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この……大うつけがぁ!!
っと、すいません。
ちょっと今回の話を読んでいて、そう言いたくなっただけです。
ということで、第二話九部、お楽しみくださいませ。
なぜか夕食を細江さんの班と一緒に食べることになった。やっぱりというか、なんというべきか、細江さんの班の料理もカレーだった。
「だって楽でしょ。カレー」
「確かに簡単だけどな」
会話をする相手はほぼ固定されていて、ぼくと細江さん、リゼと細江さんの班の女子、夏樹と灰谷という構成だった。
夏樹と灰谷は相性がいいのだろうか。
「オレの牙に噛まれたいのか? そう言ってるのか?」
どうもそうでもないのかもしれない。灰谷は夏樹をひっぱたきながらそんなことを言っていた。
「そういえば平野くんとリゼちゃんって別の部屋に別れて住まないの?」
「へ?」
「へ? じゃないよ」
細江さんは指先をぼくにむけ、まるで子どもを叱るような目をぼくに向けた。案外、本当にぼくを叱っているのかもしれない。
「だっていくらリゼちゃんが吸血鬼で千歳を超えてるって言っても、外見的にも精神的にもわたしたちと同じくらいだし。わたしたちまだ学生だし。間違いがおきちゃまずいでしょ」
あー、あー、あー。
よく考えてみればそうだよな。ちょっと不自然な気もする。
「そりゃ、平野くんとリゼちゃんが出会った出会い方を考えれば、最初のうちは一緒に住むのもうなずけるけどさ、生活もかなり落ち着いてきてるのにまだ一緒っていうのはね」
呆れているような、そんな顔。
「そういえば一階の黒木さんの部屋の隣空いてたかな」
「そこに入るように手続きしたら? どうせもうアパートの人みんな知ってるんでしょ?」
「そうだな。これが終わって部屋に戻ったら話してみるよ」
「そうだね。そのほうがいいよ」
ぼくが納得したのがそれほどうれしかったのか、細江さんは笑顔でうなずいた。機嫌も心なしか良くなっているように思う。
「細江さんは委員長って感じだな」
「え? いきなりなに?」
「いや、なんとなくそう思っただけ。もしかして中学のときとか委員長やってたりしたのか?」
「してないよ。わたしは高校デビューしたタイプの人だから。中学の頃はね、もっと大人しかったんだよ」
夏樹と一緒にいるぼくにしてみれば、今の細江さんも十分大人しいのだけど。まあ、言いたいことはわかる。クラスで一人はいる、休み時間には本を読んで過ごすような、そんな子だったのだろう。
「当たらずとも遠からず。本を読んでたんじゃなくて、ずっと空見てた」
読書とかしてそうだな、と思っていたのに。
「空?」
「そう、空。空見ながらね、いろんな想像するんだ。色々」
思えば、今でも細江さんはたまに教室の席に座って外を見ていることがある。もしかしたらそれは、中学のころのその習慣がまだ抜けていないのかもしれない。
「そ。まだやっぱり、ね」
そう言って顔を赤くさせる。
「想像って例えば?」
「え? あー、うん、そりゃ、とっても幸せな想像」
「教えてくれよ」
「ご想像にお任せします」
想像している内容を想像するなんて、それこそ夢のような話だ。そんなことできるはずがない。
それ以上何も聞かないことにした。これでも諦めは早い。
「中学生の子と何話してるのかな?」
夕食を食べる場所は、なんと中学生も高校生も同じで、同じ場所で食べている生徒も多い。ぼくたちはそういう場所からは離れて座っているので、近くに中学生はいない。
「さあな。先輩ぶって……先輩っちゃあ先輩だけど、先輩ぶっていろいろ講釈たれてんじゃないか?」
「ありそうだね」
「逆にやりこまれてたりな」
「それはどうかな?」
なさそうだけど、絶対ないと断言もできない。
中学生の多くは高校生相手に緊張し、小さくなっているけれど、中にはそんな緊張などないように、むしろ伸び伸びとしている中学生もいる。
「わたしなら緊張して萎縮しちゃうけどな」
「ぼくもかな。こういう場はあまり好きじゃない」
「うん。そういう雰囲気だしてるよ」
くすくすと笑いながらぼくの額を小突く。
「お互い様だろ?」
「そだね」
困った顔で細江さんはうなずいた。
「ってことは、あれか? 灰谷、お前やっぱり女なのか?」
「噛み砕くぞ」
……まだやってるのか。
というか、灰谷がそう言ったら全然冗談に聞えないから困る。
リゼのほうを見てみると、楽しそうに話をしていた。言っている内容はあまりよくわからなかったけど。
「気になる?」
「そりゃまあ」
「ふうん。……ねぇねぇ」
一気に声の大きさが小さくなる。
「なんだよ」
「やっぱりリゼちゃんのこと、好きだったりするの?」
「なっ! はあ?」
「照れてる照れてる」
細江さんがくすくすと笑う。
それは小学生のような無邪気な笑顔だった。
でも、ぼくはその質問に対する答えは決まっていなくて。
「わからん」
「わからんって?」
「そうかな? って思ったときもあるけど、やっぱり違うと思い直すんだ、いつも。なんだろうな。そういう感情は持ってないよ。多分」
「曖昧だね」
「自分がわからないんだから仕方ないだろ?」
「じゃあ、わたしは?」
「…………はあ?」
「はあ? じゃないでしょ」
「君がいきなり変な質問するからだ」
むー、と細江さんはすねたように頬を膨らませた。
「子どもっぽい」
「子どもだもん」
「お互いな」
「そだね」
なぜか気まずい沈黙。隣で話している夏樹たちの声が遠く感じる。
まるでぼくが本当に告白されたような、そんな錯覚を覚える。
細江さんも、どうぼくに言葉をかければいいのか悩んでいるのだろう。何かを言いかけてはやめて、それを何度も繰り返していた。
「そろそろ片付け始めろよー」
先生がそう声を上げる。
それにはじかれたように、ぼくたちは動き出し、後片付けに取りかかった。
今のうちにさっきのことは忘れてしまおう。




