第5話 洗礼
何はともあれ早急に山へ向かう準備をしなくてはならない。
俺は近所のホームセンターへ行くと、必要な物を買い物カートに放り込んでいった。
死体を燃やして埋葬するので、キャンプ用のオイルと着火剤、マッチ、土を掘るためのシャベルを真っ先に選び取る。
もし火力が足りなければ、現地でガソリンを調達することになるだろう。
こればかりはなるべくスムーズにいくことを祈るしかない。
レジで合計金額を見た俺は険しい顔になる。
(……そこそこするな)
この買い物で残金はおよそ二万円になった。
美夜子の死体がある山までは遠く、最速で向かうとなると新幹線を使うことになる。
交通費を調べたところ、手持ちの金で足りるが無駄遣いできるほどの余裕はなかった。
(短期決戦で終わらせるのが一番ってわけだ)
大丈夫だ、俺には霊能探偵の棺崎がいる。
渡されたガラス瓶の探知機も本物のようだし、ひとまず信頼はできそうだった。
自宅を出てからは美夜子の怪奇現象も止まっている。
事態は着実に好転しつつあった。
ホームセンターの後はまっすぐに最寄り駅へと向かう。
平日昼間の駅はそこそこにぎわっていた。
数人の学生が楽しそうに喋りながら歩いている。
ベビーカーを押す主婦は子供の手を握って今日の夕食について話していた。
汗を拭く中年のサラリーマンは近くの喫茶店へと入る。
誰もが日常を謳歌していた。
俺だけが狂った非日常に苛まれている。
いっそ思い切り叫びたかった。
しかし無駄な行為だと分かっているのでやめる。
「さっさと移動して楽になるんだ……」
地下鉄のホームに移動した俺は、ちょうど来た列車に乗り込む。
まずはここから新幹線のある駅に行く。
たぶん二十分もあれば着くだろう。
車内は少し混雑していた。
俺はドアのそばに立ってじっとする。
次の駅に着く直前、ポケットのスマホが通知音を鳴らした。
確認するとショートメールが届いている。
送り主はさっき見たばかりの番号――つまり棺崎からだった。
俺はすぐさまメールを開く。
『新村美夜子さんがストーカーだったことを踏まえると、私との接触はリスキーだったかもしれないね』
そんな一文だけが表示されていた。
自然と鼓動が速まる。
背中がじっとりとした汗で濡れるのを感じた。
(どういうことだ)
俺は返信しようとした手を止める。
すぐに続きのメッセージが届いたからだ。
『新村美夜子さんの霊は嫉妬で暴走する可能性がある。彼女の妨害は予想より早い段階から始まるだろう』
その時、車両の前方から「ひあああっ」と女の声がした。
最初は痴漢か何かだと思った。
違和感を覚えたのは、騒然とする車内の雰囲気が尋常ではなかったからだ。
いくつもの悲鳴が連鎖し、乗客達が一斉に逃げ出し始める。
人がいなくなった区画にはスーツを着た若い女が佇んでいた。
半泣きの女の全身には黒い髪が巻き付いていた。




