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第31話「日の光射すギルドに、謎の男と...ミイラ?」

ギルドの扉が、軋むような音を立ててゆっくりと開いた。

そこに立っていたのは――ボロ布のようなローブを羽織った男。

そして配下の屍たちがぞろりと続く。


中でも特に目を引くのは、包帯で全身を巻かれたアンデッドだ。

異様に細く、触れてはいけない何かを纏っている。

ギルドの空気が、一瞬凍りついた。


「……これはまた、濃いのが来たな」

ゴロウスがかすかに目を細める。


「ネクロマンサーだよ……」

ユーキが息を飲むように言った。

「……ブームストを思い出すね。でも、ミイラは……何だ? 見たことないよね。

僕たちも依頼で墓場探索はしたことあるけど、ああいうのは初めてだ」

亡き仲間、ブームストの姿を思い出しながら、一同は包帯姿の異形を凝視する。


「不気味だな……。だが側にネクロマンサーがいる、妙な真似はしないだろう」

リブキがほんのり警戒を示す。


見慣れない視線とざわめきに包まれ、ミイラ男の二日目は始まる。


「オい、ゴンギ」

「どうした?」

「なんカさ、俺だケすげー見らレてなイか?……」


やはり少し不安になる。


「そうだろうな。 アンデッド自体は冒険者にとって珍しくないが……ミイラ、しかもファラオともなれば、私ぐらいしか連れていないだろう」

ゴンギが肩をすくめる。

古代の王族のミイラが夜の街道をテクテク歩く光景なんて──ロマンと物珍しさが同居した、

異世界でも滅多に見られない場面なのだろう。


「ファラオどん、それだけ威厳があるってことでごわす! 胸張っていくでごわす!」

ザンギリが大きな手で背中をバンと叩く...叩こうとした寸前のところで、やめた。


「アりがトう……デも、もう一つ不安ガあル」

古代から受け継いだ呪い。

手の届く距離に、こんなにも大勢の冒険者がいる。

もし誰かが無闇に触れれば──あの忌まわしい力が発動してしまうかもしれない。


考えを察したのか、ゴンギは薄く笑って言った。

「心配いらん。見た目だけじゃない、“何か”が漂ってる。数々の命を短期間で葬ってきた、明らかにヤバい呪物感がな」


…そうなのかなぁ。

面倒ごとを避けられるなら願ったりだ。

でもそれってつまり、第一印象が“触ったら死ぬ系の化け物”ってことだろ。褒められてるようで全然嬉しくないぞ。

ていうかさ、それ……お前が蘇らせたんだよな?

自分で作っておいて、その仕上がりにドン引きしてるみたいなこと言うなよ。


包帯の奥で軽くため息をつく。

そして少し姿勢を動かして、考える。


その動作の瞬間、近くで飲んでいた冒険者たちが、なぜか一斉に目を逸らした。

わざと視界から外すように、こちらを見ない。


──王都二日目。どうやら静かな日常とは、縁がなさそうだ。


ギルドのカウンターに向かうと、ゴンギは懐から一枚の古びた冒険者カードを取り出した。

それは長い年月を経て燻んだ色をまとい、角は欠け、表面には細かな傷が刻まれている。

しかし、ゴンギの纏う冥力に呼応し、カードの刻印が淡く紫色に揺らめいた。


「さて、依頼を受けにきたのだが…」


若い受付嬢は、そのカードを恐る恐る手に取り、不思議そうに眉を寄せる。

「んん〜……?」と小さく唸る声が、耳に届くほどの距離で漏れた。

なんだか、もう嫌な予感しかしない。


「とりあえず、Bランクパーティーが受ける依頼を適当に行いたい。

私一人でも務まると思うが、何かあるか?」


「……Bランクの依頼、ですか? えっと……」

受付嬢は困ったように視線を泳がせ、ゴンギとカードを交互に見比べる。


ゴンギの表情は「なぜスムーズに進めなんだ?」とでも言いたげだが、口には出さない。


「すいません、私このカード…見たことがなくて。確認してきますね」


困惑を隠しきれない笑顔を張りつけたまま、受付嬢はカードを持って奥へ消える。

そして、しばらくして戻ってきたのは──先ほどの若い娘ではなく、場数を踏んだ落ち着きと威厳をまとった熟練の受付女性だった。


「ゴンギさん……あなた、もう八年も活動していないわね。

しかもカードの更新もしていないでしょ。こういう場合はね、ギルド規定では《消息不明扱い》になるのよ」


ゴンギは腕を組み、無言で頷いた。

だが数秒後、額にじわりと汗が滲み、「……マジか、知らなかった……」とでも言いたげに固まる。

「何やっテンだ、お前。しッカりしロよ」

思わず呆れが口をつく。

「ドンマイ!」

ザンギリは太い腕で、ぽん、と彼の肩を叩いた。


一方、少し離れた席では──

「聞いたかい?! あのネクロマンサー、たった一人でBランクの依頼……つまり、僕たちと同等のクエストを受けようとしてたよ! 何者なんだ?」

ユーキが興奮を抑えきれず、仲間たちに小声で囁く。

その声には、ただの好奇心ではない。

──もし彼が仲間になってくれたら、どれほど心強いだろう……そんな淡い期待が滲んでいた。


「オークやビッグラットの亡者はあまり強そうに見えないが……骨も。

奴自身が相当な熟練の冥力使いなのか、

それとも──あの包帯のアンデッドが、とてつもない何かを秘めているのか……?」

机に肘をつき、口元を覆いながら、リブキも冷静に分析を始める。


「……なんか揉めてやがんな」

ゴロウスは片耳をぴくりと動かす。


カウンターでは、熟練受付嬢の声が少し低くなり、諭すような、しかし容赦のない調子で言葉が続く。

「そもそもね、ゴンギさん。

パーティーじゃないと、ギルドの依頼は受けられないの。

最低でも二人ね。 登録して、チームとして認められなきゃいけないわ」


「むぅ……登録ならしているが」


「えぇ、そうね。《群れを統べる者たち(ホールドマスターズ)》──帝都で知らぬ者はいない有名パーティー。

ここブラッデインでも、昔はよくその名を耳にしたものよ」


受付嬢は、うつむくゴンギにさらに追い打ちをかける。


「なら、誰かひとりでも当時の仲間を連れてきてくれればいいのよ。

カードの更新には少し時間をいただくけど、それで依頼は受けられるわ。……今は、一緒じゃないの?」


「それは……」


言葉が途切れた。

ゴンギはほんの一瞬、視線を彷徨わせる。

──かつての仲間は、もう誰ひとり生きてはいないのだ。


道中での「不死帝」の話。

あれは、ギルドからの重大な依頼でもなければ、報酬目当ての討伐でもない。

“不死帝を倒せ”などというクエストが、存在するはずがない。


あれはただ——

魔獣を、悪魔を、アンデッドを集め、配下を増やし続けた者たちが、

ほんの一時の純粋な好奇心で踏み込んだ、途方もない遊びだった。


「死者の帝王すらも従わせる」——そんな夢物語を、彼らは本気でやってのけようとしたのだ。



戦いは凄絶を極めた。


マスターランク冒険者、大剣豪ロクゾウ——の、アンデッド。

生前の俊敏さこそ鈍ったが、一振りで地形を変える剣撃、死してなお宿す桁外れの「気」、そして異様に冴えた頭脳。

手にした“最王刀(さいおうとう)”のひとつ「不可死」は、切先を透明にして音もなく敵を両断する。

ゾンビ化させたことで他の冒険者からの非難も浴びたが、アンデッドになっても尚、民を幾度も救った実績が、すべての口を閉ざさせた。


さらに、アンデッド強化バフ専門のハイキヒが、その力を極限まで引き上げる。

その結果、ロクゾウは生前を凌ぐ怪物となり、不死帝率いる亡者の軍勢へと襲い掛かった。



伝説の魔獣、白虎・ダイフ。

銀白の毛皮は武器を弾き、大牙は鎧すら噛み砕く。

二本の尾は人ひとりを容易く締め上げる怪力を持ち、

咆哮には膨大な呪力が宿り、あらゆる特殊能力を一時的に封じる。


加えて、野生の感知能力は桁外れだ。半径二キロの範囲内で、一定以上の力量を持つ存在を感知できるため、不意打ちはほぼ不可能。

敵は姿を見せるより先に、その威圧感と気配で逃げ出すと言われている。


ビーストテイマーのムシノは、独自の調教術を極限まで進化させ、

さらにゴンギたちの協力も得て、十四日間かけてこれを従わせた。



そして——魔界の悪魔を統べる七十二王のひとり、バフォメッツ。

ヤギと呼ぶにはあまりに巨大で荘厳な角、炎の翼を持つ悪魔王。

配下の悪魔は三千。彼を敵に回すということは、その軍勢すべてを相手取るということ。

インプ、イフリート、ガーゴイル……その狡猾さと規模は、悪魔王の中でも随一だった。


さらに、魔界にのみ存在する力「魔気」を防御特化の形で操り、

常に触れることすら叶わぬ結界を纏っている。


アビラスの街で最強と謳われたデーモンサマナー、コルゼンは、すでにバフォメッツを従えた状態で

異人の集団——ホールド・マスターズに加わった。



観測者がいれば、歴史の教科書に載ってもおかしくないほどの激戦。

だがその幕は、誰にも気づかれぬまま静かに降り、今では知る者はひとりもいない。ギルドでさえも。

一振りのロマンに全てを賭けた者たち――それが、ホールドマスターズ。


「……我々のパーティーは、解散した。今は私しか居ない。あいつらは、この街にはいない」


死んだ。全滅した。

その言葉が、喉の奥で重く沈み、舌先まで浮かんでは消える。

ギルド――あの仲間達と何度も肩を並べて訪れた場所に足を踏み入れた途端、

胸の奥に冷たい何かが広がり、現実を受け止める準備がまだ自分にはないことを思い知らされる。


だから、とっさに「解散」という、どこか他人行儀で薄い響きの言葉を選んだ。


受付の女も、そのわずかな含みに気づいたのか、短い沈黙のあと口をひらく。

「……なるほどね。でも、規則は規則よ。新しくパーティーに入るか、組むかしない限り、冒険者としては認められないのよ」

声色に、淡々とした拒絶が混じる。


ゴンギは、低い声で「……そうか」とだけ呟いた。

数十秒間の空気の沈黙。

その沈黙の中で、ミイラ男は──

不意に、博物館でバイトをしていた時のことを思い出した。


当時、入場時間を過ぎた家族連れが、どうしても展示物を見せてくれと頼み込んできた。

もう受付を締め切った後で、俺は何度も謝り、でも何とかならないかと食い下がる彼らに、苦い笑顔で頭を下げるしかなかった。

「申し訳ありません」と何度も言いながら、心のどこかで、自分が憎まれ役を買っているのがわかっていた。

ルールを守るしかない側の辛さ。守る者もまた、決して楽ではないのだ。

今、目の前の受付の女も、同じような苦い役目を背負っているのだろう。


そんな彼女の姿勢に、ゴンギもやや諦めたのか、ぽつりと呟く。


「帰るぞ」

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