本日より天使として働いてもらう
「大切に扱ってくれ」
「……わかりました」
うつむいて、道具をじっと見つめているいるカヤの表情を見て、珍しくピリポが穏やかな口調で言った。
「話してごらん」
「え?」
「何か心のわだかまりがある。違う?」
「……もし私が辞退したら別の人が採用されるんでしょうか」
「そうするしかないな」
といかめしい声で答えたのはノーエルだ。
「もしかして面接に進んだあの三人のことかい?」
とピリポ。
「……はい」
「彼らのうちの誰かに譲りたい。そう思ってるわけだね?」
「その方が世の中のためにはいいんじゃないかなって」
「なぜそう思うのかね?」
「デビーさんが天使になると、この世から悪魔がひとり減ることになります。それに、悪魔はもともと天使だったと聞きました」
「ふむ。ミロクについては?」
「何十億年先の世界より、いまこの世界で人を救った方がいいと思います」
「近藤トキオの場合は?」
「公務員志望だったそうですし、熱心に仕事をすると思います」
しばしの沈黙の後、ピリポが言う。
「で、カヤカヤの場合と彼らとはどう違うわけ?」
「私はまだ中学生です。学校に行っている間は何もできませんし、他の三人よりも力が弱いと思います。選んでいただいたことは嬉しいのですが、あの三人のほうが私よりもずっとふさわしいと思いました」
「ノーエルさん、正解でしたね」
「確かに、彼女で良かった」
とピリポとノーエルは顔を見合わせてうなずく。
「?」
その様子にカヤは戸惑いを覚えた。
「あの……私、何か変なこと言ったでしょうか?」
と、その時、背後から声がかかった。
「ああ、言ったな。優等生過ぎて鳥肌が立ったよ」
「え?」
振り向くと、ベンチにはデビーとミロクとトキオが座っていた。
ミロクとマコトは笑顔でカヤにうなずきかけている。
デビーは仏頂面だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カヤたちは教会奥の応接ルームに通された。
テーブルにはお茶とケーキが用意されている。
そのテーブルを囲んで、ノーエルとピリポ、デビー、ミロク、トキオ、そしてカヤがいる。
「実はさ。誰を採用するかで揉めたんだよね、上の方で」
とピリポがケーキを食べながら言った。
「上の方……ですか?」
「いっそのこと四人とも採用でいいんじゃない……という話も出たんだけど、採用枠はひとりって決まってるからさ。そのへん、融通きかなくてさ」
「おカタイもんね〜、天使界」
とミロクが肩をすくめて言う。
「それで煮詰まってきた時に、ノーエルさんがさ、ひとりを天使にして残り三人をサポート役にしたらどうかって提案してね」
「お。やるじゃん」とデビー。
「私としても優れた人材を手放したくなかったからね。それに、この体制で実績が出たら天使枠が増える可能性も多分にある」
「それはいいこと聞いたぜ」
「それでサポートにまわるなら、フルタイムで動ける三人に務めてもらった方が効率性が高いよね、ということになってさ。カヤカヤが学校や部活で動けない間も情報収集とかできるでしょ?」
「そうですね」
「それに、さっきの謙虚な姿勢も良かったし。好感度増し増し」
カヤは思わずはにかむ。
「というわけでさ、やってくれるかな?」
全員の目がカヤに注がれる。
「みなさんが、それでいいと言うなら」
「決まりだな」
「言っとくけど家来になったわけじゃないからな」
「はい」
「あら。私は家来扱いでいいわよ。なんでも言って」
「僕もです。地縛霊より天使の家来の方がありがたいですよ」
「け。いい子ぶりやがって」
「ひねくれてるよりは、ずっとマシ」
「なんだと!」
「はい、そこまでね。じゃ、カヤカヤ。早速だけど、装着してみようか」
「はい」
カヤは「天使のセット」を手に取る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
再び祭壇前。
祭壇にはノーエルが立ち、その脇にピリポが控えている。
祭壇下にはデビーとミロクとトキオがいて、目の前に立つ新米天使を見ていた。
カヤが真っ白なコスチュームに身を包んでいる。頭には輪っかが輝いていた。
「では、空野カヤ。本日より天使として働いてもらう。報酬は時給850円」
ノーエルが言い、カヤは「はい」とうなずく。
その瞬間、背中から純白の羽根が広がり、カヤの身体がふわりと浮いた。
ステンドグラスから陽の光が注ぎ込んでいる。
こんにちは。作者です。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
続いて『天使は、時給で。II 白い羽根をつけた美女子中学生は可憐な後輩を救えるか?』を更新していきますので、そちらもよろしければ。
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