文学界新人賞最終選考通過
しゃしゃ丸との一件以来、僕は彼とほとんど話をせずに仕事を進めた。仕事場で彼と会うことをのぞけば、地方新聞の連載も官能小説の連載も楽しかった。
新しく始めた青年コミックへの原作提供では自分の書いた官能小説がこんなに生々しい絵に変わることに驚かされた。マンガになるとまた小説にない世界が広がる。
僕は小説で表現する事にあまりにもこだわり過ぎていたのかもしれない。自分の表現したい事が読者に伝わるなら、マンガでもドラマでも演劇でも、別に何でもよかったのだ。問題は中身である。売れてもないのくせに、表現技法なんかにこだわっている場合ではない。
もともと、あまり好きでなかった官能小説の仕事だったが、少しずつその楽しさがわかるようになってきた。そう言えば、大学時代にある教授が「仕事なんて始めはつまらない。慣れてきて初めてその楽しさがわかる」って言ってたっけ。
桜が散り、緑が少しずつ深さを増していく頃、珍しく先生が早い時間に戻ってきた。とても改まった顔をして、しゃしゃ丸と僕を呼んだ。
「二人ともおめでとう。大衆文学賞の三次選考に二人とも残ったんだよ。三次選考に残った四作品が五月二五日の最終選考の対象となり、この中から新人賞が選ばれる。後で連絡があると思うが、二人は大文社に写真と受賞の言葉をゴールデンウィーク明けまでに提出しなくてはいかん。それにしてもよく頑張ったな」
「はい、ありがとうございます」
犬猿の仲の二人が珍しく声を合わせてしまったものだから、僕はすごくバツが悪かった。それは彼も同じであった。
しかし、そんなことはどうでもよかった。先生の弟子になってから早二年。ようやくここまで来たという思いがした。しかし、しゃしゃ丸だけが受賞して、僕が落選したら…。
しかし、運命というのは実に残酷で皮肉に満ちている。五月二六日の新人賞受賞者発表で車車車の「校則が邪魔をする」と香山真理「干物女を笑うな」の二作品が選ばれたことを知った。
僕にとって一番恐れたことが起きてしまった。二作品については大衆文学新人賞受賞作として華々しく掲載されるし、授賞式も盛大に行われる。授賞式では記念盾と副賞百万円と名誉を受け取る。
ちなみに選外の二作品は大衆文学誌の誌面に急な空きが出たときや増刊号の一部として使われる。選外だと全く使ってくれない出版社もあるから、それを考えればかなり恵まれていると言える。しかし、いつ使われるかはわからない。完全に出版社のさじ加減一つで決まる。




