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偏愛霊  作者: 結城 からく


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第56話 既視感

 美夜子が地面に激突する。

 衝撃で首や手足が折れたが、気にせず立ち上がって禍舞明神に襲いかかった。


 光る鎖が躍動し、骨の槍を弾き飛ばした。

 さらに禍舞明神の片脚に巻き付いて動きを阻害する。

 美夜子を拘束するために須王会が用意したものだが、逆に使いこなしているようだ。


 美夜子から剥がれ落ちた無数の喰呪霊が、濁流のように禍舞明神に炸裂する。

 腐蝕の力が蔦で出来た胴体を猛スピードで変色させていく。


 禍舞明神はそれらを鬱陶しそうに振り払うと、美夜子を掴んで壁に叩きつけた。

 疾走する動きに合わせて美夜子が擦り潰されていく。

 早くも原形が無くなろうとしていた。


(やっぱり力の差は歴然だ)


 そう思った時、突如として禍舞明神が膝をついた。

 小刻みに震えて美夜子を投げ捨てる。

 向日葵の頭部が少し枯れていた。


 ぐちゃぐちゃになった美夜子が蠢いている。

 彼女は潰れた肉体を軋ませて修復させていた。

 傷口から夥しい量の血を流しながらも真顔だけは崩さない。


 伸ばされた黒髪が慰霊碑を雁字搦めにしていた。

 締め付けによるものか、慰霊碑に小さなヒビが入っている。

 禍舞明神がまた怯んで苦しみ始めた。

 どうやら慰霊碑が弱点らしい。


 骨の槍を拾った禍舞明神は怒り狂ったような挙動で美夜子に攻撃を仕掛ける。

 美夜子も鎖と喰呪霊を駆使して対抗する。

 両者の実力は拮抗しており、一進一退の攻防が繰り返される。

 互いを削り合う激しい戦闘であった。


 すっかり傍観者となった俺は、ふと我に返って動き出す。


(よし、今のうちに逃げよう)


 どっちが勝っても碌なことにならない。

 せっかく美夜子の乱入で隙ができたのだから、これを利用しない手はなかった。


 俺は二人の霊から離れつつ、必死に部屋を探索する。

 そして隠し扉の奥に用意された階段を発見した。

 音を立てないように扉を閉めて、一気に階段を駆け上がる。


 エントランスが近付くと、誰かの怒声や悲鳴が聞こえてきた。

 かなりの騒ぎになっているのが分かる。

 美夜子がフロアをぶち抜いたからだろうか。

 俺はこっそりと顔を出して様子を窺う。


 エントランスは地獄絵図だった。

 あちこちに黒服の死体が散乱している。

 まだ生きている者も、拳銃で頭を撃ち抜いたり、刃物で首を切り裂いたり、壁に頭を打ち付けたりと大忙しである。

 彼らは一様に困惑していた。

 まるで自分の意志ではないように次々と命を絶っていく。


 既視感のある現象を前に、俺は嫌な予感を覚える。


(まさか……)


 俺はエントランスをスルーして再び階段を上がる。

 もし予感が的中した場合、長居するだけで巻き込まれるかもしれないからだ。

 あんな風に自殺したくない。


 それに俺は、ビルを脱出する前に一億円を手に入れなければならないのだ。

 反響する断末魔を聞きながら、俺は夢中で上の階を目指した。

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