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第40話「どこか因縁を感じる、伝説の魔獣。」

「死者葬とは、霊魂を呼び、遺族とお話をする仕事、ですよね。

正直に言うと、僕たちに語りたい死者は居ないのです。」


「はぁ?」という顔つきでユーキを見るゴンギ。

その目にあるのは警戒ではなく、純粋な疑問だった。


「冒険者の一団よ、私をからかっているのか?三十八万シヌというのは、冗談にしては額が過ぎるぞ。」


「我々は本気だ。金額にも、ウソも偽りもない。」

リブキがきっぱりと断言する。


ゴロウスが一歩前に出て、低く唸るように言葉を続けた。

「……その“魔獣”は、これまでに数え切れない命を奪ってきやがった。町も村も、血の泥に沈めた。

ベヒーモス――伝説に語られる地の怪物だ。俺たちは、それを止めに行く。」


そこまで言って、ゴロウスは言葉を切った。

視線の先で、ゴンギが腕を組み、薄く笑う。


「……ベヒーモス? なるほど。討伐の決意はわかった。

だが、だから何故“死者葬”なのだ? 犠牲者の声を探りたい――とでも繋げるか?」


挑発めいた口調に、ユーキが静かにうなずいた。

「……そういうこった。その“魔獣”は、数え切れぬ命を喰らってきた。

そしてこれからも、無念の死者を生み続けるだろう。」

「死者葬で呼ぶまでもない。

あの人たちの願いはきっと一つだと思います。 ――“これ以上の犠牲を出さないでくれ”。」

「ベヒーモスを討つことこそ、最大の葬送だ。俺たちだけじゃ無理だ、アンタの力を貸してくれ。」


ユーキとゴロウスの念を押す言葉に、ゴンギは少しずつ情報を飲み込んでいく。

「クククククッ……私に、討伐に同行しろと!? 正気を失っているのか。

しかも、ギルドの掲示板では討伐禁止と出ていたぞ。 なるほど、こんな真夜中に、礼儀の無い奴らだとは思ったが––––つまりは非公式...だな?」


「その通りだ。」

リブキが静かに頷く。その声音は、鎧の鳴る音とともに凛と響いた。

「……承知の上だ。我らはそれでも挑む。」


「ふん。だがあれは伝説の魔獣だぞ? 実質的に命を賭けるのも同じだ。

それに三十八万シヌ……ずいぶん安く見積もられてはいないか?」


「おっしゃる通りです…もっと渡せる財産があればよかったのですが、現状これが全財産でして…」

ユーキが正直に頭を下げると、リブキが額に手を当ててため息をついた。

「……やっぱりお前は口が軽すぎる。」


そうかな?ごめん、というユーキの声を遮る形で、不気味なエコー混じりの声が、がらんどうな空間に響いた。

「伝説ノ魔獣ッテ、ナにが違ウ? 死ンだラ、皆ただノ肉塊ダロ? ホら、ここに居ルシチューも!」

「ヒッ!」

――おそらくユーキの声だ。小声だったが、夜の石壁にはやけに鮮明に響いた。

冷静そうなリブキからも、少しだけ殺気が飛んできた気がした。

沈黙を破るようにザンギリが口を開く。

「……ベヒーモスは違うでごわす。奴は“地そのもの”を揺るがす、超強い"カバ"なんでごわす!」

「カバ?...」

ミイラ男は聞き返す。カバって、あのカバ?

「昔、近隣の亜人の村が襲われたことがあった……建物二つぶんくらいある巨体のカバ! 伝説と呼ばれるだけあって、オーガの集落を一晩で壊滅させたそうでごわすよ。」


……おい、サラッと言ったけど、建物二個分って、それ恐竜どころかラスボスじゃん。

異世界、ネズミですらこのサイズだったしな。カバならそりゃもう規格外か。


「へー……」


そういえば、古代エジプトのファラオにもいたな。

カバに殺された王が。

名前はメネス――別名ナルメル。古代エジプト最初の王朝を築いた、歴史の教科書に必ず出てくる偉大なファラオだ。


でも、その栄光のラストが……まさかの「カバにかみ殺された説」。


あれよ、古代エジプト版『最期がアホっぽい偉人ランキング』堂々のトップ。

ピラミッドとか神殿とか後世に残しまくっておいて、最後は「カバにやられました」って。

そのギャップに当時の神官たちも困っただろうな。

「……え、マジで?……書き残します?これ?いやでも、カバ強いですからね……」みたいな。


あの世で会ったら、ぜひ聞いてみたい。

「どのタイミングでカバと喧嘩したんですか」って。


……まさか、またこの俺が歴史をなぞることになるのか?

やだぞ俺、そんなカバ堕ちは。


リブキが静かに一歩前に出た。

その顔は、決して冗談では済ませない者のものだった。


「だからこそ、だ。――ベヒーモスを放置すれば、また多くの者が“無念の死”を迎える。

あれは、ただ強いだけの魔獣じゃない。存在そのものが、土地を呑み、命を喰らい、街を破壊で塗りつぶす“災厄”だ。

……私たちは、それを止めに行く。

命を懸けてでも、たとえあなた達がついてこなくても。奴の前足くらいは切り落としてみせる。」


ゴロウスも低く唸る。

「俺もリブキも、過去にアイツの被害に遭ってる。家族もみーんな殺されたよ。

生半可な覚悟じゃねえってことだ。だが、犬死はしたくねえし、その...」

少しだけリブキのほうに顔を向け、すぐに戻す。

「させたかねえ。本当は、上位パーティーの討伐を待つのが定石なんだろうが、到着まで時間がかかっちまうからな。」

「そうなんです、Sランクレベルのパーティーは今、王都には居ないですから。」

発言の残響が闇に溶けたその瞬間、ミイラ男の耳許をかすめるように風が走った。

「(あれ……絶対、女騎士のこと好きでごわすよ!)」

ザンギリはゴロウスの僅かな仕草を見逃さず、唐突にアンデッド・恋バナを囁きはじめる。

「(ソリャ、かナり美人ダかラな...)」

青緑の瞳は夜光を孕み、垂れ落ちた金髪は月明かりを鏡のように返していた。華奢な肢体に、整った顔立ち。現世に生まれていても、舞台に立つ女優のように光を放っていただろう。

この異界に化粧など存在するのかは定かでない。だが、もしあれが素顔だというなら──化け物じみた美貌だ。


「(ンチュ、ンチュ……)」


シチューまでもが思わず、音にならぬ同意を漏らす。

「時間がかかるとマズいのか?」

……シグの問いかけに、夕闇に立つ人狼の影が重なる。つい夕方まではただの脅威にしか見えなかった存在に、ゴロウスはわずかに身構えた。

「(死霊術の支配下にあるなら……無闇に襲いかかってはこないはずだ)」

亡きネクロマンサー、ブームストの語っていた言葉を思い出し、胸の奥で慎重に反芻する。そして数秒の沈黙ののち、答えを絞り出した。

「まぁな。ちと縁がある村を数日で奴は通過する予定だ。それまでにはなんとかしたい。」

「……うん。笑われてもいい、無謀だと罵られても構わないさ。だけど、見て見ぬふりはできないよ...!」


ゴンギはふっと鼻で笑う。

「……まったく、命知らず共にしては筋が通ってるじゃないか。 いいだろう、話ぐらいは聞いてやる。」

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