01
構成の走り書きをそのまま載せています。
街中に設置された有線の拡声器からノイズの混じった男の声がけたたましく響く。
『本日の西壁、
島落ち予定は、
■■地区、
10時00分、
小規模の予定です。
近隣住民は、
速やかに退避するよう勧告します。
繰り返します…
放送を聞きながら、室内で慌ただしく準備する人影。
打ち込む杭、身体を支えるロープ、チェック用の簡易電球、配線用ケーブル、分配機……
持って行く物の最終確認をする青年。
頬から顎にかけて傷跡がある。
頭に布を深く巻き、表情は固い。
「全部持ったか?」
一緒に準備していた髭面の大男が青年に問いかける。
「うん。」
応える青年。その表情から緊張が滲み出ている。
「…大丈夫か?」
思わず声を掛ける
「大丈夫。」
少し震えているようだ。
「いいか。無理だと思ったら直ぐにサインを出せ。落ちちまったら終わりだかんな。」
「わかってる。」
「おし。急ぐぞ。」
街中に響く拡声器の声。
『近隣住民は、速やかに退避するよう勧告します。繰り返します。近隣住民は…
~
『ドオオオオオン…
接岸の音。
「よし!運び出せ!!」
港に立方体が到着する。
待機していた港夫が次々に船に乗りこみ、物資を運び出していく。
木箱を台車に載せ、巨大な麻袋を複数人がかりで持ち上げる。
「おら!そこ!ぼやぼやすんな!さっさと運べ!」
腕章をつけた制服姿の男が発破を掛ける。
港は高い柵で囲まれ、関係者以外は入れないようになっている。
柵の外。倒れかかるように柵に身体を預け、食い入るように見つめている人々。
薄汚れた衣服を身に纏い、頬は痩け大きく見開いた眼で、瞬きもせず運び出す物資を凝視している。
座り込む者、横たわり動かなくなった身体。
無言。
「…穀物よし、木材よし、青果よし、鉱石よし…」
先ほどの制服姿が手に持ったリストを読み上げ、運び込んだ物資を確認している。
「…よーし!以上だ!!速やかに計測処に運べ!」
少しの間腰を降ろし休んでいた港夫が立ち上がり、再び重い荷物を運んでいく。
宙に浮かぶ巨大な立方体が組み重なり構成された国。
港に運び込まれた食べ物の殆どが、足場の安定する上面に住む富裕層によって消費され、
資源は北壁にある工場地帯に運ばれ加工される。
中間層・貧困層が暮らす側壁にもたらされるのは僅かな物。
港に隣接する市場。
それらの物品がやり取りされる場所。
港の喧騒が収まる頃、活気だす。
「さあ!見てくんな!入ったばかりの野菜だ!」
「新しい服に布はどうだい!?」
「肉あるよ!さばいたばかりの新鮮な肉だ!」
威勢の良い売り子の声が、拡声器からのアナウンスと混じる。
わずかばかりの金を握りしめ、市場を吟味し歩く人々。
そこかしこで交渉の会話、
おこぼれに預かろうと眼を光らせる家のない浮浪児、虚ろな眼差しで座り込んだ浮浪者。
この国の現状が垣間見える。
喧騒の中に薄汚れたマントで身体を隠し、頭までスッポリと覆った人影が歩いている。
「おい!そこの!」
歩く男に声をかける露天商の店主。
声をかけられた男は立ち止まる。
「そう!あんただよ!兄ちゃん!」
売り文句はそのまま続く。
「どうだい?これ!さっき港から仕入れたばかりの果物だ!旨そうだろう?!」
赤々と色をつけた果実を手に取り、男に問いかける。
「…ああ、旨そうだな。」
顔が見える。若い男。身なりは汚れているが、血色は良く乞食ではないようだ。
「だろ!!?今だったら一つたったの800金だ!どうだい!?」
「そうだな…でもあいにく持ち合わせが無くてよ。」
それを聞くと店主の表情が露骨に変わる。
「っだよ。浮浪者か?あっち行きな!」
「金はないんだけどな。何か代わりになるもの…」
マントをはだけ、腰につけたカバンから布に包まれた小袋を取り出す。
店の果実より一回りほど小さい小袋。
「これはどうだ?」
店主に差し出す。
「なんだよ…」
訝しげに受け取り、布を開く店主。
「こりゃ……、いいもん持ってんじゃないの!」
袋の中身は、
土。
店主、小指を土に付けペロリと舐めて
「へええ。なかなか上質な土じゃないか!これだったら二個はいけるよ!」
「じゃあ、一個でいいぜ。その代わりちょっと聞きたい事があるんだけどよ。」
そのやり取りを見ていた浮浪児の兄弟が、近づいてくる。
「南壁のよりも良さそうだな…」
土の匂いを嗅ぐ店主に、先ほどの鞄から取り出した紙を見せる。
「この男を探しているんだ。知らないか?」
隙を窺う浮浪児が、店主と男を交互に見ている。
その一人、男の持った紙を見て眉を動かす。
「ん?どれどれ…」
男から紙を受け取った店主。
「おおー。あんた、絵上手いなー。」
「いや、それは…まあいいや。そいつ知らないか?」
「うーん、どうだろうなあ。…面白いなこの紙!ペラペラなのにテカテカしてるな!!見た事ねえぞ!!これだったら三個になるな!」
「いや…」
店主の見えない位置から手を伸ばし、軒先の果実を手に取ろうとする浮浪児の兄弟。
「こら!!!てめえら!!なにしてやがる!!」
浮浪児に気が付き怒鳴る店主。
「ッガキ!!あっちいけ!!」
備えていた棒を握り、振り回し蹴散らそうとする。
浮浪児、伸ばしていた手を引っ込め棒の届かない所まで飛び退く。
「おいおい…」
店主が離した紙切れを慌てて手に取り、なだめようとする男。
「お、おれ知ってるよ。」
「え!!?」
男が浮浪児の言葉に思わず声を挙げる。
「うっせ!!商売の邪魔だ!向こう行きな!!」
「何の騒ぎだ!!」
振り返ると、制服を着た男二人が肩を揺らしながら大股で近寄ってくる。
「!マズイ!!」
急にビクつく店主。
制服姿を見た浮浪児が、蜘蛛の子を散らすように人混みに紛れ逃げて行く。
「あ!!待てよ!」
止めようとする男。
「おい!!」
横柄な態度で声を荒げる制服の男。
「なにやってた?」
「いえちょっと浮浪児が店の売りもんに手を出そうとしたもんで…へへ。」
へりくだる店主。
「お前は?」
男に警棒を向け、問いかける。
「なんだ?お前ら…「いやいや、お客さんですよ!」
男が言うより早く店主が声を出す。
「持ち合わせが無かったもんで、物々交換で交渉しようとしてまして!」
「ふうん…」
ジロリと男を見ながら制服姿の一人が果実を無造作に手に取り、そのまま噛り付く。
「あ!!」
「なんだ?」
「あ…いえいえ。美味しい果物でしょう?」
愛想笑いを振りまく店主。
「そうだな。こりゃ美味い。」
さらに2、3個手に取り懐に入れる。
「…」
「ん?」
「…いえいえ!!」
「ふん。騒ぎを起こして手を煩わせるなよ!」
「はい!御苦労さまです!」
「おら!どけ!!」
二人が去って行く。
「…なんだあいつら?」
「あんた!馬鹿か!?あいつらに逆らったら…」
小声で怒鳴る店主。
「なんだよ?」
キョトンとした表情の男。
「ホントに知らないのか…?」
店主、何か勘づき、先ほどの土と男を交互に見て、
「…もしかして………外から来たのかい?」
「ああ。そうだ。」
「こりゃ!驚いた!!」
思わず大声を出し、慌てて口を押さえる店主。
「いやいやいや。どうりで見た事ない物持ってるはずだ…」
感慨深げに男を眺める店主。
「……にしては小汚いが…、まあいい。いいかい?兄ちゃん。」
男に顔を近づけ耳元で話す店主。
「この国じゃ制服姿のあいつらに目を付けられんなよ。ひどい目に合うぞ?」
「あいつらは?」
「この国を治める支配者さまの兵隊さ。気をつけな。…さて、もっと他に珍しい物はないかい?奮発するよ!」
「ああいや…」
浮浪児の言葉を思い出す男。
「急用だ!また今度な!」
浮浪児の後を追うため、その場を去ろうとする。と、
「さっきの土の分、やっぱりもう一個もらっとくぜ!」
合わせて二つを手に取り走り去る。
「ああ、ちょっと!」
「ん?」
「どうした?」
先ほどの兵士が声をあげる。
「ここにいれていたはずだが…」
果実が何時の間にか無くなっている
「どっかに落としたか…?」
市場の外れ、喧騒の届かない建物の影。
食べ物を手に入れられなかった浮浪児がうずくまっている。
腹を減らした弟を気遣う兄。
「おい。」
声を掛けられビクッとする兄弟。
見ると先ほどの男。
「捜したぜ。」
フードを外し顔を見せる。
手に持った果物を差し出す。
「さっきの話、聞かせて欲しいんだけどよ…」
拡声器から響く声。
『本日の西壁、島落ち予定は………




