みことの秘密
大勢で食べるご飯は格別美味しく感じます。
みるくはさっそくマコの隣を自分の席にすると、皇学園についていろいろ聞いてみました。
「そうやなぁ、いくら術者やいうたかってうちらみたいな生粋の庶民と、宮さんみたいなお姫さまとはあんまり交流とかはないんよ。てか何話してええかようわからんもん。みるくちゃん家はやっぱり先祖代々術者の家系なん?」
「そうみたいなんだけど、私もよくわからないの。守と従兄っていうのも昨日知らされたばかりだしね。私は母と小さなアパートで暮らしてたの。だからこんな大きなお家は初めてなのよ。」
「なんが事情がありそうやなぁ、けどそれやったらうちら仲良くなれそうで良かったわ。」
「うん、ホントは皇学園みたいなお貴族さまがいくような学校は敷居が高いと思ってたから、マコちゃんとあえてホッとしてるの。」
「マコちゃんやのうてマコって呼んで。うちもみるくって呼ぶし。みるく、うちら親友にならへん?」
「良かった、マコ。これからよろしくね。ご飯食べてお風呂をすませたら、パジャマパーティをしましょうよ。みるくとマコ、それにハクとみずちも一緒にね。」
「みるく、僕は?」
みことが聞いてきますが、みるくはスゲなく断りました。
「ダメ、みことは男の子だからね。パジャマパーティは女子限定なの。」
「みこと、オレ達も食後に俊の部屋に集合するぞ。それぞれの能力についてすり合わせをしたいからな。」
守が口を挟みます。
「能力なら女子がいた方がいいじゃん。」
みことはいいますが
「女子には女子の付き合いってのがあんだよ。つべこべいわずに、とにかく来い。」
守に一刀両断されています。
「じゃぁ、マコ、みずち、ハク、1時間後に私の部屋に集合よ。」
みるくが言って夕食は散会となりました。
「みずちさんっていつ拓さんの守護をするようになったんですか?御使いさまが守護する人を決めるんでしょうか?」
みるくはみずちが大人の女性の姿をしているので、丁寧に声をかけました。
「わらわが目覚めてみれば、目の前に光に包まれた存在があったのじゃ。それでわらわは、その者が術者でわらわが守護をあたえるべき相手だとすぐにわかったのじゃ。」
「ふぅん。そんならハクもうちをみつけたのはそんな感じやったん?」
「はい、私は長い眠りについていたんですけど、急に光が溢れてきて目をあけたらそこにまこさまがいらっしゃたんです。」
「へぇ、じゃぁ御使いさまは、私たちに会う前は眠っていたんですね。じゃあみこともそうなのかなぁ。子猫を拾ったとばかり思ってたのに……」
「それはおかしいのう。わらわたちは長い年月を神に仕えし者どもじゃ。わざわざ幼体に変化するなど、お主を揶揄っておったのだろうよ。」
とみずちさまが言えばハクさままで
「私たちは人間と違って輪廻転生する訳じゃないの。もしも身体を維持できないほどのダメージをうけても長い眠りにつくだけだし、記憶だってあるのよ。」
「じゃぁハクさまは、どうしてメイドさんみたいな恰好をしているんですか?昔ってそういうのなかったんじゃぁ……」
「それうちの趣味やねん。ハクは巫女さんみたいな恰好しててんけどメイド服のほうが萌えるやんか。」
マコのいきなりの腐女子発言にドン引きになってしまったみるくはこの件については触ったらいけないと感じて賢明なことに、なにも言いませんでした。
たしかにロリ&獣耳それにメイド服なら萌えに違いありませんしね。
「そやけどみことに関しては確信犯で決定やな。世間知らずのみるくを騙したんちゃうの?」
「そ~かなぁ。みことは私の首を住まいにしてるんだよね。子猫の時にずっと首のところにいて、舐められたとこに痣が出来てるでしょ?痣にキスしたら中に入れるみたいなの。」
まさかの天然発言に、マコも御使いさまも言葉を失いました。
「主も難儀なものに捕まったのう。わらわたちは自分の結界に帰るのに主の力など必要とはせんわ。ホレこのように常に絆が結ばれているでのう。」
みずちさまが霊力を使うと白い紐がみずちさまから拓まで続いているのが見えました。
拓たちが熱心に話し合っています。
みずちさまが手をふるとその絆は直ぐに見えなくなってしまいました。
「じゃぁ、わざわざキスしてたのは、みことの趣味ってわけ?あんのうエロ猫めぇ~!」
みるくが怒りのおたけびをあげましたが、他の三人はやれやれという顔をすると。
「普通気づくやろ。」
「まぁ、まこさま。みるくさまは純真なんですわ。」
「ただのあほうではないのか?」
などと話し合っていましたが、みるくがキッと睨むとあわてて顔を逸らしました。
「けど術者って妖と戦うんでしょう。妖ってそんなにも悪いものなの?」
みるくは父親を妖に殺されたとは聞きましたが、妖もこの世界に生まれ落ちたものならば必ずしも悪い者とはいえないんじゃないかと思っていました。
「お主は面白い子よのう。黒猫が執着するのもわかるわ。確かに妖といえどこの世の理の中にあるもの。そうそう悪と決めつけるものでもない。しかしのう厄介なのは人間の業と言うものじゃ。怒り・嫉み・恨み・憎しみ・それらが妖を変容させてしまうのじゃ。そうなれば祓う以外に道はない。」
あぁやはりとみるくは思いました。
昨日であった人面樹にも悪意などはなかったからです。
まるで幼子のように純粋に人と出会え、自分を見て貰えたことを喜んでいました。
だからこそ人の悪意でいかようにも変化する脆さを持っているのでしょう。
「そんな風に穢れに染まってしまうなんて、妖も随分つらいのでしょうね。」
みるくがそう言えば、みずちとハクは優しいまなざしでみるくを見つめていました。
「みるく、そなたはきっと良い術者になろう。しかし祓う時には情けは禁物じゃ。そなたが惑えば傷つくのはみことじゃ。忘れるでないぞ。」
みずちはそう釘をさすことを忘れませんでした。
「そっかぁ、授業料も生活費もタダやからって喜こんでたんやけど、うちらの仕事は妖を祓うことなんやもんなぁ。やっぱり危険なんか?」
「私のお父さんて人は妖に殺されたんだって。それでお母さんは大津の家から離れて私を育てたの。けど結局みことが私の守護者になったのね。それで大津に戻されたって訳なんだけど、危険なのには違いないわ。」
「そうか、高津守人が主の父親じゃの。よう似ておるのう。魂の輝きがそっくりじゃ。」
「高津守人さま……それではあの時封印を施したお方の娘さんなのですね。」
「お父さんを知っているの?」
「優秀な術者であったわ。そうかそれでみことが……みことが幼体を取るのは本来ならまだ目覚めがきていないからじゃ。みことはそなたの父親の守護者じゃった。妖を封じて守人は亡くなったがみことも本体のほとんどを削られている筈じゃ。」
「よほど守人さまに代わってみるくさまを守りたいのでしょう。主の体内に結界の入り口を作らなければならないぐらい弱っているというのに……。多分みことは本来の力の十分の一も使えないはずですわ。」
「みるく、大丈夫?」
マコがみるくを気づかわしげに見ています。
「ありがとう、マコ。大丈夫だよ。なんか昨日からびっくりすることが多くて……。お父さんのことを聞いたのも昨日が初めてだしね。あんま実感ないんだぁ。それよかみことの事のほうがショックかなぁ。そんな身体なら、眠って傷をいやせばよいのに……。」
「選んだのはみことじゃ。そなたが気に病む必要はない。じゃがそのような事情ならなおのこと慎重にな。お前を守る為ならみことはきっと無茶をする。われら御使いは存在が消されたら、二度とはこの世界に戻れぬ定めじゃからの。」
「わかったわ。ありがとう。」
みるくはきっとみことを守ってみせると、強く決意するのでした。
その夜いつものようにみことが、みるくの首もとにやってきました。
みるくは優しくみことを迎えたのですが、みことはいきなり子猫の姿から人間に変化するとみるくにつめよりました。
「ねぇ、みるく。どうかしたの。変だね。なにか聞いた?もしかしてみずちあたりがなんか言ったんだね。あいつ、ちょっとばかり年かさだからって礼儀しらずな!」
「怒らないでよ、みこと。たいしたことは聞いてないわ。ただ私のお父さんが高津守人だって言ったら、みことは未だ眠りが必要だって聞いただけなの。みこと、お願いだから無理はしないでね。ずっと私の中で寝てて頂戴。」
「みるく、お前ばかなの。みるくのお父さんが死んだのはオレのせいなんだよ。守護者のくせに術者を守れなかったんだ。なのにみるくを騙して守護者になったんだよ。怒っていいんだよみるく。なんで怒らないのさ。」
「馬鹿なのはみことでしょ。お父さんが死んだのは絶対にみことのせいじゃない。それぐらいわかるよ。だってみことは無理をしてまでここにいてくれるじゃない。ありがとう、みこと。最後までお父さんを守ってくれて。きっとお父さんも感謝してるよ。」
「お前、ホントにお人よしの馬鹿だな。どうしようもねえ甘ちゃんだ。仕方ないからオレが守ってやる。今度こそぜってい守ってやっからな。大船に乗った気でいろよ。」
みことは照れたようにそっぽを向きながら、そういいました。
気のせいかすこし頬を赤いようです。
御使い様でも照れるのでしょうか。
「みこと、かわいい。」
思わずみるくはそうつぶやきました。
「お前、男にかわいいなんていい度胸しているな。これでも可愛いといえるか?」
みことはちょっと意地悪な顔をすると、みるくの首すじにキスをしました。
いつものキスではなくてもっともっと長いキスでしたから、みるくはだんだん恥ずかしくてたまらなくなりました。
みるくが真っ赤な顔になったのを見て、ようやく気分がよくなったらしいみことは
「いいか、もう二度ど、オレのこと可愛いなんて言うなよ。言ったらお仕置きしてやる、いいな。」
みるくがあわててこくこくと頷くと満足そうに、ぺろりと首すじを舐めるとみるくが悲鳴をあげる前に、首の中に入ってしまいました。
「このう~エロ猫めー!」
みるくは枕を投げつけましたが、その相手はすでにみるくの中にいるのでした。