表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/84

第24話「死んだけど、何か質問ある?」

夕暮れ。


空がオレンジ色に染まりはじめ、森の木々が長い影を落とす頃。

「もうすぐ森を抜けて、王都の外周が見えるか?」そんな希望がうっすら見えてきたその矢先。

ガサリと前方の茂みが揺れ、次いで後方、左右――

気づけば四方を“それ”に囲まれていた。


「……持ってるだけの金貨、銀貨を、全部置いていきな」

「その魔道具もなァ!」


ザラついた声に振り向くと、そこにいたのは――


武装したオークたちが1、2、3.....。5体。


体格はどれも人間の一回りは大きく、

肌は暗緑色で、下顎からは太い牙がむき出しに飛び出している。

目つきはギラつき、鼻息は荒く、獣のような体毛が肩から腕にかけて生い茂っていた。

上半身は毛皮を無造作に巻きつけ肩当てを装備した、いかにもな蛮族スタイル。


「ギチュゥゥ……!」


先に反応したのはシチュー。

耳を伏せ、尻尾を低くし、威嚇の唸りを上げる。


「オークか……我々は、ただ王都へ向かっているだけだ。

それに今は生憎、たいした金を持ち合わせていない。他を当たってもらいたい」


ゴンギは、ジロリと一体のオークを睨み据え、ゆったりとした口調で言い放つ。


「何ィ……!?」「ナメた口ききやがって!」「上等だよォ」


オークたちも一斉にこちらを睨みつけ、唸るように声を放つ。

獣のような息づかいと、湿った森の空気が混ざり合い、空気が急にひりついた。


おそらく彼らは、今まで同じ手口で旅人たちから物を巻き上げてきたのだろう。

威圧に屈し、金や物を差し出す。そういう“前例”を想定していたのだ。

だが──今回は違った。



沈黙が数秒。

次の瞬間、苔を踏みつける音とともに、一体のオークが一歩、前に出た。

手にはスリングを構えており、手つきに迷いはない。


「ならちと痛い目、見てもらおうか……命が惜しけりゃ、言うことを聞くんだな」


ビュッ──


空気を裂く風音とともに、小石が凄まじい速度で飛ぶ。

その弾丸が捉えたのは、俺たちのマスコット……じゃなくて、巨大ネズミのアンデッド、シチュー。


「チュギイィィィ!!」


不気味な悲鳴が森に響き渡った。

アンデッドだから痛覚はないはずだが、まだ生前のクセが抜けていないらしい。

わかるよ、気持ちは。

本能めいた反射で上がったその声は風に乗って、木々の隙間を震わせながら響き渡った。



「ぬっ……!」


ゴンギが、鋭く目を細めた。

その眼差しはスリングを放ったオークと、シチューを交互に射抜くようだった。


「もっかい言うぜ、金目のモンだけ置いてきなァ!」


今度は、より強く腕を振るう音。

二発目の石弾が、一直線にゴンギの腹部を狙う。

だがその直前、ゴンギはローブの裾をひらりと翻し、風を読むかのように半身を逸らした。

まるで、そこに飛んでくることを知っていたかのような、無駄のない動き。


オークの狙いは間違いなく正確だった。

あの石弾の軌道は、完璧にゴンギの胴を捉えていた――はず、なのに。


わずかな動きで、それを避けたゴンギ。

アンデッド任せで自分は動けないタイプかと思ってたけど……

あいつ、地味に機動力あるじゃん。


感心も束の間──

「ザスッ」という重い音が背後から聞こえた。


振り返ると、後方にいたあの後輩スケルトンが、一本の長槍で背中から串刺しにされていた。

刺したのは、また別のオーク。表情にまるでためらいはない。

槍の穂先を支点に、スケルトンの体が地上から持ち上がる。

肋骨の一部は損壊し、メリッとやや鈍い音を立てていた。


「…よっ!」

軽く声を添えながら、その槍をブン、と風を裂く勢いで横薙ぎに振り抜く。

スケルトンが木に強く叩きつけられた。

背骨や肋骨の破片がパラパラと散る。

痛覚も感情もないはずだが、バタバタと手足を暴れさせるその姿は、

どこか虫めいていて、正直……不気味だ。


「ちっ……」

ゴンギが小さく舌打ちを漏らす。

「面倒だな。殺すか?」

吐き捨てるような独り言は、ローブの陰に吸い込まれていった。

誰にも聞こえなかったはずだが、場の温度が、ほんの少し下がった気がした。


その瞬間、構えるようなポーズを保っていたミイラ男は、たまらず声を張り上げた。

「おイ!ゴンギ! この状況、どうスレバいいンだよ!?」


シチューに突進されたときのトラブルとは明らかに性質が違う。

これはアレだ、ピラミッドの奥で“王の間”の扉を開けた瞬間、壁のレリーフの目が全部がこっちを睨んできて、「合言葉を述べよ」と言ってきた――そんな種類のやつだ。

……なんならその目全部から、ビームが放たれてる緊迫した状況。


――そして。


「ッ!?……」


あ……れ?……お……レ……?


「ザンッ」という音が、どこか遠くで鳴ったような気がした。

直後、俺の視界が“すうっ”と横に滑る。

いや、滑ったんじゃない──回転したのだ。視界が歪み、右から左へ森の木々がぐるりと巡る。


足元・・いいや、「腹から上」が、ふわりと宙を浮く感覚。

そして、次の瞬間──


ドン。


世界が一気に静止し、視界の下半分に湿った苔と土が広がった。

そこが俺の“終着点”だった。


何が起きたか。いや、今ので分かった。

さっき俺の左側に陣取っていた三人目のオーク。

そいつが横に大きく振るったのは、刃こぼれだらけの巨大な戦斧。

乾いたミイラ男の胴体は、あっさりと真っ二つに──水平断裂されたわけだ。


その現実を視界が捉えた瞬間、ゴンギの動きが止まった。


「……っ!」


息を呑む音が聞こえた気がした。

彼の顔に、はっきりと“動揺”が浮かぶ。

見開いた目はわずかに震え、唇が乾いたように微かに開く。



「さぁ……!お前の配下のアンデッドはこれで」


オークが、そう言い切らない内に、

次の瞬間には絶命し、その姿は地面に崩れ落ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ