第12話 『ミィナル大森林の脅威』
翌朝。今日は、城の北門を出てまっすぐ進んだところにある『ミィナル大森林』へ向かった。
ここに生息するモンスターは、エルガルド平野より少し強い程度。
そのため、次なる修練場所としてはここが最適と考えたのだ。
「……!」
森に入ってすぐ、並び立つ木の一本が枝を伸ばして攻撃を仕掛けてきたのを、シロンが横跳びで躱す。
そのまま地面を蹴って、枝が縮んで戻る前に素早く斬り落とした。
「キィィィイイイイイイ!!!」
凄まじい金切声が森に響き渡り、周囲の木がぐらぐらと揺れ始める。
瞬間、二人に向けて凄まじい敵意が向けられた。
これは木型のモンスター、『トレント』だ。森林や廃村などで木に擬態し、縄張りに侵入してきた者に鋭い枝を伸ばして奇襲する。
伸縮自在に操ることができるその枝は、同時にトレントの弱点でもある。三本以上の枝を切り落とされると、生命力を維持することができずに枯れてしまうのだ。
「えやあっ!」
レーアは両手に星を纏い、迫って来る無数の枝を『アストラル・スラッシュ』で次々と斬り捨てていく。
その様子を見ていたシロンが、すぐにトレントの弱点に気づいて叫ぶ。
「レーア! 枝を三本落とせばこのモンスターは殺せる! 無闇に撃ちまくるな!」
それを聞いて、レーアも戦い方を変える。まずは一体のトレントに集中し、枝を三本落としたら次のトレントに狙いを定める。その間、無防備になる側面と背後からの枝の防御は、星の光に任せるという戦い方だった。
レーアは先日の戦いで、星の意思による自動防御に頼っていては自分の力で戦っているとは言えず、戦闘における全ては自分で行うべきだと考えていた。
だが、星にも意思があり、レーアにも意思がある。それは実質的に常に二人で戦っているようなものであり、戦闘においてこれ以上ないアドバンテージと捉えることができる。
故にレーアは、星に防御を担当してもらい、自分は敵をしっかりと見据えて、確実に攻撃を打ち込む。そうやって戦っていくと決めた。
「やぁっ! たぁっ!!」
一皮剝けたレーアの表情は晴れやかなものであり、次々にトレントを撃破していく。
シロンも木々を足場にして縦横無尽に駆け回り、ワイルドベアの時と同じように傷一つ負っていない。
身体を動かせば動かすほど、敵を殺せば殺す程、段々と記憶を失う以前の感覚を取り戻して行くような、不思議な感覚があった。
太い木の幹を強く蹴り、大きく飛び上がったシロンが空中で身体を回転させ、剣に風を纏ってそれを思い切り振り切る。
「はぁっ!」
纏った風が剣撃と共に凄まじい勢いで放たれ、進路上の全てを薙ぎ払う。
レーアの『アストラル・スラッシュ』から着想を得た、シロンの初めての剣技『エア・スラッシュ』である。
「これで粗方片付いたか」
タンッと着地してシロンが呟いた。
レーアの方を見ると、まだ戦いが続いているようだった。それを見たシロンが再び剣を握りしめてレーアの方へ駆けて行く。
駆けつけたシロンは違和感を覚えた。原因はすぐに分かり、枝をどれだけ切り落としてもダメージを受けている様子がなかったのだ。
動きも他のトレントと違い、通常のトレントが枝を獲物目掛けて一直線に伸ばしてくる中、このトレントは枝を曲げて死角からの攻撃を行っていたり、地面に突き刺して地中に潜伏させた枝を別の場所から突き出していたりと、多彩な攻撃を繰り出していた。
そして何より、攻撃に使われている枝の数が多い。星による自動防御があるレーアだから辛うじて相手できているようなもので、シロンですらその全てを捌ききるのは困難だと感じるほどの、圧倒的な手数による飽和攻撃だった。
「っ……!」
防御が間に合わず、レーアの頬を枝が掠める。慣れない痛みにレーアが苦い表情をするが、トレントは容赦なく枝を伸ばしてくる。
枝がレーアを突き刺す寸前、飛び込んだシロンが剣で枝を弾き飛ばした。
「私が枝の隙間を縫って奴に奇襲を仕掛ける。お前は枝をできるだけ多く引き付けて防御に専念しろ」
そう言ってシロンは素早く場を離れ、トレントの視界から消える。
このトレントの倒し方に、シロンは既に気付いていた。
上の方を見ると攻撃に使われていない枝が三本あり、それらの枝は他のものより一回りほど太く見えた。
「特別な個体であろうと、同じモンスターである以上弱点は変わらない」
周りの木を蹴りながら上へ上へと登っていき、気取られないように少し離れた場所で身体を回転させ、剣に風を纏い身体の力を抜いて少しの間滞空する。
蠢く三本の枝が射線上に重なった瞬間、全身全霊の『エア・スラッシュ』を解き放ち、全てを吹き飛ばす勢いで風が空を裂く。
聞くに堪えない断末魔が森に響き渡り、二人は最後のトレントを撃破した。
「はぁ……疲れた」
「怪我は?」
シロンに聞かれ、レーアは頬を見せる。
「ここをちょっと掠っただけ! 大丈夫だよ!」
指差したところは、既に血は止まっているものの、皮膚が裂けていた。
「今日はこれで戻るとしよう。彼の家なら傷薬くらいあるだろう」
そうして二人は森を出て、王都へと帰って行った。




