第76話 死体の行方
俺と棺崎は佐奈の車で山道を下っていく。
キーが挿しっぱなしでよかった。
もし佐奈が持っていたら泥水から死体を引きずり出すか、徒歩で山を下る羽目になっていた。
助手席に座る俺は窓の外の景色をぼんやりと眺める。
景色といっても土砂降りなのでほとんど何も見えなかった。
それでも沈黙続きの車内の退屈しのぎにはなる。
ダッシュボードには美夜子の霊気を集めた瓶が置いてある。
中に入れた針はだいたい車の進路と同じ方角を指し示していた。
この先に消えた美夜子の死体があるのだ。
俺達は死体の行方を探している。
車が赤信号で停まった際、俺は運転する棺崎に言った。
「別に嘘をつきたいわけじゃなかったんですよ。本当のことを言ったら通報されると思ったんです」
「ほう」
「妊娠した彼女と堕ろすかどうかで喧嘩した挙げ句、殺して埋めたなんてヤバいでしょ。そりゃ隠しますって」
俺は自嘲気味に笑う。
信号が青になり、棺崎は前を向いたまま車を発進させた。
瓶の中の針はまだ前方を指している。
「どうして美夜子の死体が移動してるんですか?」
「淀離協会の仕業だ。奴らが掘り起こしたのだろう」
「やけに自信満々ですね」
「山には魔術を使った痕跡があった。状況的にも彼ら以外が関与したとは考えにくい」
つまり針の指す先には、淀離協会の人間が待っているらしい。
怪しげなカルト組織とは関わりたくなかったが、そうも言っていられないようだ。
「なぜ淀離協会が美夜子を狙うんですか」
「重要な存在だからだ。新村家に侵入した泥棒も彼らだろう。いよいよ動き出したらしい」
「いよいよって……まだ何か隠してますよね。全然意味が分からないんですけど。ちゃんと説明してくださいよ」
俺は手を合わせて頼み込む。
しかし棺崎の反応は冷たかった。
彼女は首を横に振って述べる。
「断る。君だって秘密を抱えて誤魔化してきただろう。ここらで反省したまえ」
「いやいや、もう全部話しましたって! 淀離協会について教えてくださいよ」
「駄目だ」
「お願いですから」
「しつこいよ」
「何度頼んでもノーだ。然るべきタイミングまで我慢してもらう」
俺は探るように棺崎を見て尋ねる。
「……我慢したら後で説明してくれるんですね?」
「約束しよう。だから余計なことを勘ぐらずに休むといい」
真実をあえて伝えないのは俺への気遣いなのか。
いや、棺崎に限ってそれはない。
情報が足りず不安な俺を見て楽しんでいるのだと思う。
策に乗せられていることを自覚しつつ、俺は目を閉じて座席に身体を預けた。




