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第62話「突如現れた古代野郎」

俺の名前はヤクロ。

今年で17になる、駆け出しの剣士だ。

この胸当ては、頑強な魔獣の皮で仕立てたもので、出立の祝いに親父がくれた。

同じく、手に馴染む新しい剣も。どちらも、俺にとっては宝物だ。

 一緒にパーティーを組んでいるのは――

聖術士のロカ、元素魔術師のミラハル、闘士のサン。

そして今、血を流して倒れているのが、悪魔召喚師デーモンサマナーのヨンレイ。

皆、ギルドでブロンズやシルバーのランクを持つ若手冒険者たちだ。

数ヶ月前、晴れて正式なCランクパーティーとして登録された。

このまま順調に依頼をこなし、全員が腕を磨いていけば、いつかきっと――

ゴールドランクやプラチナランクのパーティーにもなれると信じていた。

ギルドに、街に、俺たちの名前を轟かせる日が来る。そう思っていた。

今回の依頼は、王都西南西の森の――その生態調査だった。

Cランクのパーティーにとっては、少し背伸びした任務ではあったが、やる気だけは十分だった。

グオネラ。

そう呼ばれる獰猛な鳥型魔獣が、いくつもの縄張りを築いているこの森は、

とくに奥地に踏み込めば、そこは危険地帯として知られている。


前、宿の大浴場でちょっとだけ話した先輩冒険者、「剣に灯る光」のウォリアー、ゴロウスさんは、

単独でそんなグオネラを討伐できるらしい。……とんでもない奴だ。

いつか、俺もあんな風になりたい。いや、なれるように努力する。

でも――今、俺たちが相手にしているのは違う。

本来、この森には存在しないはずの上位魔獣、アメジストタイガー。

それが目の前で、仲間を蹂躙している。


話には聞いていた。

あのベヒーモスが最近討伐されたことで、近隣の強力な魔獣たちの縄張りが崩れ、

力関係も変わり、新たな住処を求めて移動していると。

ワイバーン、グリーンドラゴン、ライジンユニコーン……そして、アメジストタイガー。

こいつは、あのグオネラですら餌にするという。

本来なら、Bランクでも上澄のパーティーでなければ討伐対象にはならない魔獣だ。

……俺たちでは、勝てるわけがない。


「う、うわあああああッ!!」

サンの叫びが響いた。

次の瞬間、彼の左手首が砕け、巨大な牙がその身体を振り回す。

地面に何度も叩きつけられたサンは、動かなくなった。

その攻撃は、もとはロカを狙ったものだったが、彼が身を挺して庇ったのだ。

「ヤクロ、これ……逃げたほうがいいんじゃない!?」

ロカが、怯えた声で言う。

「馬鹿言え、サンたちを見捨てるのか……?!」

「でも、このままじゃ私たちも全滅だよ!」

正論だった。

たとえ全員倒れるよりも、誰かが生き延びてギルドに報告する方が、

きっと意味がある……のかもしれない。

だが、果たして――逃げ切れる…のか?

アメジストタイガーの視線は、確実に俺たちを捉えて離さない。

毛皮には、仲間たちが与えたかすかな傷跡。

それが、俺たちを明確な「敵」と認識させてしまっている。

……終わりだ。

虎がこちらに飛びかかろうと、筋肉を収縮させた――

その瞬間だった。


「ガルッ!?」

アメジストタイガーの巨体が、突如として崩れた。

本人(虎)も、目の前の冒険者たちも、思わず呆気にとられる。


――何が起きた?

虎の両前脚には、いつの間にか謎の包帯のようなヒモが巻きつき、ガッチリと拘束されていた。

さらには、


「……くラえッ!」

パーティーメンバーの誰でもない、

聞き覚えのない声が響き、今度は後ろ脚にも同じヒモが現れる。

四肢を縛られた虎は、地面に叩き伏せられた。

まるで、丸焼きにされる前の豚のような格好だ。

「グルルルァッ……!ゴルゥ!ガルゥッ!!!...グォオオ!」

アメジストタイガーは、目の前の人間たちではなく――

別の何者かからの攻撃だと察知し、首を振りながら周囲を見渡す。

そして、若き冒険者たちも同時に“それ”を見つけた。

黒いローブをまとった、細身の異形。

下半身と腕は包帯でぐるぐる巻き、異様なほど痩せこけている。

もはや“ガリガリ”という言葉でも足りないほどの、不気味な存在だった。

「ほら、モっとキツくするゾ〜」

愉快そうな声とともに、包帯がギチギチと音を立ててさらに締めつける。

来る日も来る日も、木を倒して脱出するために包帯を操り続けていたミイラ男。

彼の能力はその過程で確実に進化していた。


――出現させた包帯は、念じて“消す”まで数時間残留可能。

――拘束力もかつてより遥かに強化されており、普通の人間ではもう破れない。

――さらに、複数の対象に対して別々の包帯を同時に操作することもできるようになっていた。


虎が身動きを封じられている隙に、ミイラ男は別の包帯を呼び出す。

狙いは、倒れている冒険者たち。

「ヨンレイ!」

ヤクロが叫ぶ。

一瞬、剣を抜こうとするが、傷つける様子はない。行動から察するに、どうやら敵意はないらしい。

少なくとも、今のところは――味方と見ていい。

「安心しロ!敵ジャない。安全ナ場所へ運ブ!」

そう叫ぶと、謎の男はヨンレイ、サン、ミハエルをそれぞれ包帯で引きずり、森の奥へと移動させる。

……だが。ブチブチッと音を立てて、包帯がちぎられる。

相手はあのアメジストタイガーだ。ただ拘束するだけで終わるような相手ではない。

それでも、数分でも足止めできたことは驚異的だった。


「アッ、やべっ、ちょ、待ッテね...アアア!」

ミイラ男が再度包帯を出現させようとするが――

もはや間に合わない。視線の先では、虎が鋭く地を蹴った。

次の瞬間、ミイラ男の腹部に虎の前脚が叩き込まれる。

轟音とともに、腹が――抉られた。

「ああっ!そんな...!」

隣にいたロカが、思わず叫ぶ。

せっかく助けが入ったと思ったのに――!

だが、不可解なことが起こる。

ミイラ男の腹からは、血も、内臓も、一切こぼれない。

代わりに、パリパリッと乾いた音を立てて、上半身だけが崩れ落ちた。

「俺たちも死ぬ……終わりだ」

ヤクロが悔しげに呟く。

そして、アメジストタイガーがこちらを振り返った。

再び、全力で突っ込もうとしている――

走馬灯のように、シルバーランク昇格を家族が祝ってくれた日の情景が浮かぶ。

サンやミラハルたちと笑い合った日々も、まぶたの裏に去来した。

そのときだった。


突如、虎の周囲に黒い霧が巻き起こった。

禍々しく、うごめくような影の靄。

霧に包まれたアメジストタイガーは、一瞬ピクリと身を震わせ、

次の瞬間、口から泡を吹き――そのまま、地面に崩れ落ちた。

その後、二度と動くことはなかった。


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