第十二話 小屋に到着
崖登りで息を切らすこと3分、少し休憩も挟み、また再開することになった。目的地はもうそこだから、さっきみたいな絶望感は感じない。
「頑張れ三月......あと少しだぞ......」
「さ、咲斗くんこそ頑張ってください......声がヤバいですよ......咲斗くん、あ、あれを見てください!」
三月が指を指した方向へ目を向けると、そこにはまだ普通に使われても良さそうな小屋があった。恐らく......いや、確実に着いた。ここが俺らが捜していた、謎の小屋である。
「や、やっと着いたな。さて、入口はどこだ?」
「あ、ありました。ほら、入ろ」
「待て三月、まだ中に人が住んでいるかもしれないから、一応ノックして入ろう」
俺はノックをした。しかし、1分経っても人の声が聞こえなかった。どうやら、人は住んでいないようだ。ワンチャン不法侵入かもしれないけど、今はそんな事気にせずに侵入を試みた。普段は僕そんなことやりませんから安心してください。
「誰もいないみたいだな。じゃあ入ろっかいでででででで!」
「咲斗くんっ!? 何が起きたんですか!?」
なんとドアノブには、電気が大量に流れていたのだ。俺らみたいなのに侵入されるのを防ぐためにこうしたんだろうけど、これはやりすぎだって......。
「わ、私がやってみます!」
「三月、触っちゃだめだ! ......あれ?」
「──空きましたよ?」
ドアノブは青い光線を浮かび出し、三月は平然とドアを開ける事に成功した。三月には電流が流れなかったのはだろうか? 三月だけに反応してこの電流が解除されたのか? 三月の謎は深まるばかりだ......。
「ほら咲斗くん! 座ってないで早く入りましょ?」
「そ、そうだね」
ドアの向こうには、数々の資料や発明品らしき物が辺りに散らかっていた。電源が付いたままのパソコンや冷蔵庫まである。数日前まで住んでいてもおかしくない環境だ。
「本当にここが......一体いつ頃まで放置されてたのでしょうか?」
「いや、結構最近らしいぞ。ここにある日めくりカレンダーを見てみろ。3月7日でストップしている。少なくともその日には来ているんだろうな、ドヤァ!」
まあ普通に見ても、パソコンは最新型だし、落ちてるポテチも最近のパッケージだし、これくらいの推理は簡単だ。
「いやドヤ顔されても、私だってそれくらい解けますよ......あれ、このモニターに何か書いてあります」
俺は三月が見ているモニターに顔を向けると、
[3月11日、「コミュニティリストバンド」の複製に成功!......でも渡す人とかいないんだよね。後で(【悲報】ワイ、発明品を作ったけど友達いないから使い道なくてワロタwwwwwww)っていうスレ立てておくか。いや、別に友達欲しいとかじゃないから。誰だよツンデレとか言ってる奴、潰すぞ?(謎の圧)]
と、日記のようなものが書かれていた。意外とネット民だったっぽい。俺はスマホを取り出し、実際に検索してそのスレを覗いてみると、
2: Dr 名無し@ダメ人間
トッモいないとか乙wwwww
てか発明品作るなんて無理だおww
3:Dr 名無し@ダメ人間
証拠キボンヌ
4: Dr 名無し@ダメ人間
大体スレ主は何をしたいんだ? 頭おかしいんか?
みたいにズタボロに叩かれていた。悲しい人だなぁ、俺もこの人の事言えないが......。
「もしかしてこの日記は、私がつけているリストバンドの事を指してるんじゃないですか?......ん? 下にさがっていったら謎のアドレスが......ってこれ!」
三月がクリックしたアドレスを開くと、コミュニティリストバンドの説明書のようなものが画面に出てきた。
「これは! まずこのリストバンドの秘密が解明されます! 早く説明書を開いてください!」
「あ、ああ!」
説明書を読むと、こんな事が書いてあった。
(こんなのを読むのは私くらいしかいないと思うけど、万が一の為に説明書をここに記す。
コミュニティリストバンド、通称【コミュバン】製作期間、3か月。
・このリストバンドを装着した者は、私みたいな話すのが苦手な人でも誰でも話せるようになりまーす。逆に話すのが苦手な人からも気軽に話してくれるよ!
・このリストバンドは充電式で、満タンの状態だったら三ヶ月程バッテリーが持つンゴww
・あと副作用として本来)
──と、途中で文字が途切れていた。この後に何かがあったか。それとも面倒になって書くのをやめたか。その真相はわからないが、このコミュニティリストバンドという物の仕組みは大体把握することができた。
「......この人はなんかテンションがおかしいですね。なんかテンション曝上がりな自分がバカみたいです」
「いや、これ多分三月本人が書いたものだと思うんだけど......」
「し、信じません! 私がこんな人と=(イコール)の関係なわけがありません!」
──正直俺だって信じたくない。三月がネトラーだなんて嫌だ。こんな可愛らしい見た目でンゴwwなんて使ってるの想像したら複雑な気持ちになる。で、でもまだ確定はしてない。もしかしたら別の人の書き込みかもしれないし、あくまでも推定だから、違うってことはある......あるよね?
「にしても、これ充電式だったんですね」
「いやそこじゃないでしょ! もっといい事書いてあったでしょ! ていうか三月と気軽に話せるのはこれのおかげなんだよ!?」
「......! そうだったんですね。これのお陰で私は咲斗くんとコミュニケーションをとる事が......先日、オーラがないから話しやすいなんておかしな解釈をしてしまってごめんなさい......」
「ううん! あの時の誤解が解けて良かったよ。ってあれ? パソコンの裏に紙が落ちてる......」
拾ったその紙には、(コミュバン、E-3)と書いてあった。Eとは何なんだ? 辺りをよく見まわしてみると、引き出しにそれぞれの番号が書かれているシールが貼ってあった。
「E列の3番目ってことですね。3番目っと...... あ、ありました! コミュバンとその充電器が3つセットでありました! もしかしたら別の引き出しにも何かあるんじゃないですか?」
「確かにこれだけあれば他の物も......熱っ!」
俺が別の引き出しに手を触れた瞬間、熱々のマグマが指の中に入ったような感覚に襲われた。だが、三月は何事もなく、普通に色々と中身を探していた。三月はOKで、俺は駄目って、どうなっているんだ?
そう疑問に思った瞬間、デスクにとある資料が置いてあることに気づいた。その資料を取ってみると、何やら長々と文章が書かれていた。
【感覚錯覚セキュリティ】
具体的に説明すると、設定された本人以外の者が触れると、五つの感覚のどれかが体内に流れるという仕組みである。直径1mm×1mmのシール型で出来た本製品であるが、コンタクトのように透明になっているため、取り付ける際には充分な注意を払うように。
五つの感覚というのは、一つ、熱の感覚。二つ、電気の感覚。三つ、冷氷の感覚。四つ、切り刻まれの感覚。五つ、つねられるような感覚。この五つの感覚から出来ている。どの感覚になるかは、触れた手相の形で決まる。なので、他の人とは違う感覚を味わってもらうことになる......。
──なるほど。設定された本人というのは三月のことだから、五つの感覚が適用されなかったということか。切り込まれる感覚まではなんとなくわかるけど、つねられる感覚って何? 絶対このなかで一番楽でしょ? というか手相で決まるとかすごいけどなんだそれって感じ。
「......? 咲斗くん、なんで私のことをそんなじっくり見るんですか?」
本当に三月がこれを作ったのだったら、記憶を無くす前までは、相当な頭脳を持っていたのであろう。そんな将来有望な者を無くした世界は本当に可哀そうだ。でも、これだけの成果を修めているのであれば、テレビに出演したりもして世界中に三月の存在が知られているはずであろう。
しかし、このような子は特番でさえ見たことがない。ということは、これらの発明品は秘密に独自で作られたという事になるな。まあ、あんなネトラ―だったら、まともなコミュニケーションがとれるわけがないだろう。独自でやる意味もわかる。
「あれ、A-6の引き出しから謎の物が......」
三月は引き出しから謎の手袋とゴーグルを手に持った。組み合わせ的にはよくわからないが、この二つセットで何らかの機能が発動するのだろう。
「ち、ちょっとそれ貸して......あれ、何の感覚もない。この二つには感覚錯覚セキュリティはついてないみたい」
「? よくわからないですけど、よかったですね」
〈緊急事態発生! 緊急事態発生! 謎の人物が半径百メートル内に侵入してきました! 直ちに備えの準備に取り掛かってください!〉
「うわぁ! 何このアナウンス! 敵!? なんのこと!?」
何の予兆もなく、急にアナウンスが小屋中に鳴り響いた。まだ理解するのに頭が追い付いていないが、これだけはわかる、「危険が近づいてくる」ってことだ。でもでもどうしよう!? こんな状況の時、どうすればいいんだ!?
「さ、咲斗くん! 一旦机の下に隠れましょう!」
「いやいや無理だって! こんな狭いところで隠れる訳にはいかないでしょ! だって一人用だよこれ!? こんな所に入ったら絶対バレるって!」
「じゃあ他に方法はあるんですか!? どうするんですか咲斗くん!?」
──どうしよう。でも何にもしなかったら今のこの状況は何も変わらない。三月を守るのは俺しかいない。俺が何とかしなきゃ。でも一体どうすれば......。いや、これしかない。
「──はぁ、仕方がない。俺がその謎の人物を追っ払ってやる」
「駄目ですよ咲斗くん! 今の咲斗くんが言っても危険な目に会うだけですよ!」
「三月、コミュバンとさっきのゴーグルと手袋を貸してもらうよ。上手く話せないなもしれないし、顔をハッキリ知られないだけいいかもしれないしさ」
俺は机に置いてあるコミュバンとゴーグルを装着した。何だか言葉のリミットが開放されたような気がした。
「話を聞いてください! ──じゃあ咲斗くん、私も行きます! 置いてかないでください!」
「駄目だ、大人しく待機してろ。ここに侵入させないようにしてやる。絶対に帰ってくるから安心しろ。んじゃ、行ってくる」
「── 咲斗くん......」
俺は三月を小屋に置いて、ゴーグルとコミュバン、謎の手袋を身に付け、外へ出た。




