第32話 『魔力というもの』
「シロン、起きたんだ! 良かった~!」
開口一番、シロンの無事を喜ぶレーア。
勢いのままベッドに飛び込んできたレーアとシロンが抱き合う。
「あっ! ご、ごめん! 痛くなかった?」
ハッとした様子で身体を放すが、シロンは落ち着いた様子だった。
「問題ない。理由は分からないが、怪我が完治している」
「えっ、早くない!?」
言いながら、ちらとザレスの方を見るが、小さく首を横に振る。
そこで、思いついたようにシロンが声を上げる。
「確かめたいことがある。……ザレス、すまないが少し部屋を出ていてくれないか?」
「わ、分かった……まだ聞きたいこともあるし……終わったら呼んでくれると、ありがたい……」
そそくさと部屋を出ていくザレスを見送り、扉が完全に閉まったのを確認する。
突然、シロンが手刀で自らの腕に傷をつけた。
「えっ、シロン!?」
皮膚が浅く裂かれ、血が滲み出す。
「ここに、星の光を纏わせてくれ。私を運んだ時のようにだ」
「う、うん……」
言われるままに星を集めて傷口に纏わせる。
すると、傷が見る見るうちに塞がっていった。
「……痛みもない。やはりか」
「わ、私がやったの? 今の……」
シロン以上に驚いた様子で周囲に集う光を見つめるレーア。
「何か変わったことは?」
「えっ? うーん……あっ、ちょっとだけ魔力が減ってるかも?」
「ふむ。……治癒魔法とは、恐らく違うのだろうな」
確認を終えると、シロンは部屋の外のザレスを呼び戻した。
「それで、聞きたいこととは?」
「た、単刀直入に聞くけど……シロンちゃんって、もしかして……魔力を纏わずに、戦ってる……?」
「魔力を? 私は魔法使いではないが」
それを聞いて、ザレスは腑に落ちたように息を吐いた。
「ま、魔法の四属性は……知っているね……?」
「知らないな」
「私も知らない!」
「そ、そっか……」
ザレスは先程座っていた木の椅子を引っ張ってくると、それに腰掛けて話し始める。
「ま、魔法には、『炎』『氷』『雷』『風』の四つの属性があって……生まれつき、どの属性に適性があるか……決まっているんだ……」
魔法使いのレーアにとっても初耳だったため、二人はザレスの話に耳を傾ける。
「ま、まあ、魔力を固めて撃ち出すとか……鎖を作って縛るとか……防壁を張るとか……そういう『基礎魔法』は、適性に関係なく……練習すればできるようになるけど……」
言いながら、指先で魔力を動かして見せる。
「と、とにかく……人間なら誰しも、魔力は持っているんだ……。魔法使いは、魔力自体を攻撃手段とするけど……シロンちゃんみたいに、魔力を使わずとも戦える人は……魔力を身体に纏って、強化を施すんだよ……」
「いいなぁ……転んでも平気だったりするのかな」
能天気な考えを述べるレーアに、シロンが小さく笑う。
「レーアはよく転ぶからな」
「そ、そんなことないし!」
頬を膨らませるレーアの身体を、ザレスが物珍しそうな目で見る。
「し、しかし、レーアちゃんも不思議な……身体をしている。魔力に似た力が……全身を巡っているような……」
ザレスに何が見えているのかは分からなかったが、星の力に勘付かれても面倒だと思い、シロンが話題を戻す。
「それで、やり方は分かるのか?」
「か、簡単だよ……まず、全身を脱力させて……何か、体内に流れるものを……感じるはずだ……」
目を瞑り、言われるままに脱力する。
すると、体内を巡るエネルギーのようなものを感じ取ることができた。
「……これが魔力か」
「次に、それを外に広げる……イメージをするんだ……全身を、覆うように……」
凄まじい集中力を見せるシロンを、レーアは息を呑んで見守っていた。
「さ、流石だね……完璧にできてるよ……」
「……特に違いが分からないな」
見た目に変化があったわけでもなく、シロンはあまりピンと来ていないようだ。
「そ、そうだな……じゃあ、これで試してみるといい……」
ザレスが杖を振り、シロンの前に魔力防壁を作り出す。
「このシェルターの、壁くらいの強度にしてあるから……」
「分かった。やってみよう」
呼吸を整え、剣を引き、息を吐きながら突き出した。
魔力防壁は音を立てて砕け散り、それを見たレーアがぱちぱちと拍手する。
「これは……本当に、壁と同じ強度だったのか?」
「その様子だと、実感できたみたいだね……」
珍しく、驚きの感情を表に出すシロン。
思わぬ収穫を得たところで、ザレスが真剣な表情で二人に向き直る。
「そ、それで……こうして話している間にも、地上ではフェルダーズが暴れている。そこで、二人にも手伝って欲しいんだけど……」
「トンネルも封鎖されていると聞いた。暴動を収めないことには、カルテトを出ることもできないだろう」
「みんなを助けないと!」
ザレスの要請に対し、二人は力強く頷く。
こうして、工業都市カルテトを救うための作戦会議が始まったのだった。




