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【プロローグ】第四十話 大家の日常

 

......もうこんな時間か。


パソコンでとある作業していた私は、ふと目を時計に向けた。そして、5時半を示していた。


そろそろ三月も帰ってくるだろうし、買い出しにでも出掛けるか......。


ヌンチャクと一緒に混ざった服の山を漁り、その中にあったエプロンを着付け、まるで主婦のような服装をした。


そして肩下げバックを肩に背負い、卯月商店街へと向かっていった。



「──あっついな......」



当たり前だ、もう七月だぞ。こんな黒パーカー着ている奴の方がおかしいだろ......と自分ツッコミを入れながらも、パーカーの袖を捲り、足を動かした。




「あら花ちゃん、今からお買い物?」




声がした方へ顔を向けると、未熟なトマトに水をまいているおばさんが、挨拶をしてきたみたいだった。




「うん。あ、なんか買ってくるものあるか?」


「大丈夫よ、特にないわ。じゃあ気をつけて行ってらっしゃい」




おばさんに手を振られ、私も振り返し、また商店街へと足を動かした。


おばさんは、今、三月の部屋にあるタンスを譲ってくださった人なので、恩を返そうと思って、いつもこのように話しているのだ。



あ、いっけね。今日は大根の特売日じゃん。急がなきゃ。







スーパーに着いて、一番最初に目に入ったのは、大量の大根を求めた主婦だった。




「大根はまだ大量にありますので、押さないでくださーい!!」




若い女性店員はメガホンを使ってまで、主婦達に叫んでいるが、そんな店員の思いは届かず、踏んだり蹴ったりの状態が続いた。



取り敢えず、この人混みをどう攻略するかだな......よし、ルートは決まった。


最初にキュウリが置いてある所を目指し、次に対角線上の豆腐コーナーへ向かい、そして大根売り場の傍に行って獲得......という流れで行こう。



早速実践して、順調に進み、思惑通り大根売り場の傍まで辿り着くことが出来た。



よし、あとは手を伸ばして、大根を掴むだけ......はっ!?




「へへへ、若者よ、詰めが甘い」




私が狙っていた大根を横取りされ、婆さんが私にそう言ってきた。



「おい、それは私が狙っていた大根だぞ、返せ」


「狙っていただって? 笑わせてくれる。強奪戦にそんなルールはないんだよ。...... まあ流石に可哀想かね。ほれ、一本やるわ」



どうやら婆さんは、大根を二本手に入れたみたいだった。なんだこいつ......まあ、一本だけでも手に入っだけいいか......。






今日の献立は何にしようか。大根おろしに合うものと言ったら......鮭かな。


そういえば、この前三月に饅頭あげたら喜んでたな。また買ってやるか。



ボーッとそんな事考えながら歩いてると、私の持っていたカゴが、他の客のカゴに当たってしまったようだった。



「あ、すみません......なんだ、堂桜子(とおこ)か」









「いい? 季節の変わり目なんだから長袖パーカーなんか着るのやめてよ? じゃあ、お邪魔しましたー」





今日も堂桜子が私の家に来たので、ご飯をご馳走してあげた。私は別に迷惑とか思ってないけどな。





「あ、あの大家さん? い、一緒にお風呂入りませんか?」





 あ、そうそう。大体堂桜子が遊びに来る日は、私の昔話を聞こうと、私の部屋に上がってくるのだ。正直これはあまりよろしくないと思う。




「ああ、入ろうか。なんだ三月、さっきテレビでやっていた怖い話でも見て怖くなっちゃったのか?」


「ち、違います! 私は怖い話なんか平気です!」


「ほう。じゃあこんな話知ってるか? ちょうどこの時期、深夜に山奥の竹林に来た三人組が......」




私はまだ序盤しか話してないに、三月は両耳を手で塞ぎ震えていた。わかりやすい奴だなホント。



「...... ほら! 早く入りましょう! こんな話聞いてたら朝になっちゃいます!」


「まだ九時なんだが......さ、風呂場に来な」




怯える三月の背中を押しながら、風呂場へと誘導してあげた。








どっかで貰ってきた入浴剤を浴槽に入れ、ラベンダーの匂いが充満した風呂場で、三月は極楽湯を楽しんでいた。



「はぁ~......風呂は気持ちいいですねぇ......」


「だな。ちゃんと肩まで浸かって百まで数えるんだぞ」


「大家さん! 私そこまで子供じゃありません! もう......」




三月は私の冗談で不機嫌になって、湯船に口を沈めてぶくぶくと泡を吹いた。三月の年齢が分からないから、どんな対応して良いのかわかんねぇよ......。




「......大家さん、明日私にオムライスの作り方を教えてください」


「唐突だなおい。まあ別にいいけどよ......咲ちゃんに手料理を食べさせたいのか?」


「んっ............」





あれ、図星だなこりゃ。暑いせいなのかわからないが、顔が真っ赤っかだ。



男にもてなす料理の一品くらい作っておきたいのか。なるほどな。





「......三月は咲ちゃんの事が好きなのか?」


「すすすす好きな訳ないじゃないですか!! あくまでも私の記憶探しの協力者です!!」




あー......好きなんだな。いつものこの誤魔化し方だもんな。









風呂から上がり、バスタオルで身体中に付着した水滴を拭き取り、私らは寝間着に着替えた。三月はテレビを見ながらくつろいでた。




「ほら、ドライヤーで髪の毛乾かさないと風邪引くぞ。頭貸しな」


「あ、ありがとうございます。......大家さんの乾かし方、とっても気持ちいいです......」


「そうか、ありがとな。......前から思ってたけどよ、もうこうやって髪を乾かすまでの仲なんだから、敬語なんて使わなくたっていいんだぞ?」


「無理して使ってる訳じゃありませんよ。この話し方は、私の個性なんですから。大家さんだって、~だぞ、とか男性のような口調じゃないですか。それも個性でしょ?」


「そ、そうだな......」




 これは個性っつーより、なんというか......違うんだよな。この口調は昔からだった、って訳じゃないし、ある人の影響......なのか?




「あつっ! 大家さん一点に集中させすぎです!」


「あああ! す、すまん......三月の髪は綺麗でいいな」




 私が手をブラシの様にして髪をとかすと、三月の髪はさらさらだと指が感じた。私はいつもボサボサとした髪だから、こんな美しい髪は羨ましいと思う。




「えへへ、ありがとうございます」


「......よし終わり。自分の部屋から早く布団持ってきな」


「へっ!? な、なんで、私が今日ここで寝るつもりだったことを知ってたんです......か?」


「一人で風呂も入れない奴が、一人で寝れると思わないからな。普通だろ?」


「は、はい......速攻で取ってきます!」




 

 バタン! と大きな音を出しながら、三月は部屋を飛び出していった。素直になればいいのに......。





                     ※





 くぅ、くぅ......と寝息を立てている三月の隣で、私はさっきのパソコン作業の続きをやっていた。暗い中でパソコンを使うのは目に負担がかかるな。でも、今日中にやらなくちゃいけないし、仕方ないんだが。



 明日は三月もオフだし、昼近くまで寝てられるな。いや、月魄も行かなくちゃな......まだ私の今やっている事は、月魄の皆には言わないでおこう。それがいい。




 さて、早く終わらせるか......そして、何の変哲もない、私の一日が終わっていくのだった。

 




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