第75話 開き直り
土砂降りの中、俺は地面に座り込んで虚空を眺める。
とにかく疲れた、動きたくない。
そうやって何もできずに呆けていると、ビニール傘を差した棺崎がやってきた。
棺崎はボロボロの白衣を着ていた。
あちこちに血が付着しているが、大きな怪我はしていない。
その姿に俺は感心する。
(あの状態の美夜子と何十分も戦って生き延びたのか)
正直、とっくに死んでいるものかと思っていた。
一方で棺崎ならどうにか切り抜けそうだという印象もあった。
やはり彼女は底知れない力を秘めている。
俺が考える以上に優れた霊能力者なのだろう。
棺崎は俺のそばに立って話しかけてくる。
「いきなり新村美夜子さんが消えたが、君を追いかけたようだね」
「……あなたを囮に使ったことを責めないんですか」
「合理的な判断だからね。素人の君が残ったところで足手まといにしかならなかった」
率直かつ辛辣な言い方だが、それは紛うことなき事実だった。
俺があの場に留まったところで美夜子に対抗できなかっただろう。
棺崎は泥水の溜まった穴を一瞥する。
「飯島君は心の隙間を狙われたようだ。激しい動揺は霊への抵抗力を下げる。いくら道具で予防しても意味がない」
「……あなたは、予想してたんですか」
「何をだね」
「この状況ですよ。すべてが計画通りって顔をしてるじゃないですか」
俺はずぶ濡れの髪を掻き上げ、正面から追及する。
棺崎は指摘には答えず、微笑しながら人差し指を立てた。
「私は探偵だ。少し推理をしてみよう」
そう言って棺崎は傘をくるくると回す。
降りしきる雨を見上げ、彼女は楽しそうに語り出した。
「私は君に新村美夜子さんの死体を探知する瓶を渡していた。それで自殺した場所を見つけるはずが、君は何の手がかりもなしにここまでやってきた」
「…………」
「君は最初から死体の場所を知っていた。それはなぜか。新村美夜子さんが死ぬ瞬間をこの場で目撃していたからだ」
棺崎が俺を指差し、そして核心を突く。
「新村美夜子さんは自殺したのではない。君が殺したんだね」
俺は棺崎を見つめ返す。
まず初めに抱いたのは解放感だった。
心がすっきりとした。
ずっと隠していた秘密を暴かれたことで重荷が無くなった。
だから俺は堂々と頷く。
「――そうですよ。美夜子は俺が殺しました。これで満足ですか?」
「いいや、不満だね。君の嘘がまた発覚した。本当に信用のない男だよ」
軽蔑を示す言葉とは裏腹に、棺崎の顔は完全に面白がっていた。
そこに怒りなどはなく、ただ呆れ、愉しみ、ふざけている。
単純な話だ。
俺も棺崎も狂っていた。
あーあ、馬鹿らしい。
まあ所詮そんなもんか。
釣られてへらへらと笑う俺は棺崎に確認する。
「依頼を降りますか」
「もちろん続けるとも。君のような人間がどんな末路に至るか興味があるのでね」
棺崎は悪意を全開にして答える。
それが彼女の本性だった。




