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屈辱の祝会

 これを境にして、しゃしゃ丸の尊大な態度が一層大きくなった。梅雨のシトシトした雨が続いている中、しゃしゃ丸のために一門だけの祝会に出なければならない事は耐え難い屈辱であった。


 しかし、祝会を欠席することもできなかった。これは御金持一門にいる者としての義務だと何度も己に言い聞かせて、祝会に顔を出した。


「おや、南風兄さん、これはわざわざありがとうございます。今回はさぞ悔しい思いをされただろうに、広いお心で私の受賞を祝って頂き、本当にうれしく思います」


 祝会に行くとしゃしゃ丸が憎たらしい顔をして、皮肉たっぷりの嫌みを言うのであった。僕が嫌々この会に出てきたことを知っているくせに…。本当に嫌な奴だ。先生や兄さん・姉さんの前では仰々しく猫をかぶっている。


 本当は三人のことすらも自分が頂点を極めるための踏み台としか思っていないくせに、しゃしゃ丸はもちろんのこと、彼にだまされている三人も嫌になりそうだった。


「今日は本当にありがとうございます。最後にもう一つお伝えしたいことがあります。私、轟正夫はこの受賞を機に五年間付き合ってきた彼女と結婚することを決意致しました。彼女は高校時代からの付き合いで、彼女のおなかには三か月の子供がいます。今回、最高の形で結婚できることをうれしく思います。」


 もし、受賞してなかったらただのできちゃった婚なのに、うまいこと粉飾しましたね…といつもの仕返しに言ってやりたかった。でも、それは公平じゃない。小説で受けた屈辱は小説で返すべきだろう。


 兄さんや姉さんは彼を祝ってやろうと二次会に行こうと言い出した。僕は体調が悪いと言って、二次会を断った。すると、先生も飲み過ぎたようだと言って二次会を断っていた。


 結局、二次会は三人で言ってしまった。それにしてもしゃしゃ丸はどうしようもないほど嫌な奴だ。僕が全てを犠牲にしてまで目指しているモノを軽々と手に入れた。つまり、才能ある者がいいところをすべて持っていってしまうと言うことか…。


 じゃあ、僕のやってきたことは一体なんだ。才能がない奴が全てを犠牲にしたところで、それはただの悪あがきにすぎないのか?


 しかも、ほとんど何も犠牲にすることなく…。僕の小説に捧げた約二十年間をあいつはそこらへんにいる虫けらのように簡単に踏みつぶす…。強者に弱者の痛みや苦痛は分かるまい。だから、平気で弱者を踏みつぶせるのだ。


 それが強者になることだと言うなら、僕はずっと弱者のままでいい…。きれいごとかもしれないけど、もしこの先、強者になれたとしても、弱者の心だけは忘れずにいたい。


「越前、本当に気分が悪いのか? もし、そうでないなら二人で一緒に飲まないか?」


 いろいろ考えながら一人で歩いていると先生が肩をポンと叩きながら、僕を飲みに誘ってくれた。なんだ、先生もあの飲み会が苦痛だったのか…。


「先生もあの飲み会が苦痛でしたか…。では一緒に飲みましょう」


 先生は黙って頷いた。そして、今日は行きつけの店に連れていってやるなんて言いながら、慣れた手つきでタクシーを捕まえた。

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