第十一話 山道は本当にキツイです
ここから人間ガイドなしのスマホのガイド便りの登山が始まる。バッテリー消費を防ぐために、モバイルバッテリーの準備もバッチリだ。迷う確率はほぼ無い! いや、まだ完全に迷うわけじゃないからね? まだフラグ立ててないからね?
薄暗い道(っぽい所)を歩き始めると、もうすでに膝から下は草だった。マジの草ね。笑い事じゃない位の草だから。
「......何1人で笑ってるんですか、気持ち悪いです」
「ストレートに言わないで! い、いや、なんか笑えてくるんだよねぇ!」
「はい?」
三月は不審者を見るような目で俺を見てきた。だって草っていったらもうネット用語の方を想像しちゃうじゃん? ワイの世界ではもうそうなってるンゴww
「それにしても、ほんと険しい道ですね。なんでこんな所に建てたんでしょう?」
「やっぱり、バレないようにする為じゃない? なんか見られたらやばい物でもあったりして」
「つ、着く前からそんな不穏な事言わないでください! 一気に不安になってきたじゃないですか!」
そんな冗談を交わしながら、どんどんと山道を進んでいくと、何か遠くで水気があふれてきたような感覚が体中に流れた。
「咲斗くん、ちょっとあっちへ行ってみましょうよ。何かあるかもしれないですよ?」
「完全にルート外だけど......折角来たんだし、行ってみるか!」
*
「わああ! こんなのがあったなんて!」
「すごいな......」
着いた先には、高さ20m位の大きな滝が流れていて、その周りは小さい池が出来ていた。よく夜7時の特番でやってる、パワースポットと呼ばれるような滝だ。夏に来たら涼しいんだろうが、まだ3月だから少しの寒さを感じる。あ、夏は来れないんだったか......。
「咲斗くん咲斗くん! こっちに魚がいますよ! 今日の食料にしましょう!」
「確かにヤマメとかイワナとか美味しそうなのいっぱいいるけど、今日はサバイバルしに来たわけじゃないからさ、また別の機会に取ろうね!」
「はい......」
透明に透き通っている池に泳いでいるから、三月が食べたがる気持ちはとてもわかる。塩焼きにして食べたら最高に美味いだろうなぁ......いやいやいや! 今は違う! この上に俺らは用があるんだ!
俺は誘惑を押し切って、三月に、
「そうだ、空いているペットボトルに池水入れて持って帰ろうよ!」
と言い、早くペットボトル二本分に水を入れ、三月の手を引き、この滝から離れた。
「ああ、咲斗くん! まだここに居たいです! なんで手を引くんですか!? 魚魚魚魚魚あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ごめん三月! 我慢してくれ!!!」
ジタバタする三月を引き、また薄暗い森の中へと入っていった。
*
「もう......咲斗くんの意地悪......」
「しょうがないでしょ、あんなところで時間を潰すわけにはいかないじゃん......」
三月は不貞腐れながら、トボトボと歩いてる。また今度、川とかに連れて行ってあげようかな......。
歩き始めてから三十分後、足がクタクタになった俺らは既に疲れ果てていた。
「はぁ......はぁ......つ、疲れましたね......あ、あそこにちょうどベンチがありますよ。少し休憩していきましょう......」
「ああ、そうだな......」
山道をなめていた。結構急な斜面ばっかり続くし、草やら木やらでいっぱいだった。普段運動しない俺らにとっては地獄そのものだった。本当になんでこんな所に建てたんだよ!
「そうだ、ちょうど十二時を回りましたし、お昼食べましょう。お腹空きましたよね?」
三月は鞄の中から藁で出来た籠を取り出した。中をパカっと開けると、海苔に包まれた米の塊、おにぎりが入っていた。
「うわぁ......! 美味しそうだな! もうお腹ペコペコだよ。じゃあ、頂きます。んぐんぐ......」
「あ、そういえば中身を聞いてくるのを忘れました。一体何が入って......咲斗くん? なんでそんな険しい表情をしてるんですか?」
俺の口内には、少しだけ辛味が歯にしみ込んできた。おにぎりの具でこんな食感がするのってあったっけ? 不思議に思いながら俺の食べているおにぎりをみると......赤い物が入っていた。
「──いや、中にハバネロ入ってたんだけど......ハバネロおにぎりって聞いた事ないよ!」
「いや私だって聞いたことありませんよ!? ていうか本当ですか? まさか全部がハバネロだったりして。ほ、他のおにぎりを割ってみます......いや、全部梅じゃないですか。ってあれ、籠の裏からメモが......」
ひらひらと落ちた、三月が拾ったメモを見ると、
[三月、普通に食べるのもつまらないと思ったから、ロシアンルーレット風にしてみたんだ! ハズレはハバネロだから気をつけてくれよな☆ それじゃあ、ゲームスタート......(イケボ)]
と書いてあった。は、花宮さんはなんてことを。素人だったら即死だぞこんなの。俺は特別な訓練を受けているから大丈夫です。(そんなことしてません)
「それにしても咲斗くんそんなに辛そうに食べてなかったですね。辛いのが好きなんですか?」
「まあね。遠出とかする時、激辛メニューがある店とかによく行くんだ。激辛麻婆豆腐とか大好
物だよ!」
──まあ、俺って美味い物と不味い物の区別ができないんだよね。この前、竜騎に味覚音痴って言われたけど、これとそれって関係するのかなぁ......。
「い、意外ですね、辛いのが好きなんて。何となく甘い物が好きなのかと思ってましたよ」
「人を見かけで見るもんじゃない、ってファントムRも言ってたよ」
「そうですね、ファントムRさんのいう通りです。フフフ、咲斗くんは本当にファントムRさんが好きですね」
「ああ、あの人は本当に凄いよ。動画サイトで稼いだ金で会社を創設するって、前の生配信で言ってたしね」
正直、動画投稿の仕事だけじゃ会社は建てられないだろうから、何かしら別の仕事をやってるんだろうけど、それでも会社を作るなんてすごい勇気いるよな......。そんな思考俺にはないもん。そういう所が好きなんだよな。
「会社......すごい夢ですね」
「だよな。俺も見習わないとな......今のところ、三月はファントムRの事をどう思ってるの?」
「今のところ、ですか......。動画を見てみたのですが、プレイスキルは高いですし、みんなが書き込んだコメントもほとんど読んでくれてますし、乱暴な言葉はあまり使わないですし、ファンが多い理由もわかります」
「そうだよね! そこなんだよねそこ! 三月よくわかってるね!」
「ほ、褒められている気がしますけど、あまりうれしくないです......。まだ第一印象の話ですし、実は裏の顔を持ってたりして......」
い、痛いところを突いてきたな三月は......これは動画配信者に限らず、誰にだって言える事だけど、人々は裏の顔を持っている。表ではいい子で優しい性格を演じていているが、裏ではウザいだのキモイだのと思っている人なんて少なくないんじゃないだろうか。
でも、裏の顔はあってはいけない物ではないと、俺は思う。例えば大人に、「みんなで仲良く喧嘩なく過ごそうね」なんて言われたとする。まずそんなことは不可能だ。喧嘩が起きないなんてまずありえない。対立し合うからこそ、お互いの気持ちがわかるものであろう。
大体喧嘩の起こり方って、お前の意見はおかしい、から始まると思う。自分と違う価値観を持っている人を無くすため、同じ意見に賛同してもらうためにに喧嘩は起こるものだ。では、喧嘩が弱い人だったらどうなる? 自分の意見は中々言いだせずに、心の中に溜めこむことになる。そうしていく内に段々思いが溜まっていって、あいつはウザい、キモイという発想が出てくるんだと思う。
本当に強い人は、思いを隠す事無くストレートにぶつける。弱い人程、裏の顔を作り、裏で陰口を言ったりする。俺は、そう考えている。もちろんファントムRにそんなことはない、と信じているが。
「咲斗くん? 何故山の向こうを見ているんですか?」
「ううん、考え事してただけ。そろそろ食べ終わったし、また再開するか」
「はい。そうしま......まだ大根おろしが残ってますよ?」
「......あ、そうだったね。じゃあ、頂こうか......」
大根おろしを食べて、お腹が満たされた俺らはまた、険しい道へと向かった。
*
それからさらに30分後、俺らの足はまだ止まなかった。途中でクマに合ったりハチに追われたりもしたけど、普通に生きてここまで来れました。でも、目的地にはもう着きそうな距離まで来ていた。
「もうすぐみたいだよ。頑張って」
「はぁ、はぁ、は、はい。もう足がもぎ取れそうです......って、何ですかこれは......」
驚愕している三月の目線を見て見ると、高さ5メートル程の大きな崖があった。まじかよ......こんなの本当に登れるのか? いや、登れる! ここで諦めるなんてもってのほかだ! 勢いだ!
「三月、行くぞ!」
「咲斗くん......あの......その......登るって事は......つまり......」
「どうしたの? もじもじしてないでハッキリ言ってごらん?」
「も、もし私が先に登ったとしたら、後から登る咲斗くんが私の下を......逆に咲斗くんが先に登って後から私が登るとすると、私の上が服の隙間から......咲斗くんの手助けなしじゃいけないからどうしようもないことなのですが......」
──言いたいことはハッキリ伝わった。俺はデリカシーのない男として認められられるところだった。みんなはちゃんと察そうね!
だが、そうなったらどう登ろうか。梯子なんてものは勿論ないし、別のルートも無さそうだ。ときたらさ、新たに作り出す、という手段しか残っていないわけじゃん? どうしようか......。
「三月、こういうのはどうかな? 俺が先に登って、崖の上から三月が登ってこれそうな物を持ってくる。これでいいかな?」
「そうですね。確かにこれが今の最善策だと思います。でも咲斗くん、失礼ですが、崖なんて登れるんですか?」
「登った経験ないけど、実践あるのみだよ! オリャア! ......登れないわ」
そんな少年アニメのように簡単に行くわけがないだろう。恐らくこの状況を軽ーく打破できるのはマ〇〇タウン出身のあの人位しか無理なんじゃないの? 残念だが俺にはそんな運動能力は持ってないからさ。体育の授業真面目にやっときゃよかった......。
「ど、どうするんですか、こうなったら私が......」
「待て三月! まだ他の方法があるはずだ! ここで体力使ったらずっと登れなくなるよ! 鞄に確か......これだ!」
取り出したのは、草刈用の鎌だ。最近区内の草刈会があって、その手伝いで持っていったんだった。それでこの鞄に入れっぱなし、というわけだ。まさかこんなところで役に立つなんて思わなかった。ありがとう、鎌!
「よーし! この鎌で......おお! 結構いける!」
「その調子です! 頑張ってください!」
以外にもスイスイ登れた。何事も道具を使えば簡単になるものだね! ただ、油断禁物だ。やらかして落ちる可能性だってある。充分な注意が必要とされるね。
「あと少し、もう一踏ん張りです!」
「くぅ......あと少し......」
あと一メートル、一生懸命ここまで来たんだ。やらかしはしない! あともう一回刺せば......。
俺は勢いで俺の左足を上に振り上げ、地面へ踏み込んだ。
「咲斗くんすごいです!」
「はぁ、はぁ、自分でも信じられないよ......おっと。こんな事してる場合じゃなかった! 早く何か探さなきゃ!」
「咲斗くん、鎌を落としてください! 私もそれで登ります!」
「無茶だよ! 三月はまだ鎌なんて使いこなせない! 反って怪我するだけだ!」
「そんなこと......! ......あるかもしれません。咲斗くん、一番いいのを頼みます!」
「ああ、任せて!」
俺は辺りを見渡した。至って下と変わらないが、いい物を見つけた。早速それを根本まで引っ張った。そして三月の所へ投げた。
「ツタですか! これだけ太ければ何とか登れそうですね!」
「ちゃんと抑えてるから、踏み外さないように気を付けて!」
「は、はい! では、行きます!」
三月が登り始めると同時に、俺もツタを上げ始めた。そもそも本当にツタなんかで登れるのか? なんて思うだろうけど、今はそういうこと考えちゃ駄目です。疑問に思うなら実際にこういう立場になってみなさい。実践してみてください。
そう考えているうちに、三月は崖の上まであと一メートルの距離まで登り詰めていた。
「あと少しです......ああっ!」
「三月ぅ!!!」
ツタが切れ、三月は一瞬宙を舞った。だが、即座に右手が反射して三月の左手を掴んで、間一髪落ちずに済んだ。
「引き上げるぞ! せいのっふんぬ!」
「んぬぬ......とりゃ! はぁ、はぁ、何とか登れました......」
無事三月も崖の上にたどりつくことが出来た。太いツタでも切れるものは切れるんだね......。まあ何とかなったし、結果オーライってことで。




