第16話 『世界に撒かれた火種』
「二人とも、大丈夫だったかい!?」
聞き慣れた声の主はフィースだった。
「私は大丈夫! シロンはまだ寝てるみたいだけどね」
フィースは二人を見ると、心底安心したような顔を見せた。
「二人が無事で本当に良かったよ……全く、無茶をしたもんだね」
「えへへ……逃げようとしたときにはそんな力も残ってなくて……」
「それもそうだけど、君たちが戦ったのはミノタウロスの変異種だったんだよ」
それを聞いてレーアが驚きの声を上げる。
「ええっ!? だ、だからあんなに強かったんだ……」
「普通はトルム高原から出てこないミノタウロスが平野まで降りてきたというのも、変異種なのが理由だったんだろうさ」
フィースはベッドの横に置いてあった椅子に、足を組んで座った。
「あっ! そういえば私たち、どうやって王都まで戻ったきたの?」
「……咆哮やら爆発音やら、随分と派手にやってたんじゃないかい? 戦闘音に気づいた近辺の騎士が駆けつけて、ミノタウロスの死体と倒れるレーアちゃんたちを見つけたらしい」
「あぁ……」
それを聞いたレーアは納得した様子を見せた。
「そうそう、ミノタウロスを倒した君たちに騎士団から報奨金が出るらしいね」
「えっ? そんなのがあるの?」
「他所から紛れ込んだ変異種なんて、何をしでかすか分からない。本来なら騎士団が早急に始末するべきなんだけど、彼らは紛れ込んだミノタウロスが変異種だということにも気づいていなかった。これは紛れもなく騎士団の落ち度さ!」
なぜか楽しそうに語るフィースに、レーアが苦笑する。
「何にせよ、金が手に入るというのは嬉しい誤算だ。ちょうど、足りない路銀をどう工面するか考えていたところだったからな」
「わっ、起きてたの!?」
「今、目が覚めたところだ」
後ろで寝ていたシロンが急に会話に参加してきて驚くレーアだったが、すぐに柔らかい表情に戻った。
「とにかく、みんな無事に帰ってこれてよかった!」
「ああ。危険もあったが、それ以上に良い経験が積めた」
「うんうん、二人とも良い顔をしてるね!」
三人で軽く談笑していると、診療所に二人の騎士がやって来た。
「レーア殿にシロン殿。エルガルド平野に出現した変異ミノタウロスの討伐、騎士団を代表して感謝する」
そう言って二人は敬礼し、レーアもそれを真似て敬礼し返す。
そして、騎士達は報奨金が入った袋を置いて部屋を出て行った。
「お金だ~! いっぱいだ~!」
袋を振ってジャラジャラと鳴る音を聞いて笑顔を浮かべるレーア。
「さて、このあと二人はどうするんだい? 何か予定があったりするのかな?」
「えっ? この後って……」
「レーアはともかく、私の足がまだ……」
言いながら気づいたのか、目を丸くするシロンにフィースが笑ってみせる。
「あっはっは! 王都の診療所は優秀だからね! 二人の身体は治癒魔法でとっくに完治してるはずさ!」
シロンがベッドから立ち上がり、軽く身体を動かしてみる。
「……本当だ。傷一つ残っていないな」
「こ、こんな簡単に治っちゃうもんなんだねえ……」
それを見て、レーアもベッドから飛び起きる。
「ん、私の魔力も元通りになってる! みんなも元気そう!」
星の光に囲まれて笑顔を見せるレーアを見て、シロンも安堵の表情を浮かべる。
「では、一度フィースの家に戻って今後の方針を練るか」
「じゃあ、みんなで帰るとしようか!」
三人は診療所を出て、フィースの家へと向かった。
レーアとシロンは疲れを癒すために帰ってすぐ風呂に入り、その後に三人で夕食を取ることにした。
「それで、次にどうするかだけど……」
「変異種とはいえ、一体のミノタウロス相手に苦戦したんだ。まだラステア付近へ向かうのはやめておいた方が良いだろう」
「うーん……やっぱりそうだよね……」
二人が頭を抱えていると、フィースが話を切り出した。
「トルム高原を探索してみるのはどうかな? あそこはまだ未踏の場所も多い。どこかにお宝が眠っていたりするかもしれないよ?」
「お宝っ!?」
お宝と聞いて、案の定レーアが反応を見せた。
「生息するモンスターの強さを考えても、次に向かう場所としては妥当だと思う!」
「ふむ……何か良い装備品でも手に入れば嬉しいが」
シロンも特に異論はないようだ。
こうして、二人の次の行先は『トルム高原』に決定した。
「ところで、お前は何か騎士団に不満でもあるのか?」
「んっ? どうしてそう思ったんだい?」
シロンから投げられた突然の問いに、フィースが目を丸くする。
「街中を歩いている時や先ほどの騎士を見る目だ。騎士団は日頃から国内外の治安維持に努めているはずだが、お前はあまり良い感情を持っていないように見える」
「……鋭いね、シロンちゃん」
「えっ、なになに? 何の話?」
話についていけないレーアをよそに、観念したようにフィースは語り始める。
「二人は、エリシア王国の国宝と呼ばれる遺物について聞いたことはあるかい?」
「ないな」
「私も知らないっ!」
フィースは両手を広げ、いつものように笑顔を張り付ける。
「かつて、とある国によって繁栄と平穏を願うものとして『祝福のオーブ』と呼ばれる遺物が三大都市に贈られたことがあった」
「『祝福のオーブ』……」
「でも、繁栄と平穏を願うだなんてのは真っ赤な嘘だった。本当はオーブに込められた洗脳魔法で国王を洗脳し、三大都市を支配しようと企んでいたのさ」
「……壮大な計画だな。とある国というのは一体どこなんだ?」
フィースはくすくすと笑い、
「その昔、多くの研究者たちによって栄華の限りを極めた『技術都市ラステア』だよ」
と、そう二人に告げた。




