第42話 蝕まれる肉体
呪いを解くには闇医者に頼るしかないらしい。
霊能力者の棺崎でも可能な気はするが、ほぼ間違いなく有料だ。
金欠の俺では治療費を払えるはずなどなく、この案は諦めるしかなかった。
とは言え、闇医者だって法外な金を請求するかもしれない。
そうなればやはり詰みだ。
ただ俺の懐事情を知る棺崎が提案したということは、金が無くとも治療を受けられるのではないか。
心霊界隈にもボランティアがあるのなら嬉しすぎる。
願わくばそのパターンなのを祈っておこう。
色々と考えていると眠たくなってきた。
疲労がどっと押し寄せてくる。
俺はフロアマットに横たわって目を閉じた。
そのまま楽な姿勢で身体を休める。
朦朧とした意識の中で佐奈と棺崎の会話が聞こえてきた。
「……こいつ大丈夫ですか? 手遅れっぽい感じですけど」
「ふむ、思ったより呪いの進行が酷いね。新村美夜子さんの力が加わったせいだろう」
「例の闇医者まで持ちますかね」
「さあ、どうだろう。本人の根性次第かな」
思ったより俺の状態は不味いのか。
そりゃ大変だ。
眠いせいでどこか他人事のような感覚である。
実際はもっと絶望しなきゃいけないのに。
「別に死んじゃっていいと思いますけどね。普通にクズだし」
「友人なのに辛辣だね」
「セフレ以外に絡みとか無いんで。趣味とか全然合わないんですよ」
佐奈が延々と愚痴っている。
話題はどんどん移り、最終的には俺の性癖やプレイの話まで暴露していた。
プライベートな話を勝手に明かさないでほしい。
抗議したかったが、その気力もなかった。
「それだけ嫌っている割には協力的だね。いくら取材費といっても、電話した翌日に一千万円を用意するのはやり過ぎだ。喰呪荘でもさりげなく霊能グッズを貸していたじゃないか」
「…………一応、あたしの漫画の読者なんで。理由なんてそれくらいですよ」
こっそり漫画を読んでいたのがバレていた。
俺みたいな奴でも読者なら大切にしてくれるらしい。
佐奈の意外な一面だった。
「まあムカつく所も多いんで、正直チャンスがあれば刺したい気持ちもあります」
「そういえば霊ごと攻撃しようとしていたね」
「怪我させても治療費さえ払えばいいかなぁと」
さりげなく恐ろしい会話をしている。
今後は特に注意しなければ。
美夜子より先に佐奈に殺されてしまいそうだ。
揺れる、揺れる、頭が揺れる。
ずっとふわふわする。
二人の会話にも集中できなくなってきた。
身体がほとんど動かせない。
意識のどこかで痛みを感じている気がするが、よく分からなかった。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
五分か十分か、それとも一時間か。
三十秒と言われれば納得するし、一日と言われても驚きはない。
そんな時間を過ごすうちに車が停止した。
意識が少し浮上し、再び会話が耳に入ってくる。
「あそこが闇医者の診療所だ。中に運び込むぞ」
「了解です」
身体が引っ張られた。
足腰に力が入らないのに無理やり立たされる。
霞む視界を頼りに、両脇から抱えられて俺は歩いていく。
空はもう暗かった。
「うわっ、何ですかこの臭い……腐ってません?」
「そうだね。あと半日もしないうちに全身がドロドロに溶けるだろう。見たいかね」
「ちょっと気になるので放置しますか」
棺崎が「冗談だよ」と呟いたが、佐奈はたぶん本気だろう。
俺の命より知的好奇心を優先しそうだ。
やっぱり早く呪いを解かないと。
前方に四角い建物が見える。
あれがたぶん診療所だ。
棺崎が入り口の鉄扉をノックすると、中で足音がした。
数秒後、鉄扉が開いた。




