第37話「バールさんの配信は続く」
怪獣を倒してから、二週間が過ぎた。
テレビ出演、講演、海外からの依頼。僕宛ての話は、今もDDPへ毎日届いている。
「勇者様。今日も仕事だぞ」
デスDがカメラを渡してきた。
「その呼び方やめてください」
「国が認めた正式な肩書だろ」
「バールさんでいいです」
「そっちはいいんだ」
萌は学校帰りにスタジオへ来ていた。ティアはいつもの小さな姿で僕の隣にいる。
「今日は普通のダンジョンなんじゃろうな?」
「お前が何もしなきゃ普通で終わるよ」
「なんじゃと!」
アイが僕の袖を軽く引いた。
「悠、カメラ。始まるよ」
「うん」
温泉旅行のあと、アイとの距離は少し近くなった。
でも、配信が始まればいつものアイだ。
「みなさん、こんばんは! 今日もアイのダンジョン配信、始まるよー!」
『勇者きた』
『国家公認カメラマン』
『カメラマンが日本最強なの意味わからん』
『バール様ー!』
「今日は初心に戻って、普通のダンジョンを安全に攻略します!」
『普通とは』
『メンバーを見直せ』
浅い階層を進み、小さな魔獣を倒す。
ティアが先へ行きすぎればアイが止め、僕が近づきすぎれば萌のホイッスルが鳴った。デスDは危険な位置を選び、椿さんからは「安全に」とメッセージが届いている。
世界を救ったあとも、やることはあまり変わらなかった。
やがて、通路を大きな瓦礫が塞いでいた。
「迂回路は?」
「ないみたい」
アイが地図を確認する。
「悠。これ、どうする?」
僕は腰のエクスカリバールを見る。
「バール様」
『なんである』
「これ、壊せる?」
『無論である!』
一度、殴った。
瓦礫だけでなく、通路の先まできれいに開いた。
「壊しすぎだ馬鹿!!」
『知ってた』
『バールさん強すぎるだろ』
『いつもの』
『おかえり』
「通れるようにはなりました」
「そういう問題じゃねえ!」
アイが笑い、ティアも笑った。萌はいつものジト目で、もう一度ホイッスルを鳴らした。
その日の配信も、最後まで大勢の人が見ていた。
僕の人生は、たしかにずいぶん変わった。
元勇者から、カメラマンになった。
バールさんと呼ばれ、今度はこの世界の勇者になった。
それでも明日もカメラを持って、みんなとダンジョンへ行く。
配信が終わると、僕は朝霞の家へ帰った。
玄関を開けると、先に戻っていた萌の声がする。
「おかえり、お兄ちゃん」
僕は靴を脱ぎ、家の中へ入った。
「ただいま」
**完**
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。『バールさん』第一部、これにて完結です。
最終話で大切にしたのは、国家公認勇者になっても悠たちの日常を変えすぎないことでした。世界を救ったあとに挑むのは、普通のダンジョンにある普通の瓦礫。そして当然のように壊しすぎて、デスDに怒鳴られます。第1話と同じ配信開始の言葉、「これ、壊せる?」「無論である!」という原点の掛け合い、コメント欄の『おかえり』を重ね、最後は萌の待つ家へ帰る「ただいま」で締めました。
企画、設定、展開、改稿と最終判断は人間が担当し、OpenAI Codexには資料整理、整合性確認、構成検討、本文初稿の生成を手伝ってもらいました。人間とAIで何度も直しながら走った全三十七話です。
バールさんの配信は、これからも続きます。




