END ―
次回予告 第17話
「異界学校と教育委員会の戦い」
魔法教育と義務教育が衝突!?
教育委員会 vs 魔法学院の知識バトル勃発!
生徒たちの魔力暴走、教科書の異世界語問題、
そして“給食にスライムゼリーを出していいのか”論争まで――
ひまわり市、今度は教育行政に挑む!




