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第三十話 気そらしデート

 改めて、夏音市滞在二日目、今日も張り切って三月の記憶を戻すために頑張ろう!!...... と行きたい所だが、既に手がかりがゼロになってしまったので、打つ手がない。このまま帰ってもいいと思ったが、折角都会に来たんだし勿体ないから、もう少しだけ夏音市で情報採取を始めることにした。あくまでも、情報採取じょうほうさいしゅだからね!




「じゃあ、私と大家さんと白月さんはまた、色々な店とかを回ってみます。ホントは咲斗くんと行きたかったですが......」


「三月、それは言わない約束だろ。また一緒に来る機会なんてあるじゃねえか。だから、今日は私達と行動するんだ」


「わかりましたよ...... 愛佳さんに悪戯いたずらしないでくださいね」




 悲しい顔をしながらも、三月は見送りの言葉を俺にくれた。ごめんな三月、今日だけは我慢してくれ。 




「それじゃあ、また三時間後にレストランに集合で。解散!」




亮太くんの合図で、二グループに別れての行動が始まった。今日の愛佳は、無地の白Tシャツに、膝まで伸びているスカート、決めつけの黒キャップを被り、いつも以上にオシャレをして、まるでデートと言わんばかりの格好だった。




「ん? 何ジロジロ見てるの? そんなに私が綺麗?」


「う、うん。昨日とは全く違うから...... 何で今日は俺と一緒に行動したいなんて言うんだ?」


「えっ、そ、それはだね......今日はなんか柳水くんと一緒に居たいんだー!えいえい!」




 愛佳は何かを誤魔化すように、俺の腹を人差し指で突っついてきた。




「おいおい...... 本当に急にどうしたんだ?」


「二人だけでも、たまにはいいでしょ? そうだ! ゲームセンターでも行こうよ!!」


「え? ああ、そうだ......」




女子からゲームセンターに行こうなんて誘われたのは初めてだな...... この様子だと、夜這いされたと勘違いした事件とはまた別の匂いがする......。






ホテルの近くにあったゲームセンターに行くと、やはり最新のゲームばかり置いてあった。ショットはレトロゲームを主に稼働しているから、俺らにとっては新鮮だった。




 女子とゲームセンターに来たものだから、プリクラやクレーンゲームでもやって楽しむのかと思ったけど、意外にも愛佳は、真っ先に格闘ゲームコーナーへ走って行ったのだ。それも、ショットにも置いてある比較的新しい物だ。




「隙ありっ! 上上右下右上上下左回転上下左回転!!」


「うわっ! なんだそのコンボ技!? あっという間にゲームオーバーだ......」




 意外にも、彼女の格ゲーの腕前はプロ並であった。一時期俺も竜騎と一緒に格ゲーにハマっていた時期があったが、それは本当に一時期の事で、すぐに飽きてしまった。だが、久しぶりにやってみると、体の奥から昔の経験を基にした力が手に伝わってきて、それをパワーにコントローラーを握ってキャラを操作することが出来るのだ。だが、それでも負けてしまったのだ。




「えっへへー。私、こういうの好きなんだ。ていうか、私がプレイしていたの見た事なかったっけ?」


「あ、そう言えばショットでやってたよな。...... なあ、なんで腕を掴んでるんだ?」


「...... たまにはありのままの柳水くんも見てみたいなぁって思って。それっ!」


「うわぁ! な、何するん...... 何するの愛佳!? 」




愛佳の目的は、俺の腕を掴んで、コミュバンを引っこ抜く事だったみたいだ。見事俺は策略にかかって、俺はまともに話す事が出来なくなってしまった。




「こ、これじゃあ俺、会話なんて出来ない...... 頼むから返してよ......」


「あっ! ...... いいよ」


「え、いいの?」




予想していた事とは違う言葉が出てきて、俺は逆に許可をとってしまった。そして、愛佳は俺の腕を掴んで、左手にコミュバンを付けてくてた。




「はぁ、助かった...... 急にコミュバン取るなんてどうしたんだ?」




俺が尋ねると、何だか愛佳の顔がだんだん暗くなっていった。




「...... 実はね、今日昔の頃の夢を見たんだ。私には親友がいてね、いつも仲良くしていたんだ。昔は、コミュバン無しの柳水くんみたいだったな。だから、ちょっと意地悪してみたくなっちゃって......」




親友? もしかして、亮太くんが言っていた幼なじみの事かな? それに、「レ」という名前から始まる人でもあるのだろう。




「この格ゲーも、昔あいつとよく遊んでいたんだ。でもある日、家庭の事情で、あいつは間違った選択を選んじゃったんだ。今もまだその道を歩んでいるけど、私は何とかしようと思って、試行錯誤してるんだ。だけど......」




愛佳は突然、黒キャップを目深にかぶり、顔を座っている椅子の方を向いた。そして、椅子には予告もなく、幾つかの水滴が染み込んでいた。




「あいつは...... あいつはどんどん離れて行くんだ...... 私が望まない方向へ...... どんどん進んで行くんだ...... 夢の中でもあいつはどんどん私から離れていく...... どうしよう...... もう昔のあいつは帰って来ないのかな......」




...... そうだったのか。親友は元に戻らないかもしれないという不安を抱えながら、今まで生きてきたんだ。




「なあ、何でそれを俺に隠していたんだ? もっと早く言ってくれたら、すぐに相談に乗れたのにさ?」


「それは...... やっぱりあいつの話になっちゃうな...... あいつは......自分の隠し事は心にしまっておけ...... それじゃあ強くなれないって私に言ってくれて...... だから...... だから私はその言葉を守ってたの...... あいつを少しでも信じられるように......」




 もう愛佳の口から、言葉なんか出なかった。過去の辛い思い出が蘇ってきて、頭がパンクしそうな勢いなのだろう。



「...... だからね、今日は柳水くんと一緒にいて、少しでも寂しい気持ちを紛らわそうとしていたんだ...... ごめんね、こんなワガママ聞いて貰っちゃって......」




 愛佳は残っている力を振り絞り、泣き声混じりに俺に謝って来た。だが、それは違う。




「俺は全然、ワガママじゃないと思うよ」


「...... え?」


「だって、寂しい思いをしてるのなら、誰かと一緒に居たくなるのは当然の事だよ。それに、俺だって今まで寂しい思いをしても、誰も寄り添ってくれなかった。でも、月魄のみんなと出会えたから、色々な感情をぶつけられるようになったんだ。俺だって、誰かといるのを望んでいるから、それはワガママじゃないよ」


「...... 失礼な事言うかもしれないけど...... 本当はコミュバンを付けてるから...... そんな綺麗事が言えるんじゃないの...... ?」


「そんなに疑う? じゃあ、これなーんだ?」


「...... え、コミュバンだよね...... え!?」



きっと愛佳が驚いた訳は、俺の左手がコミュバンを掴んで、ヒラヒラと見せていたからだと思う。いや、確かだろう。




「これが、ありのままの俺の思いだって事の証明だよ。愛佳だって、約束を破ってまで俺に思いを伝えてくれたんだ。そんな時は、コミュバンなんか使わないで、思いを伝えるのは当然だよ」


「...... ごめんなさい。酷いこと言っちゃった......」


「大丈夫。そういう印象を持たせてしまった俺が悪いからさ。そうだ、 何かスイーツでも食べたいな。ほら、愛佳は涙が似合わない、って涼太くんにも言われたんだろ? 愛佳の気持ちが晴れるまで、今日は付き合うよ。ほら、涙拭いてさ、ね?」




愛佳はさっきより晴れた顔をして、瞼に残っていた雫を、左手で拾った。




「...... うんっ!! 行こう行こう!!」




...... 何だか、いつもの立場と逆転しちゃったな。でも、今日は愛佳の寂しさを紛らわすから、たまにはこんなのも良いかもね。






「パンケーキ、美味しかったね!!」


「だね。それに、愛佳が明るくなって、良かった良かった」



パンケーキを食べた俺らは、お腹も心も幸福に満ちていた。



「えへへー。やっぱり甘い物食べると気持ちも甘くなっちゃうかもね。...... ていうか、途中から結構無理してない?」


「...... うん。そろそろコミュバン付けるね。やっぱり、まだ外すのはちょっと早かったかな?」




もう俺の照れゲージがマックスに近くなってしまった。流石に恥ずかしいですね。




「装着...... っと。じゃあ次はどこ行こうか?」


「うーん...... 映画館はどう?」


「映画館か...... いいな。じゃあ早速向かおうか......」






その時だった。急に複数人が俺らの目の前に来て、一瞬にして囲まれてしまった。そして、一人の女子が銃を二つ持って、銃口を俺とサキアイの額に当ててきた。




「お久しぶりね、サキアイ。そして、初めまして、咲・斗くん?」


「...... なんで俺の名前を知ってるんだよ?」


「色々と君の情報はメカニズミカル内め流れてるから、知ってて当然よ。アンタ達は私らに潰される運命なんだから、色々と教えてあげるわ。名前は 筒音  絵亜(つつおと えあ)。私は高牧元幹部の下で従ってた、副幹部..... って所かしら」



高牧の...... そろそろ俺の情報が敵に流れてもおかしくないが...... だが、この女は何で俺らがここに居ると気づいたのだ? まさか昨日のあいつらが!? やっぱほっとかなきゃ良かったじゃん!




「絵亜...... 昼間から堂々と何をするの?」


「銃を見て分からないの? 貴方に潰される前に、先に潰そうと思ったのよ」


「...... 今まで出来た事無いくせに、よくそんな事言えるなあ!! こんな休みまで私達に関わってきやがって!!」



愛佳は突然、ポケットから短刀を取り出し、怒りと共に銃二つを真っ二つに切ってしまった。そして、丸い玉がポロポロと、地面に散らばった。



「...... 高牧と同じ手を使ってくるとか、私の事舐めてるの? 」


「そんな訳ないでしょ? ただの挨拶代わりに決まってるじゃない。本命はこっちよ!! 」


「やばっ! 避けて柳水くん!!」


「うわあ!!」




絵亜は、モーニングスターという、鎖にトゲトゲの鉄球が付いた武器を取り出し、俺らに向かって振り掛かってきた。地面は、その鉄球でめり込んでいた。




「ちっ...... 流石、護身術教室の娘だけあって、そういうのは上手くいくのね......」


「今度はこっちの番...... おらぁ!!」



絵里にやられたお返しに、愛佳は短刀から電流を放った。



「痛っ!! く、 鎖の部分の鉄を利用して、電気を通してきたのね......」


「柳水くん! 今のうちに逃げてみんなを呼んで!! 来るまで私が何とか食い止めるから!!」


「あ、愛佳...... やられるんじゃないぞ!!」


「ふん、こんなやつさっさと倒して、直ぐにあんたも倒してあげるわ!!」




必死に戦う愛佳を残して、俺は戦場から離れた。...... 無事でいてくれよ。



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